IP時代の新しいネットワークパラダイム構築に向けて

ノーテルネットワークス株式会社
代表取締役社長 村上憲郎



ノーテルネットワークスは、音声通信、データ通信、インターネ ット用の無線/有線ソリューションを世界中で展開することで、ネ ットワーク産業のリーダーシップを発揮している。ここでは、ノ ーテルネットワークスの社長である村上氏に、自社が目指す未来 のネットワークシステム、ビジネス展開、将来構想について伺っ た。

●これからの10 年で電話もイン ターネットも作り変える

――まずは、社長就任1 年間を振 り返った感想からお願いします。

村上 インターネットという情報通 信の革命期に、直接この分野のビジ ネスに関われて、大変嬉しく思って います。

今はネットワークがまずありきと いう時代です。社会を動かす産業は 電気通信という世界にシフトし、パ ソコンはネットワークの端末として 位置づけられています。 ノーテルネットワークスは創業以 来105 年になりますが、世界のキャ リアさんと一緒に電話用の音声ネッ トワークシステムを100 年がかり で、ここまで作ってきました。それ がここへきて、インターネットに代 表されるデータトラフィックが音声 トラフィックと同量になり、10 年後 には100 倍になると予想されていま す。つまり、100 年がかりで電話用 に作ってきたネットワークシステム を、10 年でデータ用に作り変えると いう時期です。 この革命的な時期に、縁がありネ ットワークの仕事に就けて、自分の 人生のこれからの10 年が非常に楽 しみです。

●自社の部門売却、優良企業の 買収によりIP シフトを加速

――会社の状況についてお話しく ださい。

村上ポジティブな意味でリストラ クチャリングを進めています。世界 で上から3 番目までに入っている事 業部門はそのまま継続すべきだけれ ど、残念ながらそのレベルに達して いないものは、1 番から3 番をやれ るところに任してしまった方が3 方 全部得なんだということを、GE の ウェルズさんが提唱していますが、 ノーテルネットワークスCEO のジ ョン・ロスもまた同様に考え、実践 しています。

たとえば、電子機器には電源があ りますが、ノーテルネットワークス も御多分に洩れず、電源技術を延々 やっていました。一方、外部の協力 会社さんから購入するものも結構な 量になってきていました。そうした 時に、外部の電源の方が、自社のよ りも優れていることが、ベンチマー クの結果ではっきりしました。その ため、電源部分を協力会社さんに部 門売却しました。

協力会社さんは事業規模が大きく なり、ノーテルネットワークスには そこから安くていいものが手に入り、 お客さんにはより安くてより良いも のを提供できることになりました。 部門売却なり縮小をしながら、そ れによって余った経営資源を私たち の注力するテクノロジーに、すなわ ちIP 分野に割り当てています。 新興企業の中ですぐれたテクノロ ジーをお持ちのところを買収させて 頂き、経営資源をそちらにシフトす るということを我々は、かなり上手 にやってきています。

これは、ベイ・ネットワークスに 始まりまして、そのあとペリフォニ ックスとか、クラリファイ、あるい はShasta Networks などがありま す。外部の方からは、この買収の状 況を見て、本当にノーテルネットワ ークスがIP シフトを加速している というご評価も頂戴しています。

●吸収側のカルチャーを変える

――吸収のところでカルチャーの 違いは問題無かったのですか?

村上ベイ・ネットワークスを買収 する時に世界の各地域のヘッドをや っている人間が集められて会議があ りました。ポニーテールでピアスを したような人がオフィスにいるかも しれないが、そういうのにびっくり しちゃいけない。半分冗談ですよ。 (笑)そういう話から始まりました。

まじめな話をすれば、吸収の対象に なったシリコンバレー型というか、 IP 型の経営センスを積極的に学ん でいこうということですね。つまり、 カルチャー的にはベイ・ネットワー クスではなく、旧ノーテルサイドを 変えるきっかけにしていこうとしま した。

●3 ヶ月を1 年だと思うWeb time

――どのようにカルチャーを変え ていこうとしているのでしょうか?

