今日の焦点
回線接続料引き下げ問題にみる米国の真の狙い

日米間の懸案事項であったNTT の回線接続料引き下げ問題は、この 7 月19 日に、今年4 月から2 年間 で約20 %引き下げ、2002 年には再 度見直して再引き下げを行うことで 決着した。当初の日本の主張は 2000 年末から4 年間で22 .5 %の引 き下げであったから相当の譲歩であ り、日本の敗北と言う批判もあった ほどだ。

米国は何故これほど強行に大幅な 引き下げを迫るのだあろうか。この 合意がなされたときの米通商代表部 (USTR )のコメントは「米企業の 日本の通信市場への参入を促進する とともに、日本の消費者のコストも 下がり、日本経済の回復にも役立つ」 であった。

このコメントの前段の部分は米国 の立場としては、理解できないこと はないが、日本は米国の通信会社に 不当な差別をしてわけではなく、し かも、この引き下げの恩恵の大半は 日本の長距離通信会社が享受し、米 国の通信会社の年間支払額は各社あ わせても年間せいぜい数億円のオー ダーであるからメリットは微々たる ものである。

日本の新聞の論調も、「接続料は 日本が通信市場の競争を活発にする ために、純粋な国内問題として、引 き下げを実現すべきだった。外圧を 受けた合意には後味の悪さがつきま とう(読売新聞)」、「2 年後に再び 日米政府間で引き下げについて協議 することには疑問がある。日本の通 信市場は完全に解放され、内外事業 者の参入は自由だ。そうした状況で は、通信政策の根幹にかかわる部分 での政府間協議はあり得ても、料金 設定などの段階にまで政府が介入す ることは正常とはいえないのではな いか(産経新聞)」と述べている。

そもそも日本の通信料金は高いの かという問題であるが、なかなか比 較は難しいが、経済企画庁の「公共 料金ハンドブック」に米国との物価 比較がでており、それによれば市内 電話は0 .78 倍、市外電話は、100 km 程度で1 .05 倍、200 km 超で1 .43 倍 であり、市内電話は日本の方が安い。 念のため付け加えると、電気1 .54 倍、 ガス2 .08 倍、水道3 .25 倍となってお り、日本の消費者にとっては、よほ どこっちの方を何とかしてもらいた いくらいで、日本の物価は全体に高 いのである。

さらに、これで日本のIT が発展 するというのは見当違いで、インタ ーネット接続料金はこの回線接続料 とはまったく別のものである。むし ろ、インターネット国際回線利用料 を米国以外の事業者が一方的に負担 させられていることとか、インター ネットのバックボーンシステムの上 層は「ティア・ワン(tier 1 )」と呼 ばれているが、これは米英の計5 社 に押さえられ、我が国の参入が許さ れないなど、米国は自国の権益を譲 ろうとはせず、日本の消費者のこと など全く考えていないと言ってよ い。

また、接続料金の根拠となってい る計算は米国が提案した長期増分費 用方式に基づいているが、米国でも これは一部で採用されているだけで ある。本年7 月に米高裁は、FCC (連邦通信委員会)が決めた長期増 分費用方式に基づく計算モデルで は、地域電話会社が実際のコストに 見合う接続料を回収できないとし て、違法という判決を下しており、 米国においてすらコンセンサスを得 ていないのである。

以上のことから、米国が接続料引 き下げ問題を主張する真の狙いはさ っぱり分からなくなる。そのため、 「NTT が外へ出る意欲をそぐ、精神 的な弱体化こそアメリカの狙いだ」、 「接続料がNTT の研究開発費の源泉 になっているからで、米国は意図的 にNTT を研究開発面で弱めようと している」というような声がでてく るほどである。

実はNTT に関する政府間交渉の 歴史は長い。接続料問題は97 年か ら始まったが、78 年にNTT の資材 調達問題が取り上げられたのを始 め、いくつかの問題が対象となって いる。そこには米国の一貫した基本 戦略が存在しているように見える。 残念ながら、我が国にはこれに対抗 できる戦略がなく、いつも振り回さ れるだけである。