創刊40年目を迎えて

 弊誌『ビジネスコミュニケーション』は、この3月号で創刊40年目を迎えることとなった。これも長年にわたってご支援いただいた読者の皆様、ご執筆者の皆様、さらには編集面でご指導いただいた尾佐竹徇現・東京大学名誉教授をはじめとする多くの方々のお陰であり、ここに厚く御礼申し上げる次第である。

 弊誌は昭和39年(1964年)3月、専用線サービスの普及拡大を目途に、当時の電電公社・国際電電、メーカー、専用線ユーザーを繋ぐ情報誌として創刊された。誌名も『ビジネスコミュニケーション 専用通信』であった。創刊号の表紙には、さん孔テープがコラージュされている。さん孔テープは、紙テープに穴をあけて情報を記録する記録メディアであった。

 昭和39年は、東京オリンピックの年であり、それに向けて突貫工事で進められていた種々のインフラ建設が完成した年であった。同年8月2日には羽田から都心への高速道路が開通、同年10月1日には東海道新幹線が営業開始、そして同年10月10日に東京オリンピックの開会式を迎えたのである。したがって、弊誌は、ほとんどこれらと同じ年代を経ているのである。

 創刊から現在までの丸39年間、ビジネスコミュニケーションを支える基幹技術である、電気通信と情報処理は、驚異的な発展を遂げた。当時電気通信はほとんどが電話と電信であり、音声と速度が50ボー(bps)の文字の伝送がほとんどであった。このほかには、写真電送、模写伝送と1200bps程度の速度のデータ伝送がわずかに行われていたに過ぎない。したがって、いわゆる専用線サービスの回線数も10万回線程度であった。サービスも国内は電電公社、海外はKDDが独占的に任されていたわけで、これが自由化されたのは昭和60年である。情報処理についても、当時はコンピュータもいわゆる第2世代と言われて、ほとんどがバッチ処理で利用されており、オンラインシステムは、昭和35年に専用マシンによって国鉄(現JR)や近鉄が座席予約システムの運転を開始しているが、汎用機によるものは昭和39年頃からである。IBMが360シリーズと称する第3世代コンピュータを世に出したのも昭和39年であるが、その後コンピュータの性能は飛躍的に向上して今日に至っている。

 こうして現在では、この領域は一般用語として「IT」と称され、ビジネスはもとより社会全体の諸活動に必要不可欠なインフラとしての役割を果たしており、この39年間の変貌はまことに驚異的である。しかし、一方で、この間ほとんど変わらず、その変わらないことが、むしろ問題となっている点も少なくない。ここではそのうちの3点を指摘しておきたい。

 ひとつは、経営者のマインドである。今や情報システムは企業にとって、その命運を左右するほどの存在になっているが、それにもかかわわらず企業における情報システムに対する対応は昔も今もほとんど変わっていない。企業の情報システムを担当する役員としてCIOを置いている企業は多いが、CIOの地位は決して高くなく、その結果、経営者は誤った判断をして、企業活動に支障を与えたり、経営効率を低下させたりすることになる。昨年4月のみずほグループのシステムダウンのような例は少なくない。

 政府の管理監督組織も問題である。コンピュータは通産省から経済産業省、通信は郵政省から総務省へと、省庁再編においても変わらず別々に引き継がれている。今や世界の主要国で、ITをこのように2つの省で分断している国はない。これでは、いくらe- Japan計画などと言っても、ITに対する一元的な国家戦略を構築することは極めて難しい。

 もう一点、わが国のコンピュータ産業界では昭和40年代から30年以上にわたって、IBMに追いつき追い越せをモットーに技術開発に力を入れてきた。しかし、気が付いてみると、ルータ、サーバの時代になり、ハード、ソフト両面において、かなり米国の後塵を拝する結果となっている。例えば、わが国のソフトウェア産業の市場規模は約14兆円と言われているが、パッケージの95 %が輸入によるなど、今やわが国はソフトウェアの輸入大国である。このようなことになった理由のひとつに、ベンチャー企業や専門企業が育つ土壌が醸成されていないということが以前から指摘されていた。早く思い切った構造の改革をしない限り、現状の改善は期待できない。

 通信と情報処理の世界はまだまだ発展していくであろう。わが国がその流れに遅れることなく、進んでいくことを祈念するとともに、弊誌『ビジネスコミュニケーション』が、わずかでもその進展のお役に立つことを、創刊40年目を迎えるにあたり改めてお誓いするとともに、読者をはじめ皆様方のさらなるご指導・ご鞭撻をお願いする次第である。

 なお、ご参考までに、創刊号に掲載された、当時の大橋八郎日本電信電話公社総裁及び野口謙也郵政省電気通信監理官、佐佐木卓夫日本電信電話公社総務理事・技師長の玉稿と、内容目次を再掲する。

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