●NTTドコモのモバイルソリューションとユビキタス戦略

【インタビュー:ユビキタスビジネス戦略】
動くモノすべてとコミュニケーション
する仕組みの創出を目指す


■コミュニケーション形態の多様化に様々なデバイスが結びつき、新たなソリューションが生まれる

―人と人、人と機械、さらに機械対機械のコミュニケーションへと形態が多様化してきている。

三石 これは動くものではないですが、自動販売機の商品在庫状況やつり銭状況をデータとして報告するといったこともすでに実現しています。また、新しいコミュニケーションツールとして、「みまもりホットライン」というサービスがあります。これは、電気ポットの電源を入れた、切った、給湯ボタンを押したといったデータがポットに内蔵されたパケットデータ端末DoPaを通じて送られるというサービスです。一人暮しの老人が元気でいることを確認できるものですが、新しいコミュニケーションツールだという評価もされています。つまり、いつも押す時間帯に押さないといったことがあると、これを話題に、「どうしたの?」と電話する。すると「昨日遅くてさ」という会話が生まれる。機械によるコミュニケーションなんですが、ポットの動きだけで伝えられるメッセージもあるわけです。

―機械と機械のコミュニケーションが進むとどのようなことが起こるのでしょうか。

三石 ネットワークに接続されたさまざまな形のコンピュータが、まさにユビキタスに存在(遍在)し、人間が意識しなくても機械同士が相互に情報をやり取りし、何らかの計算処理あるいは管理を行っている、という世界になっていくと思います。

 自宅のシャッターの開閉を、人が携帯電話で遠隔制御できるような仕組みはすでにありますが、人間が操作するのではなく、センサーによって在宅か留守かを検知して、自動的に制御できるようになります。また、車の運行管理でも、渋滞などの情報を入手し、条件変化に応じて人間ではなくコンピュータが新たな指示を出せるようになります。マシン間通信を通じて、環境や状況、あるいは人の特性に応じて、その時々で最適な状態を作り出すということです。

 また、コミュニケーションの形態が多様化してきますと、そこにいろいろなデバイスが関わってくることで応用範囲がさらに広がってきます。例えば、商品管理をバーコードから無線IDタグ(RFIDタグ)とし、その無線IDタグと携帯電話が交信するようになれば、スーパーで買い物をした際に、カゴに何が入っていて合計金額が幾らかをRFIDリーダで読み取り、それを携帯の画面に表示させ、その場で決済することもできてしまう。商品全部に無線IDタグが付けば、冷蔵庫自身がその中身を把握できるようになります。スーパーで「今日はカレーライスを作ろう」と思ったときに自宅の冷蔵庫の中身を携帯で確認し、足りない食材を買うことができます。

―FOMAの動画機能を使うと、さらにいろんなことが可能になる。

三石 FOMAの動画機能には大きな魅力があります。FOMAでは、複数の会議参加者を1つの画面に表示して簡単なテレビ会議ができます。FOMAさえ持っていれば、どこでもすぐに簡単にテレビ会議をすることができるのです。今後、動画によるコミュニケーションが当然になっていくと思います。FOMAと他デバイスの結び付きでは、例えばカメラ付きインターホンとFOMAを結べば、留守中でも宅配便の配達員さんの顔を見ながら、再配達の依頼ができます。また、首輪型のデバイスにモジュール型携帯端末を組み込めば、外出中でもペットの健康状態等を常に把握することができます。

 このように、楽しく豊かで快適な生活を実現したい。そのためのユビキタス化技術は、ありとあらゆることに適用できる無限の可能性があるわけです。

■大事なのはコラボレーション。みんながハッピーになる関係を目指す

―携帯で本格的なユビキタス化を目指す際の解決すべき課題は。

三石 とにかく小型で長持ちし、壊れない端末が必要になってきます。携帯電話もポケットに入れられるようなサイズになりました。しかし、これよりはるかに小型で、なおかつ過酷な環境のなかでも使えるようにするという技術的な課題を解決していかなければなりません。これが解決して、いろいろな物に取りつけられるようになると端末数が急増します。動くモノ、動かないモノのすべてにつけるということになると、膨大な数になります。そこで、IPv6のような国際基準に基づいて無限に近いものを管理できる仕組みが必要となります。国際的な観点でこの問題をクリアしないと本格的なユビキタス化は困難です。

