NTTデータが推進するxSP戦略を語る


鰍mTTデータ 取締役
新世代情報サービス事業本部長
宇治 則孝

ソリューションサービスからプラットフォームサービス、さらにはデジタルコンテンツ流通まで、さまざまな情報ネットワークサービスを提供しているNTTデータが、今後はASPなど6種類のサービスプロバイダで構成する「xSP」(x Service Providers)コンセプトに基づきサービス展開すると発表した。そこで、このサービスをとりまとめる宇治本部長に、ビジネス戦略や今後の見通しについて伺った。

1999年と 新世代情報サービス事業本部

―― 1999年を振り返ってみた感想などからお聞かせ下さい。

宇治 1999年は、これだけいろいろなことがあるものかと思うくらい世の中では多くの動きがありました。  インターネットの急激な広がりに加え、iモードなどは、2月にスタートしたばかりなのに、年度末には400万加入を超すとも言われています。これはいわゆるPCを使わずにインターネットを活用する手段としても考えられます。これをきっかけとして新しい携帯PCの普及などに繋がっていく可能性があると思っています。  NTTデータとして見てみると、従来ソフトバンクと展開してきたドリームネットをNTTデータとNTTドコモとが新たに組んで展開することにしました。これは今後、モバイルインターネットの重要性が高くなるであろうことを先取りして行ったわけで、インターネットサービスプロバイダの中でも、非常に特徴のあるプロバイダに位置付けられると思っています。  また、インターネットサービスでは、セキュリティが重要であるという認識が強まってきたことから、NTTデータセキュリティ株式会社を設立して、ネットワークセキュリティビジネスをドライブするようにしました。  当本部では、このようにグループ会社展開を行うとともに(図1)、多くのプロジェクトを仕込みましたので、1999年は忙しい1年でした。


図1 グループ会社を通じたスピーディな事業展開


図1 グループ会社を通じたスピーディな事業展開

新世代情報サービス事業本部 の位置付け

―― 新世代情報サービス事業本部の状況はいかがですか?

宇治 新世代情報サービス事業本部ができて3年目ということで、世の中での認知度も増し、着実に成長してきたと思っています。ただ、インターネット関連の動きがあまりにも激しいことから、より一層がんばっていかなければと思っています。  それと共にNTTデータ社内においては、会社全体のプロジェクトが新世代情報サービス風の動きになってきていることから、他部門との連携で展開していくことも大切であるし、我々が先頭に立って会社全体における新世代分野の仕事を膨らませていくことも重要であると考えています。  今まで展開してきたサービスの利用者数が増えてきていることに加え、サービスメニューも増えています。また、ドリームネットというISPプロジェクトと、その上のECアプリケーションとをインターネット統合サービス「edream」という形で連携させ、より広い意味のネットワークサービスを提供していこうとも考えています。

xSP戦略の背景とねらい

―― コンセプトとして掲げられたxSP戦略とは?

宇治 NTTデータで以前より展開してきたプラットフォームビジネスや、いろいろな形でサービスしてきたものについて大きく形を変えようというわけではありません。  我々はISPをドリームネットという形のインターネットビジネスとして展開してきました。NTTデータとしては、ISP以外の分野でも、我々が自分でリスクを負い、かつ、お客様を集めてサービスを提供していくことにより、我々自身が広い意味でのサービスプロバイダになろうと考えています。これが今後の大きい仕事の進め方のひとつになると思っています。  こうなるとSIビジネスとは違い、我々が仕掛けを作って皆様にお使い下さいという動きになるので、ビジネススキームも先行投資的な面を持ちますし、お客様との関係も異なってくることになりますが、こういったサービスプロバイダ的なビジネスをどんどん展開していこうと考えています。  つまり、いろいろなレベル、さまざまな角度からサービスプロバイディングを行っていこうという意味でxSPと呼ぶことにしました。  現状では、図2に示すセグメントを掲げています。これらの位置付けは、今後の考え方や展開で変わっていくもので、内容が増えていくことも当然想定しています。  これらをすべて包んでxSPと総称すると考えて下さい。

図2 xSP (x Service Provider)ビジネスの展開


図2 xSP (x Service Provider)ビジネスの展開


―― xSPといういろいろなサービスを展開していくには、大きなデータセンタが必要だと思うのですが…。

宇治 我々が今までISPセンタとして使用してきた大手町のセンタを、xSPセンタとして位置付ける予定です。大手町を中心とし、不足であれば、他のビルに広げていきます。  我々は立地条件の良い場所にセンタを持っているので、大容量ネットワークも引き込めますし、大都市のお客様も増えると想定しています。

――他社との競合があると思うのですが、どのようにお考えですか?

