私が気になる3つの技術



NTT コミュニケーションズ
取締役
メディア技術開発センタ所長
富田 修二



1999 年1 年間を振り返ってみる と、今さらながら情報通信分野にお ける変化の大きさに驚かされる。通 話を軸とした既存メディアから、イ ンターネットに代表されるデータ・ 情報流通の世界へと一気に地殻変動 が起こりつつある感があり、変化の スピードにもますます加速がつきつ つある。変貌しつつある情報通信市 場におけるニーズや期待に応え得る 新たなサービス展開に向け、ビジネ スベースでの実現・普及が急がれる 技術としては、着目すべきいくつか の重要な分野が上げられる。

統合網の構築技術及び、 MPLS 技術

1 つめとしては、インターネット をはじめとするデータ系サービスの 急激な増加に対応でき、かつ低廉な サービスを可能ならしめる“新たな 統合ネットワークを実現する技術” であるだろうと思う。情報流通拡大 へのキー・ファクタとして重要な “コストの大幅低減”を図りつつ、企 業・個人ユーザを問わず爆発的に増 大する「データトラフィック」を吸収 し、既存固定網からの接続も含め、多 様なサービスを効率的に実現するネ ットワーク技術の確立が要求されて いる。

コールエージェント(CA )、メ ディアゲートウエイ(MG )による統 合網の構築技術及び超高速(〜テラ ビット)IP 系バックボーンと高度な サービス品質保証を実現するMPLS 技術等が着目すべき技術と言えるだ ろう。

これら技術は現在製品化され つつあるものの、今後の標準化動向 も睨みつつ、次世代のネットワーク の重要な要素として開発が加速され るものと思う。

アクセス系ネットワークの 技術

2 つめとしては、今後のIP 系高速 広帯域サービスを実現する上で不可 欠な“アクセス系ネットワークの技 術”が上げられる。IP 系サービス分 野ではすでに音声系サービスがVoIP 技術の普及により拡大しつつあるが、 今後のサービスとしてビデオ・スト リーム等映像系コンテンツやWeb に おける大容量コンテンツの流通へと 確実にシフトしてゆく趨勢にある。

これを支える技術としてすでに ADSL による数百〜数M クラスのサ ービスが提供されつつあるが、今後 汎用サービスとしてVDSL 、ワイヤ レス・アクセス技術により“10 M 〜” クラスのサービスも早晩提供可能と なるであろう。アクセス系ネットワ ークに関しては光ケーブル、メタリ ックケーブル、CATV 等既存リソー スとxDSL 、ワイヤレス、ATM-PDS 等技術の組合せ・発展を軸にサービ ス提供形態の多様化に拍車がかかる ほか、通信・放送分野間の規制緩和 の進展等、制度面の改革動向も大き な影響要因して着目する必要がある。

コンテンツ流通を支える技術

3 つめとしては、コンテンツ流通を 支える情報配信・管理に関わる一連 の技術である。ネットワーク上で付加 価値情報の安全な流通、サービスの維 持・管理を実現する技術(機能)は個 別の技術要素ではあるものの、サービ ス提供上からは必要欠くべからざる 重要な技術と言える。EC 、EDI におけ る電子認証、暗号、鍵管理等の要素技 術や映像流通における検索、配信技術、 あるいは膨大なネットワークリソー スを効率良く管理し得るディレクト リ技術などがこれに該当し、今後の情 報流通ビジネス展開における「サービ ス品質」を決定づけ得る技術と位置付 けられたものである。

なお、移動体分野においては次世代 移動通信システム(IMT 2000 )による サービスが2001 年より予定されてお り、情報通信全体へ大きなインパクト を与える可能性を秘めた技術として 注目している。




NTT
常務理事
基礎技術総合研究所長
松田 晃一


対話するコンピュータ


「終了キー、いちかばちかで押して みる」「クリックで悲鳴とともに画面 消え」

こんな川柳でパソコン素人おじさ んをからかうのではなく、本当は融通 の利かない馬鹿なコンピュータこそ 責められるべきだ。

コンピュータは誰もが自在に操れ るものであってほしい。そしてその究 極は我々が日常で使う日本語を聞き、 話し、理解するコンピュータではない だろうか。

そのためにはまず音声認識や音声 合成の技術が必要である。そしてそれ 以上に、対話の技術が重要である。ピ ッと鳴ってからじゃないと話しては いけないとか、相手の話が終わらない と話してはいけないとか、これは人間 がコンピュータに合わせる典型であ る。これではお話にならない。どちら から話し始めてもいい、途中で割り込 んで話す、判らなかったら問い返す、 といった人と人とが話すような自然 な対話であってほしい。それには、対 話の背景にある知識を共有して、人間 の意図を推理し、理解するというさら に難しい課題もある。さらに言えば、 シーマンのように、時には生意気な 口答えをしたり、ため口で話し掛けた りするコンピュータはもっと楽しい のではないだろうか。