村上100 年かけて電話システムを 作ってきたという道すがら、だいた い製品計画もビジネス計画もキャリ アさんと10 年スパンで考えていま した。しかし、それではもうやって いけません。逆に言うと、シリコン バレー流の「3 ヶ月先のことはわか らない、まあ、なんとかわかるかな」 という程度でやらないとだめだ、と いうことです。3 ヶ月が1 年だと思 うこと、これを我々はWeb time と 言っていますが、CEO 自らもWeb time を実践しています。予算も1 年 単位ではなく半年単位で見直しをし ています。

また、権威主義はやめようとか、 もっと自由闊達な形にしようとか、 完璧にわかってからやるというので は遅いのです。これだけ変化が激し い段階ですと、「石橋を叩いて渡ら ないということはやっていられな い・もう、とにかく、川へ飛び込む、 ズボンまくりあげて橋が無いところ を渡る」と言うぐらいの気持ちでや らなければならないとCEO 自ら社 員全体に言っています。

●業績好調

――財務状況はいかがでしょうか?

村上1998 年のワールドワイドの 売上高は179 億ドル、利益は10 億7 千ドルです。99 年第2 四半期の決算 では、前年度比で、売り上げで36 % 増、利益率で60 %増です。株価は去 年の9 月頃、ちょうどベイ・ネット ワークスの買収をアナウンスした 時、そんなことをやってうまくいく わけがないと思われて下がったので すが、その時から1 年ちょっとで5 倍になりました。日本法人も順調に 推移しています。NTT 、NCC などの キャリア側からの引き合いが活発 で、次から次へと新しいビジネスが 決まっていっています。

●電話からIP へのスムーズなマ イグレーション

――次世代ネットワークSuccession は、なかなか戦略的な製品のようで すが。

村上Succession は、既存のネット ワーク基盤を生かしたまま、新しい インターネットサービスを可能にし ます。そのため、伝統的なキャリアさ んからの引き合いを頂戴しています。 IP 時代が来たから、今の電話用の 設備をすべて投げうって一気にIP に 行きましょうとはいきませんよね。 音声用に作った回線交換用のネット ワークをうまくパケットに移して、 パケット網も、ATM とIP と両睨みが 出来るようなそういうスムーズなマ イグレーションのことをSuccession としてご提案しています。

出来合いの製品があってというこ とではなくお手持ちの交換機に合わ せる形でモデファイしながら各キャ リアさんの事情に合わせて提供しま す。このアプローチが非常に柔軟性 があるということでAT&T さんか らも受注しました。

●OPTera は在庫が無い!

――OPTera は超高性能ですね。

村上OPTera パケット・ソリュー ションですね。これは、光通信とパ ケット通信を統合した光ファイバ・ インターネット・ソリューションで す。アメリカのオプティカルトランス ミッションのところで、圧倒的No.1 のマーケットシェアを確立したおか げで、大変好評を得ています。売れす ぎて出荷が遅れています。実は、99 年第2 四半期までに99 年第3 四半期 で売る分全部売ってしまいました。

――え、え!


村上工場に売る商品がないので す。うれしい誤算です。現在、ご期 待に添えるように、5000 人採用し て400 億円で工場を拡張するという 作業を始めています。

●最終的には光を直接パケット として扱う

――具体的には光を使ってどのよ うなソリューションを提供するので しょうか?

村上OPTera パケット・ソリュー ションというのは、当然最後のバッ クボーンが光なのだから、光を直 接パケット的に扱って、そこへの 無駄は全部省こうじゃないか。い くべきところは最終的にそこだろ うということです。

ルータの延長 線上でも、ものを準備しています し、ATM スイッチの延長でも、も のは準備しているのですが、キャ リアさんに聞くと「ルータも ATM も、そこへ至る道すがら、 我々にも必要だから是非作って欲 しい。しかし、最後はパケットと いえども、そのままオプティカル の部分でハンドルするというのが 本命でしょう」という御感想を頂 いています。

●初心者でもルータの設定ができる

――Shasta も面白いですね。

村上あんな小さな製品にもかかわ らず、反応がすごいですね。今まで のルータは、わかっている人が難し い設定をいろいろやって、はじめて お客さん向けのサービスがセットで 出来ました。だけど、Shasta は、前 段に表が全部でていて、早い話が、 コンピュータでピッピッピとセット するとルータがいっさいわからない 人でも、電話で聴きながら、「これを やりたいんですか?このサービスで すか?」と表を埋めていけば、もう、 自動的にルータの設定を賄なえま す。こんなに便利なものはないと、 実際にShasta を使っている大手 ISP の方から褒めて頂きました。

●ルーティング技術をオープンに

――Open IP Environment はすご いですね。

村上すごいです。私はもとDEC ですからね。デジャブーのようです ね。「前に1 回あったぞ。これは」っ ていうね。 どういうことかと言うと、1980 年 代にDEC のVAX が成田についた ら、代理店さんが奪い合ってお客に 届けたという時代がありました。 VAX はチップになっていましたら、 これで作らせてくれって所もいっぱ いありました。ですが……。

