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非言語コミュニケーション(3)

2006.02.01|映像コミュニケーション このエントリーをはてなブックマークに追加Yahoo!ブックマークに登録この記事をクリップ!BuzzurlにブックマークBuzzurlにブックマーク

 人間のコミュニケーションには、顔の表情、ジェスチャー、うなずき等の動作、音声上の性状と特徴(声の大きさ、テンポ、声の高低、声の抑揚)、対人的空間などが伴い、非言語コミュニケーションとか「ことばならざることば(Nonverbal Language)」と呼ばれていること、他人に感情や態度を伝える場合、顔による感情表現が他の感情表現に比べて最もインパクトが大きいというメラビアンの実験結果などをこれまでに紹介した。少し専門的な表現になるが、音声の性状と特徴等の音声に伴う情報は、周辺言語(パラ・ランゲージ(Paralanguage))と呼ばれている。また顔の表情、うなずきやジェスチャー等の身ぶり、人体の姿勢等の動作的情報は動作学(キニーシクス(kinesics(「動く」という意味のギリシャ語Kineinに由来))という分野で研究されている。また、対人的空間に関する分野は、プロクセミックス(Proxemics)と呼ばれている(近接学、近接空間学とも呼ばれている)。プロクセミックスは視覚的に知覚される空間や距離の問題を研究対象とする。米国の文化人類学者のエドワード.T.ホールは「人間どうしの相互作用において、人間は空間や距離を使い分ける傾向がある」という包括的な仮説を提唱し、人間の空間利用の問題・学説全般をプロクセミックスと呼んだ【1】。その後、プロクセミックスは非言語コミュニケーション、空間デザイン、オフィスデザインの分野等で応用され今日に至っている。本日はこの対人的空間と映像コミュニケーションについて少し触れてみたい。
 マジョリー・F・ヴァーガスは、LOUDER THAN WORDS(邦訳:非言語コミュニケーション(新潮選書))の中で、ホールのプロクセミックス(対人的空間)を次のように紹介している。
私たちは誰でも「個人空間」と称されるいわば空気の保護膜のようなものを身にまとって生活しているのだ。この個人空間は、数多くの要因によって伸び縮みするのだが、この要因の中でもっとも重要なのは、私たちがみずから他の人たちとの間に認める関係の度合いである(【2】pp.147)
 この関係の度合いをホールは四つゾーン(距離帯)に分け分析した。四つのゾーンとは、密接距離(0~約45cm)(intimate distance)、個体距離(45cm~120cm)(personal distance)、社会距離(120cm~360cm)(social distance)、公衆距離(360cm以上)(public distance)である。密接距離には、実際に相手に接触する距離や、相手の体温・におい・息の音等を感じることのできる距離、手で相手の体のどこにでも触れることのできる距離が含まれ、人間と人間が密接な関係にある時の距離帯であると言われている。赤ちゃんを抱いた母親とか、恋人同士とかいろいろな状況がある。一方で例外もあるようで、満員電車の中では互いに乗客は密接な関係ではないが、密接距離のゾーンに体を置いている。これについてホールは「真の密接さを取り除くような防御手段を講ずる。基本的な戦術は、できるだけ動かないことであり、胴体の一部や手足が他の人に触れた時は、できれば引込める(【1】pp.167)」と説明している。密接距離では、相手の顔(目、鼻、唇、舌等)は実物以上に拡大されて見えていて、時にはゆがんで見えていることもあるそうである。次に、個体距離(45cm~120cm)は、立ち話、立食パーティーでの歓談、テーブルを囲んでの家族の食事、小さな会議机を囲んでの議論、バスを待つ時の人の列などにおいて人間と人間が自然にとる間(距離)であり、私的な間合いとも呼ばれている。ホールは「この距離では個人的な関心や関係を議論することが出来る。頭部は正常の大きさで知覚され、相手の表情はこまかいところまではっきりと見てとることができる(【1】pp.170)」と述べている。社会距離(120cm~360cm)は、オフィスの机に座った人間と人間の距離(前後左右)、会議机に座った人間と人間の距離など、主に仕事の場においてよく見かける距離である。この社会距離では、相手の顔は正常もしくは縮小した大きさ(相手の姿全体がゆとりをもった大きさ)で知覚され、ビジネスの話など個人的でない要件はこの社会距離で行われる傾向があることが知られている。四番目の距離帯である公衆距離(360cm以上)は、演説や講演を聴いたりする時の距離で、通常、相手の顔の全体・姿等は知覚できるが、実物よりもかなり小さく見える。この公衆距離では、声の性状は伝達できるが、相手の顔の細かな表情等のことばならざることばは殆ど伝達することは難しいことが知られている。
 このホールのプロクセミックスは、オフィスや住居の空間設計、教室の机の設計など、我々のいろんな生活の場に応用されているが、映像コミュニケーションへの応用についても一つのヒントを与えてくれているように思う。テレビ電話、テレビ会議サービスを考えた場合、その画像のサイズ(VGA(640x480)、CIF(352x288)、QVGA(320×240)、QCIF(176×144)等)と品質には様々なものがある。テレビ会議はビジネスにおいて利用されることが多いので、相手の顔の大きさは社会距離(120cm~360cm)が保持できる大きさと解像度が必要であり、実際そのように実現されている製品が多い。しかし、多人数が参加した会議となると(ディスカッション型、講義型等の会議の性質によるが)、相手の顔の表示に関してはなんらかの工夫が必要になると考える。同様にテレビ電話となると、利用シーン(例えば個人的な関心事について家族と相談する時)によっては社会距離ではなく個体距離を意識した実装が必要ではないだろうか。残念ながら現在利用されている携帯型テレビ会議やソフトフォン型のテレビ電話の一部は端末の性能や通信ネットワーク等の制約はあるにせよ、相手の頭部を正常な大きさで認知でき相手のこまかな表情まではっきりと見てとることができるレベルに至っているとは言えない。まだまだ利用が進まない理由の一つかも知れない。

【参考文献】
【1】Edward T.Hall, The Hidden Dimension Doubleday & Company, NY (1966)(かくれた次元(日高敏隆他訳)、みすず書房(1980))
【2】Marjorie F. Vargas, LOUDER THAN WORDS - An Introduction to Nonverbal Comunication - Iowa Sate University Press(1987)(非言語コミュニケーション(石丸正 訳)、新潮選書(1987))

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