●ブロードバンド時代に向けて−
NTT Comとアカマイが国内最大規模のコンテンツ配信サービスを開始●
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NTTコミュニケーションズ
ブロードバンドIP事業部
バイスプレジデント
兼アカマイ事業担当部長
内藤 眞氏 |
【インタビュー】
アカマイのCDN技術を最大限に活用して
コンテンツ配信業界を牽引していきます
NTTコミュニケーションズ梶i以下、NTT Com)は、全世界でCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)サービスを展開している米国アカマイ・テクノロジーズ社(以下、アカマイ)とCDN事業において提携し、2003年6月下旬から、国内最大規模のブロードバンド配信サービス「Broadband
CDN powered by Akamai」の提供を開始した。本稿では、NTT ComブロードバンドIP事業部バイスプレジデント兼アカマイ事業担当部長(前アカマイ椛纒\取締役社長)の内藤眞氏に、アカマイとの事業提携の目的と今後の展開についてうかがった。
■国内のCDN 市場のブレークスルーを目的とした
戦略的連携
―はじめに今回のアカマイとの提携の背景についてお話してください。
内藤 今回の提携は、NTT Comの事業ビジョンである“Global IP Solution
Company”の一環として、国内のCDN市場のブレークスルーを目指した戦略的な連携です。NTT Comの事業領域の中心が「アナログ電話」から「インターネット(IP)」にシフトしていく中で、IPにおけるコンテンツ配信、いわゆるCDN事業は、その中核を担う事業です。CDN事業は、以前からいろいろと取り組んできましたが、ストレスのない配送環境を実現するためには、バックボーンネットワークの物理的増強と、エンドユーザーにより近く、自由自在に拡張できる配信サーバの導入が不可欠です。そこで、世界のCDN市場でトップシェアをもつアカマイのCDN技術と、NTT
Comの国内外最大級のバックボーンネットワークとの融合を図りました。
―今回の提携での、両社の役割についてお話してください。
内藤 まずアカマイは、NTT Comのネットワークに配置したコンテンツ配信サーバ、いわゆるアカマイサーバの運用とともに、NTT
Comに対して、販売面・技術面でサポートを行います。そしてNTT Comは、高品質なコンテンツ配信環境と付加価値の高いサービスの提供を通じて、国内のコンテンツ配信業界を牽引していきます。
■インターネットの問題点を解決したアカマイの技術&サービス
―内藤様は、これまでアカマイ・テクノロジーズ・ジャパン鰍ニアカマイ(株)の代表取締役社長を務められていましたが、そのアカマイについてご紹介していただけますか。
内藤 アカマイの発足は1995年に遡ります。当時、インターネットが商用利用されるにあたって、ワールドワイドウェブを生み出したことで知られるマサチューセッツ工科大学(MIT)のティム・バーナーズ=リー博士は、今日のインターネットユーザーが直面している「渋滞」が生じることを予想し、また同博士は「インターネットのコンテンツ配信に、より適した方法を見つけるにはどうすればいいのか」といった議論を提起しました。この議論に対して、アカマイの創業者であるトム・レイトン(当時MIT応用数学教授)を中心とした研究者たちが、その答えに向けて動き出しました。その結果、Webサイトオーナーがよく使っているような集中型サーバに依存せずに、大規模ネットワーク上に分散されたサーバを通してインテリジェントにコンテンツをルーティングし、複製して配信するアルゴリズムを開発。その時に練られたビジネスプランが、アカマイへと発展しました。アカマイは、アクセス集中に弱いというインターネットの問題点を解決するために生まれた会社なのです。
―アカマイのCDN 技術について解説していただけますか。
内藤 アカマイは、コンテンツを配信しているサーバそのものへのアクセスを集中させないため、ユーザーに近いエッジ部分にサーバ(アカマイサーバ)を設置しています。これにより、配信されているコンテンツをユーザーが閲覧しようとした場合、一度目はそのまま配信サーバにアクセスしますが、二度目以降はユーザーに最適なアカマイサーバから自動的に配信されます。このアカマイサーバは、現在世界に15,000台設置されています。
―現在のシェアはどのくらいでしょうか。
内藤 米国では8割のシェアをもっており、欧州でも高い評価を受けています。日本では、2001年からサービスを開始しています。しかし、アカマイは米国で発達したシステムであるため、米国で普及していないADSL接続でのブロードバンド環境に対しては取組みが遅れていました。そこで、ADSL接続を主流としたブロードバンド環境に適したビジネスを検討した結果、今回のNTT
Comとの提携に至りました。