そのころにサンマイクロシステム ズがDEC の上にあったUnix を移し て、オープンとやったわけです。つ まり、情報を公開し、その情報ある いは製品を使って、他社が自由に新 たな製品開発が出来るようにしたわ けです。DEC もオープンとやって いれば、未来は変わっていたと思い ます。インテル陣営でも、今まさに オープンという「インテルチップと Windows その2 つを買ってくれれ ば誰でも組み立てられますよ」とい うことをやっています。

今回、ノーテルネットワークスも ルーティングとIP ソフトウェアを 業界に公開し、オープンとやったわ けです。

――すごい決断ですね。


村上ルータで言うと、残念ながら うちは2 番手で30 %のシェアです。 ルールを変えて、オープンとするこ とで、新たな概念を作り出したと言 えます。

――まわりの反応はいかがでした か?


村上Open IP Environment を発 表したことで、ルータの価値は下が るだろう、ならばということで、ノ ーテルネットワークスのルータの価 格は半分にしました。そしたら、こ っちの方がOpen IP Environment より注目されてしまいました。(笑)

●もうルータはいらない???

――Open IP Environment の世界 では、ルータはいらなくなるのです か?

村上1980 年にはルータというも のはありませんでした。サンマイク ロシステムズのワークステーション にもルーティング機能がついていま した。そのルーティング機能を取り 出し、箱につめたのが今のルータで す。何故、ルーティング機能がコン ピュータからルータに移ったかとい うと、トラフィックが多くなりワー クステーションでは処理しきれなく なったからです。これが、専用機で ある今のルータになったわけです。 しかし、今はプロセッサが速くなっ ているから、もう一度コンピュータ 内に戻せるわけです。

――ルーティング機能をまたコン ピュータ内に戻すのですか?


村上そうです。今回、ルーティン グ技術をオープンにしてマイクロソ フト、インテルなど75 社にライセン スしました。Windows 2000 にも入 っていますから、Windows 2000 が あるとルータはいりません。パソコ ンが自分でルーティングしてしまう のです。

これに気づいていない人が結構多 いのですよ。(笑)

●What do you want the Internet to be ?

――ノーテルネットワークスが目 指す方向は?

村上CEO のジョン・ロスがテレ コム99 でキーノートスピーチをや りましたが、その中でWhat do you want the Internet to be ?と言いま した。この言葉をうちの会社の新し いキャッチフレーズに使い始めてい ます。テレビコマーシャルでも使っ ています。

その意味はこういうことです。イ ンターネットが今のようにWorld Wide Web ではなくWorld Wide Waiting であったり、クリックして も情報が出たり出なかったり、その 程度の信頼性ではよくありません。 これからの社会インフラをインター ネットで支えていかなくてはいけな いのです。BtoB とかBtoC とか、お 金のやりとりも含めて株の取引な ど、非常にセンシティブな部分まで やるとすると高い信頼性が必要で す。キャリアさんも、メーカも、全 員で努力してインターネットの信 頼性を上げていきましょうと言う ことで、What do you want the Internet to be ?と言いました。 ノーテルネットワークスが先陣を きってそれを企業目標にかかげて やっていきます。

●これからの10 年が本当の情報 革命

――日本のキャリアへのメッセー ジを…。

村上2010 年ぐらいを思い浮かべ るとすべてがIP ベースで社会がそ のIP ベースのインフラの上で動く 時代になるでしょう。これから10 年 かけて、日本のキャリアさんともど もIP ベースのインフラを構築、ある いは再構築していきます。よく、今 回が情報革命だと何度も言い続けら れていますが、この10 年が、本当の 意味での情報革命で、いよいよ仕上 げだな、という感じがしています。

実際にインターネットが持ち込む e-Business とか、e-なんとかをいろ いろ言い始めていますが、物の買い 方、生活の仕方、仕事の仕方、教育、 すべてが一気に変わって行くでしょ う。それらのインフラをしっかり、 今の電話の信頼性に見合うようなと ころまで作り上げるお仕事をご一緒 させて頂きたい。そのお手伝いをし たい。それに必要な道具立ては、ノ ーテルネットワークスのワールドワ イドのハイパフォーマンスインター ネットの技術をもってすれば、十分 整えられると思っています。

日本のキャリアさんにもそれを享 受して頂ける体制を日本法人として も整えたいと思います。

――本日はどうもありがとうござ いました。


(聞き手:本誌編集長黒田幸明)