今日の焦点
ナップスターを巡る著作権の侵害と保護の戦いn

MP 3 はCD に比べて約10 分の1 という高圧縮率でありながら、CD に近い音質を保っているため、イン ターネット上で高い音質の音楽を伝 送するのに適している。しかしその 結果、CD などに収録された曲を勝 手にMP 3 化して流すホームページ が急増するなど、デジタル著作権の あり方が問題となっている。特に米 国で昨年から今年にかけて、ナップ スターなるものが爆発的に広がり、 音楽業界を揺るがす大騒ぎとなっ た。

ナップスターは利用者がまずナッ プスター社のホームページにアクセ スし自分の音楽ファイルを登録する。 その上で聴きたい曲名をインプット すると、同社のサーバが別の利用者 のパソコンからその音楽ファイルを 見つけだし、送られてくる仕組みに なっている。もちろん自分の音楽フ ァイルは他の利用者が取り込めるの で、音楽を交換することになる。ナ ップスターは利用料を一切とらな い、無料の音楽交換サービスであ る。

このソフトは99 年1 月に、ノー スイースタン大の1 年生、ショーン・ ファニング君が開発し、99 年6 月に、 ナップスター社がこれを用いてサー ビス開始した。このサービスは特に 学生の間で利用が急増し、その結果 大学周辺のレコード店の売り上げが 減少するなどの影響がでるようにな った。また大学のインターネット回 線はナップスターに占領され、たと えばイリノイ大では回線容量の75 〜 80 %がナップスターに専有されるよ うになるほどで、今年の2 月から3 月にかけて100 以上の大学で学内の インターネットをナップスターに使 うことを禁じるほどになった。

こうしたことから、99 年12 月に、 RIAA (全米レコード工業会)は著 作権侵害でナップスター社を提訴 し、本年4 月には、ロックバンドの 「メタリカ」が同じく同社とエール 大など3 大学を提訴した。これに対 しナップスターは、著作権侵害があ ったとしてもそれは個々の利用者の 行為に過ぎず、ナップスター自体が 侵害しているわけではなく、サーバ に海賊版のファイルを保管している わけでもないと反論してきた。すな わち、プロバイダはその中を通過す る情報について責任はないとする主 張だ。

こうした中でナップスターの利用 者は増加し続け、本年5 月には利用 者は2100 万人に達し、1 日2 〜3 千 万曲が交換されるようになった。 RIAA は6 月13 日に、NMPA (全米 音楽出版協会)と共同で、ナップス ターのサービスの借り差し止めを求 めてサンフランシスコ地裁に提訴。こ れに対しナップスターはマイクロソ フト裁判で活躍した弁護士を雇うな ど強力な弁護団で対抗し、音楽業界 とネット技術進化論者の両陣営に分 かれ全米を巻き込む論争となった。

8 月26 日に、サンフランシスコ地裁 のパテル判事は、ナップスターはそ もそも著作権侵害を目的に作られた システムであると断定し、原告のレ コード会社側の楽曲の除外を命じる 仮決定を下した。しかし、ナップス ターは直ちにサンフランシスコ連邦 高裁に控訴し、同高裁はこの業務停 止の仮処分延期を認めたため、結論 は先送りされることになった。

ナップスターを巡る一連の騒動は、 著作権と音楽配信技術の争いを象徴 しているが、実際にはナップスター 以外にも各種の配信技術が開発され ており、最近出現した「グヌーテラ」 というソフトはナップスターのよう な中央のサーバが不要で、しかも音 楽だけでなくゲームソフトや映画ま で扱うことができる。

わが国では、レコード会社が積極 的に有料レコード配信に取り組んで おり、昨年末にSME が1 曲350 円 で配信サービスを開始し、本年5 月 には日本レコード協会自ら、配信会 社を設立するなど、この点では米国 に先行していると言われている。

しかし、今後どのような技術が出 現して音楽のみならず各種コンテン ツの著作権を侵害することになるか は予測がつかない。著作権の保護と 侵害は常にいたちごっこの関係にあ るが、IT 時代における著作権のあ り方を確立するためには、これまで とはまったく異なる新しい枠組みを 構築することが必要である。