●今私が気になる技術と人材
 東日本電信電話株式会社
 相互接続推進部長
 大岡 忠男氏


お客様が求めていることを的確に理解、
分析できる能力と、その回答を
分かりやすい言葉で表現できる技術が必要

利用形態までを想定した技術、ノウハウが求められている

―はじめに、現在のお仕事についてお話していただけますか。

大岡 私が所属している相互接続推進部は、NTTの地域網のリソースを使用したい、ある部分を借りたい、といった他の事業者の皆さまとの相互接続を担当している部署です。具体的には電話、専用線、IP、メタリックケーブル、ダークファイバー等の接続のほか、局社へのコロケーション、管路利用など、他事業者様が当社のネットワークに利用するために必要なすべての業務を実施しています。

 NTT東日本では、従来からのネットワークのオープン化を進めるとともに、相互接続のルール策定を推進してきました。他の事業者の皆さまとの円滑な接続の実現に向けて、相互接続の手続き等を解説した「相互接続ガイドブック」を発行するなど、積極的な周知活動を展開しています。

―業務の中では、どのような技術が必要になるのでしょうか。

大岡 「ものをつなぐ」ということは、丸と丸、三角と三角とをつなぐというように、その切り口、いわゆる物理レイヤー、およびその上位にあるプロトコルをすべて合わせていかなければなりません。そこで必要になる技術には、当然、接続に係る技術が必要になりますが、それのみではありません。最近では、DSLや光ファイバーの接続が増えてきおり、これらの場合には、単に接続するのではなく、その設備の利用形態までを含めた技術、ノウハウが求められてきます。つまり、どのように設備がつくられているのか、どのような形で通信経路が開通されるのかといったことを、地域網を利用される皆さまに解説しなければなりません。さらにオペレーションシステム間の接続についても、最低限の知識として修得している必要があります。

 また、現在お客さまである他事業者の皆さまは、その道の“プロ”の方々です。この皆さまと、いかにうまくコミュニケーションをとっていくかがポイントになってきます。自分たちが思っていることを、お客さまが分かる言葉で誤解されないよう的確に伝え、理解していただき、接続の契約の手続きを行っていくことが求められているのです。そのために、どのような知識をもてばいいのか、どういう順で話していけばいいのか、ということを常に考えます。このような心がけが、人と人との信頼関係を築いていく道ではないかと思っています。

誰にでも理解できる言葉で正しく伝えることが大切

―次に現在求められている技術および人材についてお話していただけますか。

大岡 以前は電話・専用線関連の技術が必要とされましたが、市場のトレンドがIP・ブロードバンド系に移るに従い、IP技術・アクセス技術が必要とされてきています。

 また、接続約款を熟知し、協定締結、料金の請求、故障の対応といった一連のスキルが必要になります。一人ですべてをカバーすることは困難ですので、チームワークにより業務を遂行しております。毎日の業務を通じて感じることなのですが、相手に対して分かりやすく喋れることは、とても大切な能力です。短い交渉期間で、相手が求めていることを的確に把握、分析し、対応策を提案することのできる能力です。このためには、そのベースとなる技術知識を常に吸収し、それを分かりやすい言葉にして表現していかなければなりません。

―このような技術は、なかなか理解されないものですね。

大岡 ある分野の第一人者の方でも、その人物が言っていることを誰も理解できないのでは、せっかくの知識、ノウハウを社会に活かすことはできません。我々の業務を例にしますと、お客さまとの打合せの席で、さまざまな案件をその場で即答しなければならないケースが多々あります。つまり「話を決めなければならない」わけです。それぞれ社内の確認をとっていたのでは、お客さまに不安を与え、信頼関係は到底築けません。このようなことがないように、確かな知識とそれを相手に伝える技術、そして「ここで決める」という情熱が必要だと思います。IT市場は変化を繰り返していますので、技術を含めた最新の情報を常に吸収して、NTTの対応方針も含めてそれを自分の言葉で喋れるようにしていくことが、より一層求められていると思います。

―このような能力は、さまざまな分野で求められているものですね。

大岡 この能力は、いわゆる「当たり前のもの」と言えるかもしれませんが、その反面、どの分野でも通用する能力だと思います。物事を全体的に見ることが必要となりますので、指導力、マネジメント力の向上に不可欠な、多角的に物を見る力を与えてくれます。

一つの仕事は数十人との伝言ゲーム

―人材育成の面でも注力していきたい能力ですね。

大岡 NTT で一つの接属申込を実施していくには、数十人との伝言ゲームを繰り返していかなければなりません。しかしお客さまは、その伝言ゲームのやり取りをまったく知りません。万一トラブルが生じた場合、その責任をとるのはお客さまと接している我々のような部署の人間です。トラブルの原因をつくった部門に責任を押しつけても、お客さまは納得をしてくれません。かえって不信感を増すばかりです。このようなことがないように、伝言ゲームの仕組みを工夫して、プロジェクト全体が円滑に進んでいくことを心がけていかなければなりません。それを若いうちから経験できることは、大きな特典と言えるでしょう。

―研究・開発についても、同じような能力が必要でしょうか。

大岡 必要だと思います。やはり自分がもっている技術、知識を相手に正しく伝えられなければ、せっかくの成果を活かすことはできません。今後、多くのプレイヤーとの協調作業により、エンドユーザー様にサービスを提供していくことになると思われ、その必要性はさらに強くなると考えます。

―本日はありがとうございました。

(聞き手:本誌副編集長 菊地勝由)

 

 


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