 小型化については着実に進展しつつあり、コンパクトフラッシュ型の端末が現実のものになっています。さらに抜本的な小型化(モジュール化)を進めるのと同時に、電源を改善し、機能を盛り込んでいくとともに、たとえば前述した無線IDタグのようなものと組み合わせれば、通信対象を大きく広げることができるようになります。

 モバイルにおけるユビキタス化のキーワードは端末の小型化、そしてその端末を識別することです。また、人や物に関するますます詳細な情報が飛び交うようになると、認証を含めたセキュリティの確保がさらに重要になってきます。

―ユビキタスビジネスを推進するに当たって、どのような点に留意されていますか。

三石 私どもだけではなくて、さまざまな業界の方々との協業(コラボレーション)によって、新しい仕組みが実現できます。例えばモバイルコマースでは、弊社だけで新しいコマースをやっているわけではありませんし、カード業界もモバイルコマースに向けたいろいろな取り組みをされている。そういうものの組み合わせでビジネスが成立していきます。ユビキタスビジネスを広げていこうとしたときに、いろいろな業界の方々とのコラボレーションをしていくということが大事なポイントだと考えています。つまり、ばらばらにあったいろいろなサービスを融合することが、ある意味ではユビキタスの根本であると認識しています。

 先ほどお話しした「みまもりホットライン」というサービスは、象印さんとNTTドコモ関西などとのコラボレーションにより実現したものです。とにかく、新しいユビキタス・ビジネスを構築するときに、私が重要と考えているのは、いろいろな業界の方々とのコラボレーションです。そして、「みんながハッピー」な関係になることを目指しています。機械と機械のコミュニケーションが、人と人とのコミュニケーションを促している「みまもりホットライン」も、まさにそれに相当するソリューションではないかと思っています。

■新たなサービスが生みだせれば、マーケットは大きく成長する

―NTT ドコモでは、2010年のモバイルの潜在需要は5億7,000万としていますが。

三石 表に示すように、2010年のモバイルの潜在需要を約5億7,000万と考えており、その内、人が1億2,000万端末で、それ以外が4億5,000万端末となります。これらの需要に対応できる時期はもっと早くなる可能性もありますし、世界的にウェアラブルコンピューティングに向かっています。それにモバイルを付加すればモバイルコンピューティングそのものになります。小型で安価なウェアラブル機器が世界中で使用されれば、モバイルの世界でも大きなブレークが発生するのではないかと思っています。

 小型・安価なウェアラブル機器を実現するためには、先ほど申し上げたようないろいろな課題があります。しかし、それらをクリアすれば飛躍的に増えると認識しています。日本では4億5,000万と見ていますけれど、グローバルな世界で見るともっともっと大きなマーケットが出現すると考えています。

 1980年代だと思いますが、将来の携帯電話市場規模を試算したことがありました。その頃に2000 年の市場は1,000万から2,000万端末であろうと見ていた。それが現実には約6 000 万となったわけで、これは誰も予想していなかった数字です。世界的にはもっと大きな数字になりました。この要因は、技術の進歩が速かったという点だけではなく、お客様の要望がそれだけあったということになります。したがって、これからのユビキタス化は、お客様にどれだけ要望していただけるか、魅力あるサービスを提供していけるかがカギです。


モバイルの潜在需要

―今後の市場をどのように捉えていますか。

三石 最近、携帯電話市場は飽和した、とよく言われています。しかし、それは人とのコミュニケーションの話であって、新たなサービスが生み出せれば、マーケットは大きく成長していくと思っています。そして、次の成長のかぎはユビキタス化であると考えていますし、それに向けて努力していきます。

 携帯でありとあらゆることができるようになり、生活が豊かになる。そしてマシン対マシンのコミュニケーションによって、マシンの存在すらわからないけども快適な生活が実現される。それに向けた活動がユビキタス化だと思っています。

―本日は有り難うございました。

(聞き手:本誌編集長 河西義人)


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