自然言語の意味処理による 情報アクセス技術

インターネットは全く新しい世界 を拓いた。便利である。しかし、ホー ムページを辿っているうちに、どん どん関係の無いところに入り込ん で、時間があっという間に過ぎてし まった経験も度々ある。情報の海の 中から自分に必要な情報をいかにし て見つけ出すか、その能力の差が 我々の生活に大きな影響を与えるこ とになりそうである。そのような道 具もいろいろと用意されてはいる が、これだっ!という情報が上手く 検索できた記憶はほとんどない。キ ーワードの一致のような形式的な検 索ではなく、情報の内容を上手く取 り込んだ検索方法や対象となる情報 の意味を把握して要約して示すなど の技術がぜひ欲しいものである。そ のためには、日本語をはじめとする 自然言語に関する意味処理などのブ レークスルーが必要である。

産業革命は生産現場に画期的な能 率向上をもたらし、非人間的な労働 から開放された。では、情報革命は オフィスワークに画期的な生産性向 上をもたらしただろうか。現実には、 オフィス作業の労働時間は短くなる どころか逆に長くなっている。IT 技 術といっても、まだまだ初歩的で未 成熟な技術で悪戦苦闘しているのが 現実の姿ではないだろうか。

複雑系の科学

ここに取り上げた複雑系の科学は、 20 世紀の科学の発展を支えたいわゆる 要素還元的考え方に代わり、新しい思 想に基づく今までに無い科学の世界を 切り開く可能性をもっているのではな いかと、大いに気になっている。

科学の発展によって、われわれの身 の回りには大規模で複雑なシステム が数多く現れてきたが、一方で近年こ のようなシステムで度々トラブルが 発生している。これはシステム全体が あまりにも複雑になり過ぎ、全体を把 握しきれなくなった結果ではないだ ろうか。Y 2 K 問題も、幸い大きな問題 が発生しなかったが、一体どこに、ど のような問題が発生するのか、確実に 把握できないことによってあれだけ の大きな騒ぎになった。このような複 雑なシステムを構成要素毎にバラバ ラにするのではなく、全体としてその まま捉えて扱うという立場は、西洋医 学に対する東洋医学のように複雑な 系を取り扱う新しい方法を与えてく れるのではないだろうか。




NTT データ
SCAW 事業推進本部長
佐藤 修三


GPS

3 年前に、車を更改した時、カー ナビを導入した。それ以来どこへ出 かけるにせよ、地図を座席の横にお くことはなくなった。ほとんどのゴ ルフ場へは、迷わずに到着でき、以 前の様にゴルフ場の周辺をウロウロ することはない。途中で曲るところ を誤ることはあるが、誰かさんと違 い、小言を言われることもなく、や さしい声で、最良の道を案内してく れる。

現在のカーナビの精度は、50 m 程 度と言われている。高価な装置を用 いればp単位の測定が可能だが、誤 差の原因は、衛星が送る時刻を意図 的にずらしていることであり、これ も6 年以内には廃止されるそうであ る。1 m 程度の誤差になれば、m 単 位での案内や車線の案内も可能とな り、より確実なナビゲーションとな るばかりか、各種の測定器への応用、 携帯地図、自動運転装置といった製 品開発につながっていくものと思わ れる。

サプライ・チェーン・ マネジメント

次に気になるテクノロジー?は、 サプライ・チェーン・マネジメン ト、略してSCM である。

つい最近まで話題をまいていたエ ンタープライズ・リソース・マネジ メント(ERP )の考え方をサプラ イ・チェーンまで拡大したような概 念であり、単なるテクノロジーとし て整理してしまうには無理がある。 サプライ・チェーンを構成する関連 企業間の利害関係とIT 技術が密接 に絡んでいる。それだけに、うまい 仕組みを作り上げ、システム化でき れば、その効果は計りしれない。言 わば、関連企業間全体としてのBPR と言えるだろう。

