今日の焦点
何故日本はIT 分野で立ち遅れているのか

IT 革命とかIT 時代とか言われるよ うになったのはここ数年のことであ る。最近は何故日本がこの分野で遅 れているか、どうしたら米国にキャ ッチアップできるかという議論が随 所でなされている。ここではこれを 3 つの視点から考えることとする。

まず第1 に技術開発の視点であ る。米国ではベンチャー企業がIT の 発展に大きく寄与している。ベンチ ャーの多くは、最終的に高額で買収 されることを目的として、資金をベ ンチャーキャピタルなどから調達し、 新技術の開発に躍起になっている。 既存企業はR&D を自ら行うという よりは、ベンチャーの開発成果を M&A により取り込むことで技術的 な優位性を確保している。そして、 証券市場やベンチャーキャピタルは、 有望なベンチャー企業に資金を投入 する。このように米国では、ベンチャ ー企業、既存企業、ベンチャーキャピ タルが相互にリスクを分担しながら、 それぞれが最大限の努力をする仕組 みができあがっている。この仕組み は、既存企業が自ら研究所を有して そこに成果を期待するよりはるかに 効率的であり、ダイナミックである。 わが国も最近はベンチャー企業なる ものが、出現しつつあるが、そのほと んどは商社的な企業であり、技術開 発を狙ったベンチャー企業は少ない。 一日も早く米国のような仕組みを確 立する必要がある。

技術開発の面でもう一つ気になる のは、日本の技術力そのものが低下 しつつあるのではないかという点で ある。最近の原子力やロケット関連 の事故やトラブルの多発をみても、 作業者の士気、倫理観を含めてわが 国の総合的な技術力が低下している ように思われる。このような技術力 の低下の背景には第3 次産業従事者 の増加、工場の海外への移転、学生の 理工系離れといった現象が指摘され ている。米国でも70 年代からこうし た現象が起きていたが、わが国も米 国がたどった道を歩んでいると思わ れる。今重要なのは、楽観論に押し流 されることなく、技術力の現状を正 確に把握し、必要な対策を的確に実 施することである。

第2 はIT 革命を促進する環境整備 の視点である。まず政府なり官公庁、 自治体がもっと積極的にIT 技術を取 り入れた事務処理体制を確立する必 要がある。残念ながらこれらについ ては、なかなか進展していないのが 実状である。官庁のホームページが 容易にハッカーに攻撃された状況か らも、政府機関の電子化が不十分で あると考えざるを得ない。 規制の緩和もさらに積極的に進め るべきである。具体的な事例でいえ ば、昨年10 月に株式売買委託手数料 が自由化された途端に株の売買の電 子商取引が進展した一方で、書籍の 再販制は自由化されないため、書籍 の電子商取引は米国に比べ、まった く進展していない。小、中、高等学校 におけるインターネット教育も米国 などに比べると相当遅れている。当 然、通信コストの引き下げも大きな 課題である。

第3 は社会構造の視点である。わ が国は全員が参加して団体で行動す る組織が得意であり、戦後の工業化 経済ではこれが上手く機能してきた。 しかし、ネット社会では個を確立し、 各人が自己判断で動ける自己責任型 の組織を作ることが必要である。一 つの組織に身も心も捧げるような仕 組みから、一つの個が同時並行的に 様々なネットワークに属する構造に 変える必要がある。ある意味で不平 等な社会を認めることがIT 革命につ ながるともいえる。これは日本人の カルチャーに関わる問題ともいえる が、何とか克服しなければならない 難問である。

米国では最近「デジタル・デバイ ド」という言葉が注目されている。こ れはパソコンの操作能力など情報リ テラシーの有無が労働者の地位や貧 富に格差を起こしていることを言っ ている。しかし、こうした格差は、個 人だけでなく、国家や企業の間にも 生まれている。国家レベルのデジタ ル・デバイド拡大を阻止し、日本が 国益を守っていくためには、IT 分野 で米国にキャッチアップするための 戦略の確立を急ぐべきである。