連載第14-1回
UMLの基礎と応用

(株)NTTデータ 技術開発本部 副本部長
山本修一郎

 UMLをビジネスモデリングに応用する方法について述べた本として、エリクソンとペンカーの「UMLによるビジネスモデリング」がある[1]。経営情報学会でも、ビジネスを工学的にとらえる試みの一環として、本書の訳者をパネラとして「UMLとビジネスモデリング」シンポジウムを2002年の8月に開催しており、日本でもUMLを用いたビジネスモデリングに関する関心が高まりつつある[2]。そこで、今回はエリクソンとペンカーによるUMLのビジネスモデリングへの拡張法について調べてみよう。この本は日本語訳で500ページを越える分量がある。内容を大きく分類すると、ビジネスモデリング(1章)とUMLの紹介(2章)が約70ページ、ビジネスアーキテクチャモデリング(3章)とビジネスビュウ(4章)が約120ページ、ビジネスルール(5章)とビジネスパターン(6、7、8、9章)が約200ページ、ソフトウェアアーキテクチャとの関係(10章)や例題(11章)が約100ページである。今回はエリクソンとペンカー法の概略と主な図式を3章と4章に基づいて紹介する。エリクソンとペンカー法のキーポイントは、ビジネスビュウに基づいてビジネスモデルを構築することであるといえるだろう。ビジネスビュウには、表1に示すようにビジョン、プロセス、構造、振舞いという4つのビュウがある。ビジョンビュウのモデリングには、戦略定義、概念モデリング、ゴール問題モデリングがある。プロセスビュウでは、プロセスモデリングを行う。構造ビュウでは、リソース、情報、組織に関するモデリングを行う。振舞いビュウでは、状態と相互作用に関するモデリングを行う。

表1 ビジネスビュウ
表1 ビジネスビュウ

 ビジネスビュウの作成者は、上級管理者、ビジネスアーキテクト、プロセスモデラである。上級管理者は、ビジョンの戦略定義に責任を持つ。ビジネスアーキテクトはビジョンの概念モデリング、ゴール問題モデリング、プロセスモデリング、構造モデリングに責任を持つ。プロセスモデラは振舞いモデリングに責任を持つ。

ビジョン

 ビジョンビュウの構成要素には、TOWSマトリクスを用いた戦略定義、クラス図を用いた概念モデリング、ゴール/問題モデリングがある。

TOWSマトリクス

 TOWS マトリクスでは、図1に示すように
脅威:Threat
機会:Opportunity
弱み:Weakness
強み:Strength

を分析して、外部の脅威と機会に対して、内部の強みと弱みに基づいて、採用すべき戦略をマトリクスの内部に記述する。たとえば、対象とするビジネス領域について、まず、外部の脅威と機会を列挙する。次いで内部の強みと弱みを列挙する。そこで、外部の機会と脅威に対する内部の強みと弱みに関する戦略を明らかにする。最後にこれらの4つの戦略に基づいて全体戦略を考察する。このマトリクスで明らかにされた全体戦略に基づいてゴールに展開可能なビジョンを「ビジョン表明」として定義する。ビジョン表明で抽出されたゴールはビジネスプロセスのゴールとリンクさせることにより、ゴールがビジネスプロセスによって達成可能かどうかを評価できる。

図1 TOWSマトリクス
図1 TOWSマトリクス

概念モデリング

 概念モデルでは、ビジネスで用いられる重要な概念をクラス図を用いて表現する。このクラス図ではビジネスの主要な概念と概念間の関係を記述する。

ゴール問題モデリング
 ゴールモデルでは、ビジネスの目標と、目標を実現する上での問題とを関連付けて分析する。ゴールはプロセスを制御し、ビジネスにおけるリソースに関する所望の状態を記述している。換言すれば、ビジネスのゴールはビジネスプロセスと関連するリソースによって達成される必要がある。

 ゴール問題図はゴールや問題とその関連を表現するオブジェクト図である。ゴールはステレオタイプ<<ゴール>>を持つクラスのオブジェクトである。ゴールクラスには、質的ゴールと量的ゴールがある。ゴールモデリングでは、ゴールをサブゴールに階層的に分割することができる。また、互いに矛盾するゴール間の関係を表現することもできる。階層関係は破線の矢印で表現される。ゴール問題図の例を図2に示す。

図2 ゴール/問題図
図2 ゴール/問題図

 ゴールを実現する上での問題は、ステレオタイプ<<問題>>を持つノートで表現できる。問題の原因、それに対する対策、対策を実行する上での条件は、それぞれ、ステレオタイプ<<原因>>、<<行動>>、<<必要条件>>を持つノートで記述でき、それぞれ破線で関連付けることができる。

 ゴール問題図の目的は、ビジネスのゴールとサブゴール間の構造を明確にし、それぞれとプロセスとの関係を明らかにすることであるといえる。

プロセス図
 プロセス図では、プロセスとオブジェクトの関係やプロセス間の関係を記述する。プロセス図はアクティビティ図[3]を拡張した図である。プロセス図の構成要素には、プロセス、ゴール、入力オブジェクト、出力オブジェクト、供給オブジェクト、制御オブジェクト、スイムレーンがある。一般的なプロセス図の例を図3に示す。

図3 一般的なプロセス図
図3 一般的なプロセス図

・プロセス
 アクティビティ図のアクティビティに対応する。つまりステレオタイプとして<<プロセス>>を持つアクティビティがプロセスである。プロセスの内部にプロセスを含むことができる。プロセスはビジネスモデルで一連の作業手順を示すのに用いられる6角形で表現する。アクティビティ図のアクティビティに対する角が丸い矩形をプロセス図で用いたときは、それ以上、分解できない原子的なプロセスを表す。

・ゴールオブジェクト
 プロセスが達成するオブジェクトである。ゴールオブジェクトへプロセスから破線で接続される。ゴールオブジェクトの内容はTOWSマトリクスで明らかにされたゴール表明から分解されたゴールである。

・入力オブジェクト
 プロセスが消費するオブジェクトである。入力オブジェクトからプロセスへの破線で接続される。入力オブジェクトは<<物理的>><<抽象的>><<人々>><<情報>>ステレオタイプのいずれかであるようなリソースである。入力オブジェクトはプロセスの左側に配置される。

・出力オブジェクト
 プロセスが生成したり、精製するオブジェクトである。プロセスから出力オブジェクトへの破線で接続される。出力オブジェクトもリソースである。出力オブジェクトはプロセスの右側に配置される。

・供給オブジェクト
 プロセスが消費したり、精製するオブジェクトである。入力オブジェクトからプロセスへの破線で接続される。供給オブジェクトはプロセスによって生成されたり消費されることはない。プロセスの下に配置される。この関係のステレオタイプは<<供給>>である。

・制御オブジェクト
 プロセスが消費したり、精製するオブジェクトである。入力オブジェクトからプロセスへの破線で接続される。制御オブジェクトはプロセスの上に配置される。この関係のステレオタイプは<<制御>>である。

・スイムレーン
 プロセスがどの組織や人あるいは機械に所属するかをスイムレーンで示す。スイムレーンは垂直線で区切られた領域で示される。

・ビジネスイベント
 プロセスが受信したり送信するビジネスイベントをプロセス図で明示的に記述することができる。プロセスとビジネスイベントとの関係を実線の有向矢で記述することにより、プロセスとビジネスイベントの順序関係を示すことができる。ビジネスイベントもオブジェクトであり、ビジネスイベント間の階層関係をクラス図で定義することができる。

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