私が気になる3つの技術



NTT コミュニケーションズ
取締役
ネットワーク事業部長
坂田好男



IP 環境のインフラ化

インターネットの普及に伴い、 IP の有用性が認識され、それをビ ジネスに利用しようとする動きが世 界中で高まっている。

企業対企業(B 2 B )の分野では、 SCM (Supply Chain Management ) などのEDI (Electronic Data Interchange )プラットフォームとし ての利用が始まっている。放送のデ ジタル化に伴い、映像素材の流通の マーケットも活発化するであろう。

さらに、企業対個人(B 2 C )の 電子商取引(EC )がインターネット 人口の急増とともにひろがり、IMT- 2000 、xDSL サービスなどのアクセ ス系の広帯域化が進展してきている。 このようなマーケットの動きに共 通するのが、規模の拡大と広帯域化 である。それらの発展を推進するた めには、バックボーンのさらなる広 帯域化が必要である。これは、日本 の産業を支えてきた、高速道路や新 幹線に相当するものである。特に IP に特化したグローバルな高速IP プラットフォームサービスの提供、 IP のインフラ化が必要であると考 えている。これを構築するIP over WDM (波長多重)技術の進歩に大 きな期待をしている。

安心して買える セキュリティ技術

インターネット環境で商品を購入 する機会が、今後さらに増えてくる だろう。たとえば、希少本は本屋に 行くよりもWeb サイトで探した方が 早く探せる。Web を使っていち早く 株の取引も可能となった。PC も、秋 葉原に行くよりも、インターネット 上で検索して注文する人が増えてい るという。さらにCRM (Customer Relationship Management )機能を 使って、インターネット上で買い物 をすればするほど、次には、自分の 好みにあった商品を提案してくれる サイトも現れてきている。

便利になる一方で気になるのが、 セキュリティの問題である。個人の カード番号やプライバシー情報が流 通するブラックマーケットが存在す るとも聞いているので、クレジット カード番号をWeb 上で入力する気 にはなれない。人にやさしく安全な セキュリティ技術が登場することを 期待している。

さらに決済や認証の仕組みだけで なく、物流も含めた今以上に単純で 安全で便利な新しいサービスが提供 できるのもそう遠い将来ではない。

IP 時代のサービス品質管理

インターネットに代表されるIP 環 境をビジネスシーンで本格的に使う ためには、従来のBest effort の考え方 から、QoS (Quality of Service )を保証 する考え方にシフトアップする必要 がある。すなわち、IP 環境についても、 キャリアグレードの品質を保証しな いといけない状況になってきている。

電話については、3 基準(安定、 接続、品質)があるようにIP 環境 についても同様の基準を定める必要 があると考えている。ただし、電話 と違い、さまざまな機器が接続され るので、基準の決め方は複雑困難な ものになるだろう。しかし、その分、 技術者のやりがいも大きなものにな ると考えている。

さらに、インターネット人口の爆 発的な増加により、電話番号問題と 同様にIP アドレス枯渇問題や経路情 報の爆発問題が生じている。現行の IPv 4 から、これを解決する方法と して提案されている次世代IP (IPv 6 など)の技術をいかにスムーズに 導入していくかも課題となっている。

これらの課題をひとつひとつ解決 していき、ネットワークベースの多 種多様なプラットフォームサービス を支えていきたい。




NTT 移動通信網
取締役
設備建設部長
石川國雄


モバイルマルチメデ ィア

現在の移動通信は音声が主体であ るが、パソコン・インターネットの 急速な普及により、モバイル環境で、 データ・映像通信を行うモバイルマ ルチメディアのニーズが高まってい る。

すでにドコモのPHS ネットワー クでは、約1 年前から開始した64K サービスなどにより、ネットサーフ ィン・メール通信が拡大し、非音声 トラフィックが40 %以上に達して いる。

今後、EC 、広告、マーケティング など多様なアプリケーションを搭載 した多様なコンテンツが、認証・セ キュリティ・課金・位置情報等をサ ポートするゲートウェイを介して移 動通信ネットワークで提供される。

ドコモが世界に先駆け、2001 年 春に東京周辺でサービスを開始する 高速・高品質でユニバーサルモビリ ティのある第3 世代通信方式IMT- 2000 (International Mobile Tele- communications- 2000 )の移動通信 ネットワークと、魅力的なコンテン ツ・アプリケーション及びインター ネットビジネス、端末・サービスの 多様化により、モバイルマルチメデ ィア市場が急速に拡大するもの考え られる。

インターネット

商用インターネットがサービスさ れて、約10 年後の今日、全世界で 約2 億人がこれを利用し、さらに、 利用者は急速に拡大している。日本 でも人口の約15 %が利用している。

米国では、次世代インターネット、 VoIP (IP 上の音声トラフィック) などにより、遅くても2001 〜2002 年にはIP トラフィックが音声トラ フィックを上回ると予測されてい る。「ネットワークの価値はそのネ ットワークにつながれているユーザ 数の2 乗に比例して拡大する」とい うメットカーフの法則によれば、今 後、爆発的な勢いでインターネット の価値が増大する。