■ブロードバンド時代に適した快適かつ高品質な配信環境を提供
―今回の提携による両社のメリットについてお話しいただけますか。
内藤 NTT Comの強力なIPバックボーンを利用してアカマイのサービスを提供することで、日本のADSLユーザーの半数近くをカバーすることになります。さらに、NTT
Comのサービス外にも700台ほどのアカマイサーバがありますので、NTT Comがカバーしていない範囲のユーザーに対してもコンテンツ配信を行うことができます。
さらにアカマイには、コンテンツ配信以外にも、サイトの分析を行うインテリジェンスや、アクセスしたユーザーの言語に応じたコンテンツを自動的に振り分ける機能がありますので、ターゲットマーケティングを可能にしています。
このような、従来のアカマイのサービスがNTT Comとの提携によって、よりパワーアップされた状態でお客様に提供できるようになりました。また、NTT
Comの強力なIPバックボーンと、アカマイのCDNサービスが融合することで、e-Japan構想の推進にも役立つでしょう。
―6月下旬から、NTT Comとアカマイとの提携による新たなコンテンツ配信サービス「Broadband
CDN powered by Akamai」の提供が開始されましたが、同サービスの特徴についてお話しいただけますか。
内藤 本サービスは、世界初の試みとしてADSLなどのブロードバンド回線の相互接続点(POI)にアカマイのコンテンツ配信サーバ(アカマイサーバ)を配置することにより、国内のエンドユーザーに最も近いサーバを介した高速なコンテンツ配信を実現しました。これにより、多数のアクセスが集中するサーバのコンテンツが格段に速く表示されるようになります。また、大容量コンテンツの配信のほか、eコマースやネット予約などのインタラクティブなWebサイトにも最適なソリューションを提供します。Webサイトへのトラフィックを効率的に処理することで、Webページのレスポンスを高速化するとともに、ユーザーの設備や回線の増強にかかるコストも低減することが可能です。さらに、セキュリティについても強化されました。DoSアタックなど、悪意のある攻撃をしかけようとしても、アカマイのCDN技術を利用することで、コンテンツを配信しているサーバがどこにあるのか、分かりづらくなりました。
そして最大の特徴は、NTT Comとの提携によって、ユーザーの皆さまに「安心感」を与えることができたということです。アカマイのサービスが快適で高品質なNTT
Comのバックボーンネットワークを通じて配信されることで、「ADSL接続でのブロードバンド環境を得意としていない」といった不安を払拭することができました。
図 NTT Comとアカマイとの提携概要
■15,000台のサーバがCPUとして稼働
―今後の展開、抱負についてお話しいただけますか。
内藤 今後の抱負としては、「エッジコンピューティング」を展開していきたいと考えています。現在のコンテンツ配信サービスを要約すると、「コンテンツの宅配便」と表現することができます。それをこれからは、アプリケーションプログラムをキャッシュサーバで動かそうと考えています。たとえば、航空券の予の場合、予約内容までをキャッシュすると、「同じ便で予約が重なってしまうのでは」との不安を与えがちですが、アカマイのサービスでは、航空会社のロゴやWebページの内容だけをキャッシュし、ダイレクトなやり取りをしなければならないコンテンツ(データ)だけを送受信しています。つまり、アカマイサーバにアウトソーシングできているという状態です。これをさらに発展させて、アプリケーションのレイヤーをアカマイサーバにもってこようと考えています。それが抱負として申し上げた「エッジコンピューティング」です。必要な時にアカマイサーバを使用してコンピューターリソースを提供する、オン・デマンド方式と非常に似た考え方です。
―現在、この仕組みを導入している企業はあるのでしょうか。
内藤 すでに数社、導入しているところがあります。たとえば、懸賞に利用した事例があります。これは、懸賞の抽選処理をアカマイサーバ上で乱数を発生させて行うというものです。集計結果のみをメインフレームに1日等の短い単位で戻し、賞品の発送などを行います。このような簡単な処理は、Javaを利用してエッジで行うことができます。この仕組みが発展したものがエッジコンピューティングです。これは、単にコンテンツを配信しているのではなく、15,000台のサーバがそれぞれ知恵をもったCPUとして稼動しているので、分散コンピューティングとなっています。つまり、CPUをネットワークコンピューティングに利用するのです。このようなエッジコンピューティングを実現することが、今後のビジョンです。
―本日はありがとうございました。
(聞き手:本誌編集長 河西義人)
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