●特別対談
 立川 敬二
 劾TT ドコモ
 代表取締役社長
 カーリー・フィオリーナ
 ヒューレット・パッカード社
 会長兼CEO


システムソリューションの今後を語る

ビジネスインフラとしてのネットワーク化の進展に伴い、従来からの固定電気通信分野だけでなく、移動通信分野を複合したシステムソリューションが求められている。移動体通信分野を代表するNTTドコモの立川敬二社長と、先頃コンパック社との合併を成功に導き、新生HPをリードするカーリー・フィオリーナ会長兼CEOに、それぞれの立場から今後のシステムソリューション提供への考え方・役割などを語っていただいた。(編集部)

モバイルも複合したトータルソリューションへのニーズが高まる

立川 本日は、システムソリューションの今後の動向について議論をしたいと思います。現在、コンピュータが各企業に導入され、それがネットワークで結ばれ、イントラネット、さらにはエクストラネットになろうという状況にあり、同時にモバイルも複合したトータルソリューションを希望する会社も増えてきています。こういった中で、モバイル分野でビジネスを展開しているNTT ドコモでも、こういったソリューションの提供に参画する機会がますます増えるのではないかと思っています。このように発展してきたシステムソリューションについて、HPとして、どのような戦略で、米国において取り組んでいらっしゃいますか。

C.フィオリーナ まず第一に、現在のソリューションを取り巻く現状は、おっしゃる通りだと思います。今までそれぞれが独立して活用されていたネットワークやシステムを相互に接続し、ネットワークを再構築していかなくてはならないと思います。技術の進歩によって、今まで単独で活用されていた個々の機器がそれぞれ相互に接続される時期になっていると思います。また技術の進歩のおかげで、個人ユーザーでも、従来、特定のビジネス分野のみに限られていた情報にアクセスすることが可能であり、ビジネスの可能性だけでなく、個々人の可能性も広がってきています。そこでますますモビリティが重要になってくると思います。なぜなら、モバイル化を追及することにより、さらにコミュニケーションの幅を広げることができるからです。

立川 確かに固定通信系でネットワーク化するだけでは企業の要望に応えられません。当社の法人営業では、「いつでも、どこでも、なにとでも」コミュニケーションを行えるように、固定系と移動系を複合したシステムソリューションの提供を目指しています。しかも、人間とコンピュータを組み合わせるだけでなく、機械やセンサーなどを包含したトータルシステムを想定しています。したがって、固定通信系のシステムインテグレータと幅広く連携して進めていきたいと考えています。

重要なパートナーとの連携・協業

C.フィオリーナ 私たちは、米国だけでなく、全世界で一つのルールに基づき、それぞれのシステムを連携させながら、さらにコミュニケーションの可能性を広げることを目指しています。最高の情報技術を提供し、情報システム上において、マネジメント能力やセキュリティを高め、製品の差別化を図ることが戦略の第一にあげられます。次に付加価値の高い様々なサービスへユーザーが簡単にアクセスできるよう、個々の製品の連携を図っていくことが重要だと考えています。また、3つめとしては、通信に対するユーザーニーズの拡大に伴い、世界レベルの共通したシステム構築が必要だと思います。4つめとしては、市場シェアをさらに世界規模で拡大し、競合他社との差別化を図るために、良い意味でのパートナーシップを図っていくことが大切だと思います。この意味では、NTTドコモのようなパートナー企業は、HPにとって非常に大切な企業といえます。

立川 全く同感です。従来のソリューションは、単独の会社だけとか、一国だけとかというように閉じられた環境下においてでしたが、今後はさらにグローバル化が進展し、かつ用いられるツールもモバイルにまで拡大していくと思います。この意味では、1社単独でサービスやシステムに関して全てが完結するというよりは、サプライヤーサイドもそれぞれ他のサプライヤーと連携を図っていくことが必要になってくると思います。その意味では、パートナーシップを組んで、お客様に満足していただけるようなサービスの提供を心がけなければならないと思います。

ソリューション提供にあたっての強み

立川 メインフレームの時代から、サーバー、パソコンのレベルになってきた現在、HPの持っている製品群からみた最近のソリューションの動向をどのように捉えていますか。

C.フィオリーナ 弊社は、システム、PCからプリンタまでを含めたトータルソリューション分野で、世界でも有数の規模を誇っており、モバイル化を促進する優れた携帯情報端末(PDA)のような小型のPCから大型サーバー、またはプリンタおよびイメージングプロダクトなど包括して考えています。この全てを私たちはシステムと呼んでいますが、まず第一にユーザーの使いやすさ、利便性を重視しています。今後、情報など全てのものがデジタル化され、いつでもどこでも情報を携帯するようになると思います。

