●NTTデータの行政分野への新たな取組み

第3章】
変化する社会と政府1
「政策評価動向」


1.米国の動向

 行政評価、IT投資評価の運用を開始するなど、この分野で先進的な米国政府の取組みを紹介する。

■GPRAによる業績評価システム


 1993年、米国議会は連邦政府の全省庁に対して行政評価を義務付ける法律案「政府業績・結果法GPRA(Government Performance Results Act of 1993)」を超党派で可決した。

 各省庁は単に行政評価を取り組むだけではだめで、組織・政策の目的と達成目標、測定指標を具体的に定め、継続的に実行することとなった。また、各省庁はGPRAで規定された計画とレポート(表1)を議会へ提出する必要もある。画期的なのは、各省庁の予算案とこれらGPRA文書の議会への提出がセットになっていることだ。これによって各省庁はGPRAに真剣に取り組まざるを得ない。



 最も重要なのが業績プランにおける達成目標設定の部分である。達成目標は、抽象的ではなく、定量化して測定可能な目標を掲げ、さらに、それを測定する方法が必要である。この測定手段としてバランススコアカードがよく利用されている。1992年にハーバード大学のロバート・カプラン博士とデイヴィッド・ノートン氏が開発した戦略的なマネジメントの方法論で、財務、顧客、内部プロセス、学習という4つの視点からの目標を設定する。

■各省庁におけるGPRA体制

 GPRAの全体的なプロセスは、各省庁に設置されたOffice of Planning によって監督される。このオフィスはChief Financial Officeの管轄権のもとにある。戦略プランや業績プラン策定における役割は、以下の3つに分けられる:@部門業績プラン策定を支援、A各部門が策定した業績プランの承認、B各部門の業績プランをとりまとめ省庁レベルの戦略プランを策定し長官に提出。

■GPRA主要監督省庁と役割
【行政予算管理局:OMB】
 OMB (Office of Management and Budget)は、各省庁の予算要求を評価する責任を負う。また、省庁のGPRA文書(GPRAで提出が義務づけられている文書)をレビューする責任もある。

 省庁の予算要求書とGPRA文書の両方をレビューすることで、OMBはその省庁が計画している予算が彼らの述べているゴールや達成目標に沿ったものになっているかどうかを判断することができる。GPRA文書のレビュー後、その戦略プランと業績プランを承認するが、内容に修正が必要な場合はその省庁の長官にもどす。

【米国会計監査院:GAO】
 GAO(Government Accounting Office)は、議会の視点から連邦各省庁の戦略プランと業績プランをレビューし、コメントする。また、十分な業績測定方法の開発といった政府全体に関わる問題も議会に報告することになっている。

■IT投資評価:ITMRA法

 IT関連プロジェクトの評価については、1996年にIT調達の改革を目指した「ITマネジメント改革法(ITMRA)」が制定された。各省庁は、IT投資プロセスと戦略立案とを連携しなくてはいけなくなった。

 各省庁はITプロジェクトが適切に管理され、その省庁のゴールや達成目標に合致しているかどうかを明らかにするための業績測定方法を開発する必要にせまられた。ITプロジェクトの業績測定は、次の3段階に分けられる。

@ITプロジェクトの選択
AITプロジェクトの途中の中間評価
BITプロジェクト導入後の評価


 ITプロジェクト選択段階に入る前に、省庁のゴールおよび達成目標にITプロジェクトを連携する作業を行う必要がある。さらに、現状のIT資産とITプロジェクト実施のため必要となる資産のギャップを明らかにする。そしてどのITプロジェクトが最も有効な投資対象となるかを選択する。これらの業績測定を行うためのツールとして、「IT投資ポートフォリオシステム(ITIPS)」が11省庁で活用されている。ITIPSは、「選択」「モニター」「評価」の3つのモジュールから構成されており、IT投資マネージャーの意思決定とシステム導入後の業績レポート作成をサポートするもので、システムの業績測定にもITを利用して効率化が図られている。

 ブッシュ政権は、小さな政府・パフォーマンス志向のもと、IT投資評価の指標ともいえる電子政府フレームワーク、EA(Enterprise Architecture)を構築している最中だ。この取り組みによって、重複プロジェクトを省くこと、共通化をいっそう強力に推進している。行政評価の予算要求とのリンクのしくみとして、予算要求仕様書ともいえるExhibit300を活用しはじめている。

■今後の課題と解決

 GPRAやITMRA法の導入により、連邦政府の各省庁では明確な目標を設定してプロジェクトを推進する「パフォーマンス指向」の考え方が浸透したが、そのためには多くの経験が必要だ。たとえば、GPRAの場合、現状24省庁のうち、自ら採用した測定方法に自信を持っているのはわずか4省庁だけである。

 測定方法の開発は重要、かつ最も複雑で困難な課題である。議会はアウトカム測定法を求めているが、測定データを集めることが非常に困難であり、導入にはまだ時間がかかるだろう。また、計画策定プロセスの中で外部関係者やサービスを受ける市民からの意見を取り入れることも、もっと積極的に行うことが必要であり、意思決定者がタイムリーな業績情報を確実に得られるようにする必要もある。

 このような各種の課題を抱えながらも、米国では、連邦政府におけるGPRAやITMRAが着実に進められている。

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(こちらは2003年1月号になります)

(この続きの内容)
2.日本の動向

■中央省庁の政策評価
■中央省庁のIT投資評価
■評価の手法
■今後の課題

3.NTTデータの取組み
■進まない自治体の行政評価
■NTTデータの取組み

 

 


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