●NTTデータの金融サービス向けビジネス戦略●
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劾TT データ
金融ビジネス事業本部
金融戦略情報ビジネス
事業部
システム企画担当 部長
西村 和浩氏 |
【次世代CRM】
顧客中心経営を全社レベルで実現する情報ガバナンス
■CRM による企業最適化への方向性
景気の低迷とともに金融機関における統合や再編、構造改革等の動きは依然として続いており、さらには、少子化や老齢化など、企業を取り巻く社会環境は大きく変化してきている。このような状況の中、一元管理された顧客情報を活用して企業全体の収益を極大化していく経営手法として登場したCRM
の実現をめざす企業が増えている。しかし、“今日のCRMの約50%は失敗である”との声もあるように、CRMの実現に苦労している企業は多い。その要因としては次のような事柄があげられている。
・局所最適の積み重ね:部門ごと、業務ごとに連携していない戦略のもと、システムが構築されている。
・手段と目的の取り違え:CRMの導入ではなく、CRMシステムの導入に陥っている。
・情報が散逸した「データ」の状態になっている:「データ」はその内容、由来、品質を明確にでき、あわせて収集・蓄積・活用するためのしくみが整備されてはじめて「情報」となる。
このような課題の解決について、劾TTデータ金融ビジネス事業本部 金融戦略情報ビジネス事業部の西村和浩部長は次のように語っている。
「今後のCRMには『スピード』と『全体最適化』、そして活動の『継承性』を実現していくことが重要です。さらには、企業に存在するデータを把握、管理、活用し、企業活動全体をコントロールしていく『情報ガバナンス』が必要になるでしょう。
■本質的なCRM実現の鍵を握る「情報ガバナンス」
これまで多くの企業では、ITを用いて優位性を確立する取組みが展開されてきたが、「ITガバナンスだけでは、外部環境に対応した企業経営は難しい」との声が高まってきた。
そこで登場したのが、企業活動を情報を活用してトータルに行う「情報ガバナンス」である。
企業経営を飛行機のフライトに例えた場合、ITガバナンスが飛行機を購入、整備する技術面の取組みに対して、情報ガバナンスは、飛行機が目的地へ安全なフライトを行うための情報収集や分析、パイロットの育成、動機付け等までを含めた安全運行のためのトータル管理を示す。これからのCRMの実現に必要な視点について、劾TTデータの西村部長は次のように語っている。「情報ガバナンスの観点に立ってこれからのCRMの取組みを考えた場合、その視点は次の2
つに大別されます。一つが、変化への対応が要求される『スピード』と『全体最適化』への取組み。具体的には、変化に対して迅速に変えていくことが求められるもの、組織、業務プロセス、管理指標、システム等です。もう一つは、拠り所とするものの『継承性』への取組み。具体的には、正しく継承し、活用していくことが求められるもので、企業イメージ、顧客情報、情報体系・情報資産等です。この2つの取組みを推進していくためには、各プロセスを回していく土台となる情報基盤の整備が不可欠です。」
■NTTデータがめざすソリューション
NTTデータでは、情報ガバナンスの観点からスピード、全体最適化、継承性を実現する「Enterprise CRM(R)」を提唱している。これは、企業全体を俯瞰した顧客情報基盤を構築し、全ての企業活動で情報を連携・共有して、企業システム全体を顧客中心に統合していく継続的な活動の総称で、図1のように、4つのレイヤー(階層)ごとのソリューションにより構築していく企業最適化の考え方である。
図1 企業活動のプロセスと4つのレイヤー
この中核であるEnterprise Data Model(全社的情報基盤)は、NTTデータが独自に開発したデータモデルベースの開発方法論「IMDA(R)」により、IMDAのモデルテンプレートをもとに企業毎にカスタマイズすることで実現される。
IMDAは、次の3つのコンポーネントで構成された金融機関向けデータウェアハウス構築のソリューションとして、大手金融機関で多くの適用実績をあげている。
・データモデル:銀行、証券、生損保等を網羅した汎用金融データモデル。
・開発方法:構築手順、各種規約を集約し、体系化した開発方法論。
・開発環境:開発を効率化するツール。
IMDAでは、システム間の連携については、IMDAのデータ構造に準拠したシステム同士であれば簡単な接続が可能で、固有のデータ構造をもつ既存システムやパッケージシステム等と接続については、アダプタにより接続される。
これにより、導入時は全面的なシステム更改ではなく、既存のシステムを活かして早期に構築でき、その後の発展についても領域ごとに優位性のあるパッケージを必要な部分単位に組み合わせて導入することができるため、真のベスト・オブ・ブリードを実現することができる。
また、更改されるシステムはアダプタでデータ構造上の差異を吸収するため、変更の影響範囲は局所化され、ビジネスの継承性を妨げない。このようにEnterprise
