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あちらたてれば、こちらたたず

第2回 ジョハリの窓
杉田 洋光

 C社のM社長は、最近、優秀な社員が次々と辞めていくのが気がかりでした。

 そこで辞めたいと申し出る社員に、なぜ辞めるのかと理由を聞くことにしました。会社に不満があるなら、それを直せば辞めないようになるという期待を抱いてのことです。

 しばらくして彼はガッカリしました。みんなハンコを押したように、学校に行ってもっと勉強したい、郷里に帰って家業を継ぐ、外国に行って生活したいといった、もっともな理由ばかりだったからです。会社生活に不満があるという理由の人は、1人もいませんでしたので、引き止めようもありませんでした。

 でも、M社長の推察は当たっていました。表向きの理由のほかに、裏の理由が存在していたのです。正当に評価されていない、提案しても自分の意見が無視される、意に添わない仕事を与えられる、上司が傲慢で我慢がならないといったことがあって辞めるのだと、仲間内ではささやかれていました。

 定年近い先輩の姿から、何年か後の自分の姿をイメージして、このままではだめだと一念発起して、アメリカのMBAに挑戦するといって辞めた人も、会社には前段は省略して、単にアメリカに留学したいと言っただけでした。

 心理学者のジョセフとハリスは、人の心の中には、4つの窓がついていて、それらの窓を一つひとつのぞいてみると、次のような「自分」の特徴があるといっています。これを「ジョハリの窓」といいます。

 第一の窓は、「開かれた窓」です。自分も他人もよく知っている自分です。この部分が大きければ大きいほど、人は自然体で振るまえます。

 第二の窓は、「盲目の窓」です。他人は知っているが、自分自身は気づいていない自分です。

 無くて七癖、知らぬが仏、はだかの王様といった言葉がありますが、「盲目の窓」を指しているといえます。三浦綾子の名作「氷点」の主人公陽子は、出生についての「盲目の窓」を持った人物として登場します。

 第三の窓は、「隠された窓」です。自分はよく知っているが、他人は知らない自分です。

 初恋の思い出、不倫に悩む、逃亡する犯罪者など、文学作品や宗教のテーマとして多く取り上げられます。敵討ちを胸の奥に秘める、忠臣蔵の大石蔵之助はここに入ります。

 第四の窓は、『暗い窓』です。自分も他人も知らない未知の自分です。潜在意識あるいは無意識といわれる心の部分です。

 C社を辞める人の心理状態を、「ジョハリの窓」を用いて説明するとどうなりますか。

 またあなたの「ジョハリの窓」を開いてみてください。何が見えますか。

 またM社長にワンポイント、アドバイスをしてあげてください。

 定年離婚、成田離婚などは、どの窓が関係しますか。

 会社の人事管理、人間関係の良好な維持を考えるとき、「ジョハリの窓」を覚えておくと、役に立ちそうですね。

こちらにご意見、ご感想をお寄せください。

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