今日の焦点
マイクロソフトの独禁法違反はどうなるか

米マイクロソフトの反トラスト法 違反訴訟でワシントン連邦地裁は4 月3 日、同社敗訴の一審判決を下し た。判決の要旨は、マイクロソフト はパソコンの基本ソフト(OS )で 独占的な地位にあり、その市場支配 力を背景に、インターネット閲覧ソ フト(ブラウザ)市場を独占しよう として、パソコンメーカにOS とブ ラウザを抱き合わせで販売したり、 他社製のブラウザ販売を不当に妨害 するなど、独占力を乱用したという ものである。昨年11 月にワシント ン連邦地裁は、マイクロソフトの違 反を認定し、その後は司法省と同社 が和解交渉を進めてきたが、結局合 意に至らず、今回の判決となった。

今後これを受けて、司法省は来月 にも是正命令手続きを終え、連邦地 裁のトーマス・ジャンクソン判事は 早ければ今夏にも是正命令を下すこ とになると見られている。ジャンク ソン判事は、司法省、マイクロソフ トとの協議の場で、マイクロソフト が控訴した場合は、裁判迅速化のた めに審理の場を高裁ではなく、直接 最高裁にする案を示した。これが実 現した場合は、年内にも最高裁で審 理が始まる可能性もあるが、マイク ロソフトは一審終結後は通常の手続 きどおり高裁での審理を望んでいる という。米国の独禁政策は、民主党 が独禁法適用を強めているのに対 し、共和党は規制を緩和する方向に あり、11 月の大統領選挙でゴア候 補が勝てば今の方針が持続される が、ブッシュ候補が勝てばマイクロ ソフトに有利に働くといわれてい る。したがって、マイクロソフトと しては裁判を長引かせたほうが有利 になる可能性があるというわけだ。 その意味では、この裁判はきわめて 政治的な側面を持っていると言え る。

しかし、マイクロソフトにとって、 和解による解決を捨て法廷闘争を続 けることは、リスクを背負うことに もなる。ひとつはライバル企業など からだされている120 件以上の独禁 法訴訟に対応しなければならないこ とである。司法省とともに提訴して いる19 州が民事的制裁を求め、何 らかの補償金を要求することも考え られる。このような訴訟攻勢はマイ クロソフトの経営をボディーブロー のように揺さぶることになろう。ま た、仮に控訴審で判決の一部が覆さ れたとしても、全面勝訴は難しいと いうのがおおかたの見方だ。

それでは、連邦地裁はどのような 是正命令を下すのであろうか。もっ とも厳しい命令は、分割である。た とえば、ソフトの種類に応じて3 社 以上に分割するといった是正命令も 考えられるが、マイクロソフトがこ れに猛反対することは間違いない。 しかし、競争条件が激変するIT 業 界では、実施まで数年かかる分割策 は意味がないという意見や、企業活 動を著しく制約するような独禁法に よる規制は必要ないという考えが強 くあり、分割はないとの見方が強 い。

最終的な結論としては、少なくと も、PC メーカにとって、マイクロ ソフト以外のソフトを自由に導入す ることができ、しかもWindows を 各メーカが同一条件で採用できるこ と、およびどのようなソフト会社で も、Windows 上で動くソフトを自 由に作ることができることについて は保証されることになろう。しかし、 独占市場に、いかに競争を復活させ るかという本来の目的は、分割がな い限り難しい。

ところで、分割はマイクロソフト にとって本当に不利なのだろうか。 1982 年にAT&T は同意審決の結果、 長距離電話会社と7 つの地域電話会 社に分割されたが、分割当時売り上 げ590 億ドルであったのが、現在は 各社あわせて8100 億ドルと13 倍に 拡大しており、電話料金は遙かに安 くなっており、この分割はAT&T にとっても顧客にとってもプラスで あった。状況は異なるとはいえ、同 じことが今回もいえないであろう か。

皮肉なことに、この独禁法裁判の 主な原因となったブラウザメーカの ネットスケープ・コミュニケーショ ンズはAOL に吸収され、AOL はこ のブラウザを利用者に無料提供して いる。そして今やAOL はマイクロ ソフトを脅かす存在となっている。