宇治 確かに競争の厳しい分野です。 ただ、ネットワークの部分というのは、事業機会は増えても減ることはないと言えます。ハードのウェイトは少なくなっていくかもしれないけれど、ネットワークの要素というのは増えていくでしょうし、インターネットビジネスも増えていくと思われます。  つまり、市場が増える中での競争となるので、椅子取りゲームにはならないし、お互いに一生懸命になることでトータル的にこの世界が広がっていくと思います。  また、NTTデータだけでやっていこうとすること自体無理な話なので、アライアンスが非常に重要だと思っています。セグメントごとにアライアンスする相手は異なりますが、どのようにアライアンスを組んでいくかが重要なポイントになると思っています。

―― サービスプロバイダというのは、全てを用意してあげることになるので、かなり資金力が必要では?

宇治 インターネットビジネスというのは、ビジネスの量に合わせてサーバを増やしたりするので、過去の共同利用型サービスのように最初から膨大な投資を必要とするわけではありませんが、確かに先行投資は必要となります。全てが必ずしも成功するわけではありませんし、その失敗を超える成功もあるわけです。とにかく、先行投資していかなければ進まないと考えていますので、現在100億規模の投資は視野に入れています。  また、たとえ失敗したとしても、そこで積まれた経験が、必ず次のプロジェクトに活かされるはずですから、失敗が無になるとは考えていません。

これからのビジネス戦略

―― 考えられているビジネス戦略とは?

宇治 先ほど述べたように、アライアンス重視でいきます。さらに、必要な先行投資は行いますが、実行してダメと判断された場合は、そのプロジェクトは潔く止めます。  これらを実現するために、経験を積ませて、そういったことができる人材を育てていきます。いわゆるシステム開発を経験するのではなく、ビジネスを推進できるようにすることを目標として、ビジネスプロデュサ−を育成することを考えています。  単なる年度の儲けではなく、売上の伸び率や、世の中での評価、あるいは、何万人が会員になったかというような新たな指標を設けて、判断していこうとしています。  もちろん利益も重視する必要はありますが、インターネットビジネスですから、前年度と比べて"伸び"があること、そして"勢い"をつけていくことが重要視されると考えています。

―― アメリカでは、人気があって株価が急上昇している会社でも、実際は赤字というところが結構ありますよね。つまり、将来性に期待されて株が上がっているのでしょうか。

宇治 そうだと思います。もし、新世代情報サービス事業本部に株式価値がつくとしたら、それは世の中のインターネット事業者と比較してもそこそこの値段がつくと思いますし、つくような努力をしていきたいと思っています。

―― 現在、新世代情報サービス事業本部は、何人くらいの体制で取り組んでおられるのですか?

宇治 400名近くいます。この中期の間に500名規模にする計画です。  この新世代情報サービスのビジネスを加速していくためには、まだまだ人が足りません。外に会社を作ることも含めて、人材補強、中途採用もしていきたいと思っています。体制的にも、ISP推進部やセキュリティ統括部などを作って、xSP戦略のための体制を整えるとともに、本部横断プロジェクトも設置しています(図3)。


図3 新世代情報サービス事業本部の組織構成


  図3 新世代情報サービス事業本部の組織構成

グループ企業展開

―― NTTデータでは、さまざまなグループ企業を擁しておられますが…。

宇治 メインとしての出資を含め(図4参照)、16の会社に出資しています。我々は、NTTデータの新世代という仕事を下請け的に展開する会社ではなく、むしろ外向けにどんどん展開する、あるいは共同ビジネスをしましょうという会社をパートナーとしてジョイントしていますし、今後さらに設立、出資していこうと考えています。

図4  出資戦略


図4  出資戦略


―― この中で、本部長が社長を兼ねておられる会社もありますが…。

宇治 はい。ドリームネットとNTTデータオフィスマートは社長を兼ねています。現実的には別会社として展開していますが、これは、事業部が外にあるという位置付けと考えていることから、私が社長を兼務しています。これからも、どんどん良いプロジェクトを創造、発掘していきたいと考えています。

ドリームネットの展開

―― ドリームネットの特徴はどういうところにありますか?

宇治 ドリームネットは当初、他のISP事業者と同様、有線対応で展開してきましたが、ドコモと連携することで、iモードやmoperaなど無線対応に積極的に展開できるようになりました。今後はさらに放送を加え、放送と無線と有線の口を持って、利用者にとってシームレスにかつメディアポータル的な使い方ができるようにします。   その視点から99年秋に話題になったBSデジタル放送のデータ放送サービスを展開する「日本メディアーク」にもNTTグループの一員として中核的に出資参画することにしています。  さらには、ECサービス、コンテンツとの連携もすすめ、統合的なインターネットサービス「edream」へ発展させようとしています。ですから、非常に可能性を秘めた事業になっていくだろうと思っています。(図4)


図5  xSP-今後の方向性


図5 xSP-今後の方向性


――本日は、どうもありがとうございました。


(聞き手:本誌編集長 黒田幸明)