●今私が気になる技術と人材

 株式会社NTT データ
 公共システム事業本部
 第六公共システム事業部長
 公共システム事業本部
 企画部

 ビジネス戦略室長兼務
 村松 充雄氏



領域全体を統一的に見ていく能力が必要だ。
それには、モデル指向開発の経験を
自らが積み重ねることが大切である

さまざまな変化への対応を施策・実行

―はじめに、現在のお仕事についてお話していただけますか。

村松 私は今、2つの部署で仕事をしています。メインは労働ビジネスユニット(労働BU)の仕事です。労働BUでは、旧労働省の行政システムを対象とした取組みを行っています。特に労働保険ネットワークシステムや基準行政システム等の大規模システムのサービスを提供しています。もう一つが、NTTデータの公共本部(公共システム事業本部と公共ビジネス事業本部)のスタッフ機能を担うビジネス戦略室での仕事です。

―労働BUの仕事について、具体的にお話していただけますか。

村松 労働雇用保険の徴収や助成金の給付等労働保険業務のサービスを提供する労働保険ネットワークシステムの開発や維持管理がおもな業務です。最近では、徴収業務や労災業務に関連した電子申請・電子納付システムの開発や基準情報システムの基盤整備等に取り組んでいます。

―ビジネス戦略室でのお仕事についてお話していただけますか。

村松 ここでの業務には、大きく分けて「守り」と「攻め」の2つの側面があります。「守り」の側面で
は、政府の調達制度への対応があります。今、政府の調達制度は、総合評価方式の変更やライフサイクルを通した調達方式の導入等調達システム自体のやり方が大きく変わろうとしています。これに対応して弊社ではこれまでのプロセス改善施策に加えてCMMI (*1 )の導入やプロジェクトの進捗管理の手法としてEVMS (*2 )という出来高管理の導入に取り組んでいます。「攻め」の側面では、ポスト電子政府等これまでのビジネスユニットをより大きく成長させるためのビジネス戦略の検討を行っています。

*1:CMMI (Capability Maturity Model Integration)/能力成熟度モデル統合版
*2:EVMS (Earned Value Management System)/出来高を管理する代表的な手法

各領域に最適な開発手法で対応

―現在、関心のある技術、製品等についてお話していただけますか。

村松 最近、電子申請等の業務を見ていると、システム開発のやり方が「変わってきているな」ということを強く感じます。そこでは、オブジェクト指向をベースとした開発方法論により業務の上流工程から下流工程までを一貫して行っています。これは、コンポーネントウェアという開発方法論に属するのですが、分析設計工程の中で、それぞれの業務システムを構成するフレームワークを先に決めてしまい、製造工程ではこのフレームワーク上で各種の機能コンポーネントを組み合わせて開発
を進めていくというやり方です。

―一時期、オブジェクト指向は、特定の領域に対しては適していますが、基幹系の大規模システムへの適応は難しいと言われていましたが…。

村松 昨今のシステム開発は、オブジェクト指向分析/設計で用いられるモデリング言語、UML(Unified Modeling Language)を使用したものが主流になっています。UMLという共通言語により、オブジェクト指向という単純で強力なパラダイムに基づき要求定義から分析設計、実装、テストの各局面で利用する表記法を統一できます。しかしながらこれはプロジェクトマネージャーが開発のすべての局面に渡って見通す力がないと、プロジェクトの管理が「難しくなる」ということも意味しています。即ち、オブジェクト指向およびUMLの理解は、プロジェクトマネージャーに求められる資質として不可欠なものになってきているのです。

―その他に求められる資質として、何がありますか。

村松 プロジェクトマネージャーだけでなくプロジェクトを推進するメンバーに求められる資質として、プロジェクト・マネージメントの基本スキルとITのスキル、そして対象領域の業務スキルがあげられます。この3つをバランスよく持つことが重要です。一方、お客様との対応で必要となるスキルとしては、EA(Enterprise Architecture)があげられます。お客様の事業領域を、ビジネスモデル、データモデル、アプリケーションの方針、IT基盤(アーキテクチャー)といったレベルで領域全体を統一的に見ていく能力が必要とされます。

―具体例をあげていただけますか。

村松 米国連邦政府の30の省庁は、22種類に及ぶビジネスライン(行政執務)を手がけているといいます。平均すると1省庁あたり、17のビジネスラインを手がけています。電子政府構想の一環として、連邦政府はEAの視点からビジネスラインに焦点をあてた情報管理体制を構築することで効率的で無駄のない省庁横断型の業務システム構築を目指しています。弊社ではこれまで中央省庁の多くの大規模システムを手がけてきました。その実績と業務ノウハウをベースとしてEAに基づいたコラボレーティブな電子政府プロジェクトの提案を積極的に行っていきたいと考えています。

 また昨今は、開発のやり方自体が対象領域によって多様化しています。さまざまな領域に対して最適な開発手法で適応していく力(技術と人材)が今一番求められていると思います。

「もう一度、物づくりに回帰する」

―この力を身につけるためには、どのようなことが必要でしょうか。

村松 開発については、最初から最後まで自らが経験してみることが大切です。実世界の問題をどんなモデルで表現するか、それを実装レベルまで論理的にトレーサビリティを確保しながら展開できているか苦しみながらチャレンジすることが大事です。こうしたプロジェクト経験を積んでいき、プロジェクトマネージャーとしての自分のノウハウを蓄積していくことが必要だと思います。

 またPMP(Project Management Professional)資格は、今のところ我々が求めている技術や人材に一番相応しい資格だと思います。

 これからは、「もう一度、物づくりに回帰する」といいましょうか、上流工程におけるEAを設計図としてUMLを用いたモデルオリエントな開発の実践ノウハウを蓄積していくことがますます重要になると思います。

―本日はありがとうございました。

(聞き手:本誌副編集長 菊地勝由)

 

 


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