また、企業間の取引の改善ばかり でなく、情報の流通という切り口か らも、SCM 的な発想が色々と出て くるのではないか?たとえば、POS 情報を入手できれば納入する卸会社 の在庫管理のみならず、もう1 段上 流の製造企業の生産計画に生かす事 も可能となる。

高性能のマシンで、シミュレーシ ョンを繰り返すか、または、鮮度の 良い情報を流通させる仕組みを作る かなど、色々なアイデアが出てきそ うである。結果として、良いものが より安く買える世の中が期待できそ うだ。

64 ビットマシン

最近、64 ビットマシンの話題を よく耳にするようになった。

現在のところは、ミドルクラス以 上のサーバ機で普及しはじめている 段階であるが、あと1 〜2 年のうち には一般コンシューマが使用するパ ソコンに広まると思われる。

従来の32 ビットマシンに比べて、 データ/アドレス幅とも倍の64 ビ ットになるため、かなりの高速化が 期待できる。特に、リレーシナル DB のアクセススピードが高速化さ れると、バッチの大量処理も高速化 され、PC の適用領域が大幅に拡大 すると考えられる。運用時間が短く なれば、3 K の仕事から開放される 仲間がよりハッピーになれる。

また、高速性を生かして、ゲーム のみならず、画像処理、各種シミュ レーション等の適応領域が拡大され るだろう。ただ、処理は早くなって も、処理の途中で、エラーメッセー ジなしに突然止まってしまう問題 は、早く解決してもらいたいもので ある。




NTT 移動通信網
モバイルコンピューティングビジネス部
ISP 事業推進室長
坪井 了


シリコンディスクによる パソコン一発立ち上げ

こんな困ったシーンを経験された モバイラーは数多いのではないだろ うか。

★シーン1:プレゼンテーションの 出来事

お客様にプレゼンテーションをし ようとパソコンの電源をON にした ところ、立ちあがりに延々と時間を 要し、場つなぎの話はするが、白け ムードが一杯。途中でハングった時 の再起動はなおさらのこと。

★シーン2:新幹線の中での出来事

資料作成後にメールで送信しよう としたが、パソコンのバッテリーが 上がってしまい、送信出来ずじまい。 私はPDA の他にWindows 98 対応 のノートパソコンを持ち歩いている が、一番の悩みは、このシーンに代 表されるように、電源ON 即立ちあ がらないこと(HDD の立ちあがり 時間)と、バッテリー容量だ。さり とてW i n d o w s 98 の替わりに WindowsCE を使うと容量の問題、 画面の問題でストレスがたまってし まう。

そこで、今一番注目しているのが、 ノートパソコンにHDD の替わりに シリコンディスクが搭載されること だ。シリコンディスクは既に容量2 ギガバイトの試作品が開発されてい るが、HDD のように回転する部品を 使わないので、一発電源オン即ワー ク、省電力、振動に強いなど、モバイ ルパソコンには打ってつけのディス クである。近い将来、モバイルパソ コンにシリコンディスクが標準装備 されることが必須と考えている。

パーソナライズの進展

モバイルを活用している人にはこ のようなシーンもある。

★シーン3:ホームページ検索時の 出来事

出先で、PDA (携帯情報端末)で 好みのホームページを見に行こうと したが、デスクのパソコン上にお気 に入り登録しているURL がわから ず、検索エンジンにアクセスし探し てみるも、結局断念。

この場合は、個々のパソコン上で メモリ管理しているのが敗因で、 個々のパソコンの状態をつねに意識 するという煩雑さに加え、必要な情 報を直ちに入手できないという状態 が生じるわけである。そこで今後は、 いつでも、どこでも、どんな端末か らも、自分の個人の情報を覗けるパ ーソナルウェブといったパーソナラ イズシステムが拡充されるようにな ると思われる。

モバイラー向けコンテンツ 配信技術の進展

PDA でのホームページ閲覧では こんなシーンもよく見かけられる。

★シーン4:PDA でのホームページ 閲覧時の出来事

PDA を用いてホームページをア クセスしたが、画面の大きさがフル 画面でつくられていたり、画像が多 かったりで、いわゆる重いコンテン ツで、閲覧にとてもストレスがたま ってしまった。 そこで、今後のモバイルインター ネット推進の鍵となるものとして、 コンテンツ提供側での初期画面上の グラフィックとテキストの振り分け の一般化などモバイルを意識したコ ンテンツ配信が推進されることに加 え、システム側でも端末能力を自動 認識したコンテンツ配信がされるよ うになることなど、モバイル向けコ ンテンツ配信技術の進展に大いに期 待している。