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“グリッドコンピューティング”、PC グリッド

NTTデータ 技術開発本部 バイオインフォマティクスグループ
cell computing(R)プロジェクトリーダ
鑓水 訟氏(やりみず しょうじ)

 “グリッドコンピューティング”、“グリッド”がITのキーワードとしてとりあげられることが多くなってきている。グリッドとは、ネットワークで結んだコンピュータを必要なときに必要なかたち(サービス)で使おうというコンセプトである。そのようなコンセプトであるため、グリッドを掲げるIT各社により、それに含まれる技術、サービスは多様であり、分類も様々にされている。

 ここでは、スーパーコンピュータやハイエンドのサーバー、クラスタを高速な専用回線で結んで利用するようなものではなく、SETI@homeやNTTデータのcell computing(R) に代表される、一般のオフィスや家庭にあるPCで構成されるグリッドをPCグリッドと呼び、それを中心にお伝えする。


グリッドの分類

 “グリッド”という言葉は、米アルゴンヌ国立研究所のIan Foster氏により1998 年6月に著された“The Grid:Blueprint for a New Computing Infrastructure ”を発端に使われるようになった。その一方で、現在PCグリッドを代表する“地球外知的生命体の探索”プロジェクトSETI@homeはカリフォルニア大学のDavid Anderson 氏により1997 年からシステムの検討が行われ、1999年5月より一般のPCの参加による実験が開始された。そして、現在までそれは継続し、400万台以上のPCが参加する巨大プロジェクトとなっている。つまり、“グリッド”という言葉が認知される以前から、PC グリッドのプロジェクトは既に存在、発展していた。当時、そのしくみは“分散コンピューティング”と呼ばれ、P2Pの技術の一つともされてきた。そして、2001年4月には、米United Device社、米がん学会らにより、“UD Cancer Project”も開始され、現在までにそれも200万台以上のPCが参加するプロジェクトとなっている。

 SETI@homeは、以前より行われていた“地球外生命探索活動”を、スーパーコンピュータ利用予算の削減後でも継続させることを目的とした、苦肉の策のコンピュータシステムであった。PCグリッドであるそのシステムは、スーパーコンピュータに比べて大幅に低いコストで構築され、現在は平均で52Tflopsを越えるものとなっており、それは現在最速のスーパーコンピュータを大きく凌ぐものとなっている。また、NTTデータにより2002年12月より行われた“cell computing実証実験”でも、1台のPCで行った場合には約200年かかる“遺伝子からの周期性発見”計算処理が2ヶ月足らずで終了している。


NTTデータのcell computing

 このような事例からも明らかであるように、PCグリッドは安くて、速いシステムといえる。さらに、一般のオフィスや家庭にあるPCの処理性能の向上にあわせて、PCグリッドシステム全体の性能も向上するという、性能が陳腐化することがない点、Linuxとミドルウェアにより構成するPC クラスタとも異なり、普段使っているPCに専用のソフトをインストールするのみで、今までどおりのPCの利用方法に変更をもとめることなく、計算ノードとして利用できるため、設置、保守、管理の特別なコストの負担もない点などのメリットをもつものとなっている。

 ただし、PCグリッドはPC間を結ぶネットワークは通常のLANやADSL、光などのブロードバンドを利用するため、PC間のデータ転送速度はスーパーコンピュータ内部のCPU 間のバスやPCクラスタを構成する専用ネットワークのデータ転送速度に比べると遅いものとなっている。そのため、現在のPCグリッド技術が活きるのは、各PC間のデータ転送を頻繁に求めない、単純並列処理できるアプリケーションの利用の場合になる。そのため、現在のスーパーコンピュータやPCクラスタを全て置き換えてしまうような技術ではないと考えられる。


並列処理化できるアプリケーションはPCグリッドが活きる

 しかし、PCグリッドは、単純並列処理化できるアプリケーションが多く、高演算性能が求められるライフサイエンス分野、金融工学分野では既に海外を中心に利用されており、今後はCGレンダリングなどのデジタルコンテンツ制作分野や、一般の企業が利用できるようなデータマイニングを中心とした分野での利用も期待され、各社により開発が進められている。

 さらに、米国で生まれた現在のPCグリッド技術の多くは、ダイヤルアップ接続のPCの利用を想定したものとなっており、日本のように普及が進むブロードバンド、常時接続のPCを利用することに最適化されていない。そのため、今後、日本では米国よりも先に「単純」ではない並列処理へ、適用が広がっていく可能性があるといえる。

 今後、PCグリッドは、適用範囲の拡大、ブロードバンドの利用ということにより、安価なスーパーコンピュータというハードウェア的な側面を越え、新たなブロードバンド利用サービスを創出するサービス基盤ともなっていくことが期待できるといえよう。

■SETI@home
 http://setiathome.ssl.berkeley.edu/
■UD Cancer Project
 http://www.grid.org/projects/cancer/
■cell computing(R)
 http://www.cellcomputing.jp


お問い合わせ先
E-mail:cell@rd.nttdata.co.jp

 

 


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