移動通信ネットワークは高速化、 インターネット、コンテンツをキー ワードに進化する。

すでに、国内最大のインターネッ ト接続サービスとなった、ドコモの i モードでもこれに対応して、機 能・利便性が格段に向上してゆく。 インターネットで展開される技 術・コンテンツ・サービスを軸に、 企業活動・社会・生活が急激に変化 してゆくだろう。
エコロジー技術


地球温暖化・オゾン層の破壊、酸 性雨による森林破壊・ダイオキシン 廃棄物・リサイクル問題など、我々 の住む地球環境は悪化の一途にあ る。人類・生物の存続の危機であり、 個人として、企業として全地球的に 取り組む課題だ。

NTT グループとして、環境保護 推進に取り組む基本姿勢を示した 「NTT グループ地球環境憲章」に基 づき、当社では現在コージェネレー ション、太陽光発電システム・風力 発電システムなどクリーンエネルギ ーの利用拡大、通信機器空調用フロ ンの代替として新冷媒R407C の利 用、消化ガスの新ガス化などオゾン 層破壊防止、及び外気利用空調、照 明・空調の自動制御、通信用ビルで の雨水利用などの省エネ施策など多 面的に取り組んでいる。

現状、ややもすればエコロジー施 策はコスト面での負担が大きい状況 にあるが、技術の改良・改善及び利 用拡大によるコストダウンよりさら に幅広く、エコロジー技術を家庭生 活、企業活動の中に取り込むことが 可能になってゆくだろう。




NTT 通信エネルギー研究所
研究企画担当部長
小松一彦


Bluetooth

携帯電話の爆発的な広がりは、無 線が利便性向上と多様なサービスの 提供を可能にすることを示してい る。新たな無線インターフェース規 格のBluetooth も、便利でさまざま なサービスを提供してくれる。

Bluetooth は、10 m 程度までの近 距離を1 Mbps で無線接続する規格 である。今までのケーブルの代わり に無線を利用して、携帯電話をはじ めとする様々な機器の間をつなぐこ とができ、世界中での利用が見込ま れている。

たとえば、胸ポケットに携帯電話 を入れたままで、ノートパソコンか らメール送受やWeb との接続が可 能となる。デジタルカメラの映像も、 プリンタへのデータも、パソコンと の間でワイヤレスで送ることができ る。電子商取引が認知され携帯電話 がお財布の代わりになるとき、レジ との間で無線で無銭のお買い物もで きるようになるかもしれない。

LSI 製造技術

このように無線技術が急展開して いる背景には、LSI 技術の進展によ りデジタル信号の複雑な処理が、安 価に、小型で、そして低消費電力で 実現可能となったことがある。無線 技術の今後の利用に限らず、情報処 理の様々な分野でLSI の高速化と低 電力化の要求がある。この実現のた めLSI 回路パターンのさらなる微細 化が求められている。

一方でLSI の製造技術は最小寸法 が0 .1 μm 以下となるあたりから、 材料・デバイス構造・微細化など で、従来の手法が適用困難となり、 新しい技術の出現が必要となる。配 線の層間絶縁膜では誘電率の低い材 料が、ゲート絶縁膜では誘電率の高 い材料が求められている。デバイス 構造では縦型のトランジスタの提案 もある。肝心の微細回路パターンの 形成工程では、従来から利用されて きた光を用いた転写技術が限界に近 づき、X 線や電子線を利用した手法 が精力的に研究されている。

今後のデジタル技術利用社会を牽 引するLSI 技術に、今、質的な変化 が求められている。

燃料電池

同一機能を実現するLSI の消費電 力は大幅に低下しつつあるが、処理 量増加の要求は留まるところを知ら ない。また、携帯電話器の増加に見 られるように、機器の数も大幅に増 えている。結果として情報機器が消 費するエネルギーは増加しつつあ る。いかに効率良く、また環境負荷 を小さくエネルギーを発生させるか が、今後の大きな課題となってい る。

燃料電池は水素ガスと空気中の酸 素を反応させ、電気を取り出す。自 動車への搭載が研究され、2004 年 からの商品化を目指している。電解 質に固体高分子を用いたタイプであ る。燃料電池からは水しか出ず、地 球温暖化につながる二酸化炭素や有 害な窒素酸化物はゼロである。

家庭用としても開発が進められて いる。都市ガスを燃料として発電し、 摂氏80 度の作動温度を利用したコ ジェネレーションとして、電力とお 湯の供給が可能となる。分散給電の 一形態として非常時の停電対策にも 有効で、大いに期待している。

利便性の追求と環境への配慮とい う観点から3 つの技術を取り上げ た。いずれもハードウエア技術がキ ーとなる。これらのモノ作りに日本 がどう取り組んで行くかも、気にな るところである。