今日の焦点
音楽のネット販売の行方

企業と消費者の間を結ぶ電子商取 引は急速に拡大しつつあり、証券、 書籍、オークションなどはすでに本 格的に普及し始めている。これらと 並んでネット販売として脚光を浴び ているのが、音楽配信である。イン ターネットによる音楽配信が可能に なったのは、MP 3 という音声圧縮 技術が開発されたためである。しか し、音楽には著作権が存在している ため、他のネット販売とは違い、音 楽配信は複雑な問題を含んでいる。 MP 3 はMPEG Audio Layer-3 規格の略称で、音楽を約10 分の1 に圧縮しながらCD に近い音質を保 つことができる。したがって、CD などに収録された曲をMP 3 化して インターネットを介して自由に送受 信できるために、著作権侵害の問題 が生じることとなった。98 年から、 米国の全米レコード業者組合 (RIAA )はMP 3 を使った違法コピ ーに対する撲滅キャンペーンを行 い、日本音楽著作権協会 (JASRAC )なども無断使用に対し 断固とした措置をとることを発表し ており、99 年に愛知県の10 代の少 年がMP 3 でヒット曲を無断複製し ホームページに載せて摘発されるな どの事件が起きている。

しかし、無名のアーティストが自 らを売り出すにはMP 3 とインター ネットは極めて効果的な道具であ る。これまでのようにレコード会社 に頼ることなく、簡単に世の中に自 分の音楽を大量に配布できる。しか し、ひとたび有名になってしまうと、 今度は自らの海賊版の出現に悩まさ れることになる。もっとも、それで も構わない、後はコンサートやグッ ズで稼げば良いという考え方もあ る。

こうした状況の中で、既存のレコ ード会社など音楽をパッケージ化し て消費者に販売してきた巨大レーベ ルが、アーティストと消費者が直接 結びつくことに脅威を感じ、反撃に 転じてきた。米国のRIAA は98 年 12 月にSDMI (Secure Digital Music Initiative )計画を発表し、 不正コピーを防ぐためセキュリティ 機能のついた仕様の検討を開始し、 99 年7 月にはその仕様を決定した。

これを受けて音楽ネット配信会社 が出現し始めた。わが国では、昨年 12 月に業界最大手のSME が1 曲 350 円で配信を開始しており、この ほかソフトバンクなど音楽ネット配 信事業を計画している企業は増えて きている。本年中にはいくつかのネ ット配信会社がサービスを開始する ものと思われ、わが国ではネット販 売の中でも音楽配信は中心的な存在 になるであろう。しかし、アーティ ストを抱えて音源を握る原盤制作者 と音楽配信業者は必ずしも同一では なく、両者の綱引きが起きている。

このような動きに対してアーティ ストはどのようにみているのであろ う。音楽家の坂本龍一氏らが中心と なって、アーティストがデジタル化、 ネットワーク化の進展に対応した著 作権のあり方を検討するために設立 したMAA (メディア・アーティス ト協会)は昨年8 月に意見書を文化 庁に提出し、音楽著作権が現状では 日本音楽著作権協会が法律に基づい て一元的・集中的に管理している が、この管理体制が自由にインター ネット上で作品を発表できるように なった実状に追いついていないと指 摘し、著作権管理の規制緩和、競争 原理導入などを求めている。

全国に約8 千あるといわれるレコ ード販売店はどうなるのか。おそら くネット配信が普及して最も影響を 受けるのは卸や小売りなどの流通業 者である。しかも、来年には再販価 格制度の見直しも行われる予定であ り、大きな変革を迫られるであろ う。

文化庁はインターネット時代に対 応して、著作権法を2001 年1 月か らの施行を目指して改正案を検討し ているが、インターネットはグロー バルなものであり、国際的な視点に 基づくるルール化が必要である。 以上のように、音楽のネット配信 は多くの利害関係者を巻き込んで動 いており、その行方はネット販売の あり方を考えるうえで見逃すことは できない。