立川 おっしゃるとおり、HPはプリンタまで手がけているという意味では、非常に大きな強みを持っているといえますね。確かに従来の文字情報に加えて、今後は、写真、映像も活用できるシステムになってくると思います。NTTドコモは、1997年から移動通信にパケット通信を初めて導入し、音声通信に加えデータ通信を可能にしてきました。2001年からは第三世代のFOMAのサービスを世界に先駆けて始めましたので、高速データ通信に加え、映像通信も可能になりました。自動車保険の現地調査などで大変有効だと思います。

 ところで、コンパックとの合併は、HPの掲げるシステムソリューションにどのようなメリットをもたらすとお考えですか。

C.フィオリーナ まず第一に、機動力が増した点です。今までと比べて社員が2倍になったので、倍の規模でプロフェッショナルサービスの提供ができるようになりました。次に、この合併により私たちは世界で第一位のスーパーコンピューティング会社としての地位を得たことです。3つ目は、これまでHPはUnixの市場で世界のリーディングカンパニーとしての地位を得ておりましたが、さらにWindowsサーバー、Linuxサーバー分野においても裾野を広げ、リーディングカンパニーとしての地位を得ました。この3点は、システムソリューション分野で重要です。またコンパックは、ストレージ分野での製品開発に関して、非常に優れた技術を持っています。外部記憶装置、オープンストレージネットワーク分野におけるグローバルなリーディングカンパニーといえます。今後向こう3 年間、さらにデータ量が増え、ストレージに対するニーズが高まってくると思います。コンパックの技術とHPの技術、そして豊富な経験を元に、エンタープライズコンピューティング、ストレージ、PC、プロフェッショナルサービス、またiPAQというポケットPCやタブレットPCを持っているので、この分野も含めたソリューションの提供が非常に大切だと思っています。

ソリューション提供に際しての課題

立川 確かにシステムソリューションはコンピュータからスタートしたため、コンピュータを活用しているユーザーを想定するケースが多いですが、それにモバイルのような通信系が加わってきました。NTTドコモの場合は、通信側からシステムソリューションを考え、HPは、コンピュータサイドからソリューションを考えると思いますが、そこでうまく連携を図ることで、本当に良いソリューションを導きだすことができると思います。このためNTTドコモでは「SIパートナー制度」を導入し、システムインテグレータと協調して進めることにしています。すでに百数十社に参加してもらっています。HPには、コンピュータのプロは沢山いらっしゃると思いますが、システムソリューション提供にあたり、どういった体制がベストだと思いますか。

C.フィオリーナ 私たちは、情報関連の様々な製品に常に注目しており、これらの製品に対するニーズに応えるため、品質の向上に努めています。またシステム管理においては、ソフトウェアプラットフォームが大切だと思っています。顧客サイドは、現在個々に確立されているシステムの統合を望んでいます。このため汎用性を高め、さらに連携を図り、調和の取れたシステムを提供することが重要です。サーバー、ストレージ、ソフトウェアなどをトータルで汎用性を高め、それぞれの連携やシステムの再構築などを必要に応じた形で容易に行えるようにしていきたいと思っています。

立川 NTTドコモでも、汎用的にどんな企業にでも適用できるようなミドルウェアやOSなどは、専門チームで開発を行いますが、最終的にはそれぞれ個々の企業に合った形で、カスタマイズする必要があります。そこで、これをどのような体制を組んで行っていくかという点で、特に効率性の問題があげられると思います。効率性に関しては大変苦労しています。沢山の人を割り振ればいいかもしれませんが、それでは効率が悪くなります。お客様は、差別化されたものを求めているという点で、カスタマイズ化の効率に関して、どのように改善を図るかが課題です。

C.フィオリーナ そうですね。私もそういった部分での問題はあると思います。どこで他社との差別化を図っていくかが問題になります。標準化されたオープンなシステム環境で、汎用性を高め、かつ安価で、製品力に優れ、管理しやすいものをお客様は求めようとします。私たちは、システムレベルで、その時々に応じたカスタマイズが最善の策だとは思っていません。時には、アプリケーションレベルでのカスタマイズも必要です。顧客がどういったニーズを抱え、システムのどの部分に一番注力しているかということを理解することが必要だと思います。こういったケースでは、プラットフォームそのもののカスタマイズは必要とされていません。例えば、プラットフォームそのものをカスタマイズすると、コスト的にも非常にかかりますし、だからといって最終的に顧客満足が得られるとは限りません。もちろん、時には、多くの部分をカスタマイズする必要もありますし、全てのシステムをカスタマイズする必要もあると思いますが、こういったケースにおいては、非常にコストがかかりますね。