Data Modelによってどの時間軸でも整合性のとれた最適なシステム展開が可能となり、企業独自のCRM戦略を実現することができる。(図2参照)
図2 IMDAによるEnterprise Data Modelの構築と実装イメージ
NTTデータでは、今後の展開について、「CRMとは、顧客を中心とした仕組みへと変革する継続的な活動ですから、企業単位の最適化から企業同士の連携や統合を視野に入れたものへと進展していくことが予想されます」(前出、西村部長)と定義した上で、Enterprise
CRMを実現した企業は、同様に実現済みの他の企業と互いの強い部分を組み合わせるべく連携することで、企業の枠を越えた連合体である「Universal
Value Chain(R)」へと発展していくと想定しており、このような企業のCRM実現をサポートしていく。
(IMDA:Integrated Model-based Development Approach)
<事例紹介>
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横浜銀行
データ統合戦略室
室長鈴木 嘉博氏
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横浜銀行
データ統合戦略室
グループ長半田 彰氏
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第4の経営資源「情報」に着目し、
概念データモデルを構築
(横浜銀行 データ統合戦略室)
複雑化していくCRMというテーマのもと、顧客中心経営を実現していくためには、情報ガバナンスの観点から企業の情報を的確に掌握することが重要である。そのためには企業全体の活動を常に統治・改善するための情報基盤である概念データモデルを構築し、顧客ニーズに合った商品・サービスの提供を展開していくことが必要である。NTTデータはこの概念データモデルを中心としたシステム開発方法論として「IMDA」を提唱している。以下では、いち早く、情報ガバナンスの重要性に着目した先進ユーザの取り組みとして横浜銀行様の事例を紹介する。
■第4 の経営資源である「情報」に着目
「IT革命」が流行語となっていた2000年、横浜銀行は「地元でのリテール営業力の強化」をはかるため、「人」「お金」「もの」に続く第4の経営資源として「情報」に着目。データベースを有効活用した「法人スモールビジネス」「消費系ローン」への本格参入の準備を進めていた。
しかし、いざ着手してみると、行内の各種データベースは「必要な情報が蓄積されていない」「蓄積されていても情報が散在している」といった状況にあることが判明。そこで、早急に情報基盤の整備を行うために、2001年7月にデータベースの整備をミッションとした「データ統合戦略室」を設置した。横浜銀行データ統合戦略室の鈴木嘉博室長は、同室での情報基盤整備について次のように語っている。
「情報基盤の整備を行うにあたり、NTTデータのIMDAを活用したDOAアプローチにより、国内営業部門領域のデータ管理・蓄積体制の調査を行う『データ基盤整備プロジェクト』を2002年1月にスタートさせました。この手法の有効性を見極めるために、第1ステップとして個人ローンの領域に限定し、約5ヶ月間にわたり関連部署のヒアリングを重ね、同年5月に個人ローン領域のデータベースのあるべき姿を『データ基盤整備方針』としてまとめたほか、概念データモデル(データ構造と項目ごとの定義内容)をコンテンツとしたWebベースの『データ辞書』を構築しました。
■概念的に整理することで目的が明確に
データ統合戦略室が構築した概念データモデルは、情報システムやデータからのアプローチではあるが、そのシステムで実現されるビジネスモデルそのものを「IT」の観点ではなく、「ビジネス」の観点で可視化(整理・表現)しているところが最大の特長である。同室の半田彰グループ長は、この点について次のように語っている。
「各システムの連携により実現するビジネスモデルを物理的ではなく、概念的に整理したことで、システムの全体像が分かりやすくなり、情報整備を進めていくために解決しなければならない論点が明確になりました。つまり、『データ基盤整備方針』は、横浜銀行のITインフラがめざす姿の一部であり、これを銀行全体で共有することで、これまで『個別最適』に偏りがちだったシステム開発を、『全体最適』を強く意識したものに転換させる必要性が行内に浸透しつつあります。」
横浜銀行は基幹システムを2000年12月にアウトソーシングしているが、概念データモデルは単なるシステム設計の一過程ではなく、モデル自体を自社で統治・改善していくことが、情報ガバナンスの一つの手段であり、独自のCRM戦略を実現するポイントと考えている。現在は、第2ステップとして、預貸金全般、規制緩和商品領域のデータ管理・蓄積体制の調査を行っているほか、概念データモデルを実際の新商品・新サービスの開発やBPRに活用している。
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