立川 日本の企業はシステム全てのカスタマイズを行う場合が多いですね。そろそろメインフレーム時代の悪弊から脱却しないといけないと思っています。

C.フィオリーナ それは、情報技術の黎明期から引き続いている考え方ですが、もはやそういう時代ではありませんね。ただそういう背景があるので、日本の企業もそのような考え方を引き継いでいるのでしょう。例えば、車を買う場合でも、新しいタイヤが必要になった場合に、タイヤだけ交換すればよく、車そのものを買い換える必要はありませんよね。またタイヤを買う場合でも、様々なメーカーの異なる価格の中から選ぶと思います。情報システムも同様で、全てのシステムを交換することなく、必要な部分だけ、必要に応じて、カスタマイズしたり、交換したりすればよいと思います。

カスタマイズ・ニーズへの対応方法

立川 実際にソリューションの提供にあたって、お客様からはかなりマイナーな事項までいろいろとカスタマイズを加えて欲しいという要求も多いと思います。確かに企業によって業務プロセスというか仕事の進め方に差があります。企業にとっての基本線は守りながらも、折角システム化するわけですからこの機会に、標準化された、より効率のいいプロセスに変更されるように提案することを心がけています。NTTドコモではこのように考えていますが、HPではどのように対応されますか?

C.フィオリーナ もちろん、顧客はそれぞれ異なる要求をだしてきます。ただ私たちが最も重要だと考えていることは、どういった部分にお客様のニーズがあるかということです。時に応じて、システムを段階を踏んでカスタマイズを加えながらさらに高度な、汎用性の高いものに構築していくことで、汎用性の高いニーズに対応したシステムとして構築することが可能であると思います。

立川 そういう意味では、HPはソフトのパッケージ化ということは強調されていますか?

C.フィオリーナ HPのみで、すべてのニーズに応えることができるとは思っておりませんので、パートナーとの協業をそれぞれのニーズに応じた形で行っていきたいと思っています。すべてを独自に開発したり、ソフトウェア開発のすべてにおいて携わったりする必要はないと思います。市場が見込めれば、ソフトウェアベンダーとのパートナー契約も必要だと思っています。

立川 NTTドコモでも、できるだけパッケージを作って安く提供できるようにしようとしていますが、従来の業務プロセスを変えることを嫌がるお客様も多く、たとえパッケージを提供しても、従来の業務プロセスに即した形で変更して欲しいという要求が多いのが現状です。この場合、コストがかかるということを説明させていただいても、なかなかお客様の理解を得ることはできません。こういった部分の苦労は、共通していますね。そういう意味で、柔軟性のあるソフトウェアパッケージの登場を期待しています。

C.フィオリーナ そのとおりだと思います。技術の進歩はとても速く、そのスピードは、私たちの想像を超えることもあります。技術を活用する人間側として、大切なことは、従来の方法に添った形でのカスタマイズを求める替わりに、柔軟な考え方を持って、対応していくことだと思います。おっしゃるとおり、柔軟性のあるソフトウェアパッケージに関しては、今後もその登場を期待していますし、この点に関しては同感です。業務システムにおける管理体制を変えていくことはとても大切なことだと思います。技術が進歩しても、そのユーザーである人々の考え方や、業務方法が変化しなければ、変えていくことは難しいです。

立川 そうですね。両者は、相対することがありますね。社員の業務のやり方、考え方を変えていかなくては、最適なソリューションとはいえませんね。ドコモでも、2002年の4月から社内に新しい企業情報システムを導入しましたが、こういった業務プロセスの改善も含めた新しい企業情報システムは、管理体制の変更や、使いやすさなどユーザーである社員の抵抗感をいかに少なくするかを考慮したうえで導入を図ることが重要だと思います。

C.フィオリーナ HPでも約2年半前、社員各人の勤務日の確認や、コラボレーション、またコミュニケーションを図るためのプラットフォームを社内で導入しました。この時、やはり、社員からの抵抗がありました。特に従来からの管理体制を変更することはとても大変でした。多くの社員が、以前の体制に戻りたいといっていました。2年半経った今、利用者は非常に親しんでいます。

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(こちらは2003年2月号になります)

(この続きの内容)
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