●NTTドコモ北陸の最新モバイルソリューション
 劾TTドコモ北陸
 代表取締役社長
 菅原 光宏氏


【第1章・トップインタビュー】
NTTドコモ北陸における
モバイルマルチメディアの展開


顧客に近づき、ニーズを把握し、迅速に対応する。場合によっては、中央ドコモと渡り合っても、経営責任を果たすという信念に基づいて、経営トップとして社員の行動をコミットしサポートしつつ北陸地域におけるモバイルマルチメディアの普及拡大を陣頭指揮するNTTドコモ北陸の菅原光宏社長に、最近の状況を聞いた。

■まず行動し、顧客に近づくことが重要、そうすることで次の手が打てる


―貴社は北陸地域をエリアとするモバイルビジネスを展開されているわけですが、まず初めに北陸地域の特徴からお聞かせください。

菅原 富山・石川・福井の3県で構成される北陸は面積12,621平方km (全国の3.3%)、人口は約313万人(全国の2.5%)で、東京、名古屋、大阪の3大都市圏から300km以内の距離にあります。産業構造は、製造業の比率が高く、卸・小売業やサービス業の比率が全国的に見て低いという特徴があります。北陸は日本海側屈指の工業圏であり、眼鏡フレームや洋食器など世界でもトップシェアを誇る企業が数社ありますし、ニッチで世界一の企業が20もあります。最近では産業構造の高度化が顕著であり、優れた技術を持つハイテク企業が集積しつつあります。また住環境は全国トップクラスであり、教育環境も充実しており、進学率は全国トップレベルです。国道41号線は別名「ノーベル賞街道」とも言われています。さらに、なんといっても北陸は伝統の香高い、歴史と文化の地です。

―そのような北陸地域におけるモバイルを取り巻く環境についてどのように捉えていますか。

菅原 私はNTTドコモに入り、サービス開発部長としてモバイルマルチメディア(当時はモバイルコンピューティングとかワイヤレスデータといっておりましたが)に最初に取り組みましたが、まさかここまで急速に盛んになるとは正直思っていませんでした。NTTドコモグループ内のモバイルマルチメディアへの取組姿勢は、地域の状況に応じて異なっており、当然ユーザー層もまちまちです。例えば私は、前職のNTTドコモ関西の副社長時代に、新しいものが生まれる土壌のある関西の特性を踏まえ、低迷していた関西経済に何かインパクトを与えたい、モバイルマルチメディアに対する社員のモチベーションの向上、さらには社会貢献等を目的に、情報発信のために誰もが使えるプラットフォームとして、独自のiモードコンテンツサイト「モバイル・アイ」を作る等、常に挑戦的な施策展開を行いました。

―菅原社長がドコモ関西の副社長に就任されて、当時、関西圏では競合他社に押され気味だった市場を大きく覆したきっかけとなったのがi モードだったわけですね。

菅原 そうですね。重要なのは契約数つまり顧客シェアではなくて、トラフィックシェアです。そのためには、いかに付加価値を高めるサービスを提供するかです。当時、「モバイル・アイ」をはじめ、i モードを利用した学生コミュニティ「iモードカフェ」など、iモードの付加価値サービスを積極的にプロモートした結果、iモードの契約率は全国トップになりました。昨年6月にドコモ北陸にきたわけですが、北陸地域での状況はどうかというと、極めて安定的競争環境にあるというのが第一印象でした。もともと北陸地域におけるインフラの投資は、東名阪に次ぐ規模で行われていました。有線系のポテンシャルは高く、金沢における光ファイバの敷設率は大阪よりも高いと言われています。モバイルについては若干認識が弱く、普及拡大への積極的な取組みを行う必要があると感じました。確かに、北陸地域のモバイルマーケットは、人口から見ても全国でも小規模だといえます。しかし、その中で競争相手を徹底的にリードする位の気概を持つことが必要です。そして、とにかく行動して顧客に近づき、地域や顧客に密着したビジネスを展開することが重要で、そういう考えで経営の舵取りをしています。幸い法人営業にとっては、市場規模が小さく、お客様との距離も近いということで、アカウントマネージャーが企業のトップに直接会える環境ができており、ある意味やりやすいといえます。とにかく市場に積極的にアクセスし、ニーズを把握し、そしていかに迅速に対応するかです。経営者としては、社員の行動力を上げ、それをコミットメントしサポートすることが極めて重要だと思います。場合によっては、「中央ドコモの先を行く」くらいの考え方でビジネスを展開しています。

―現在はかなり熾烈な競争環境になっている。

菅原 そうですね。競争が前提ですが、携帯電話の市民権(ポテンシャル)を上げるために、時には協調することも重要です。例えば、社会貢献などは各社が協力することもあってよいと考え、現在「1年間1 契約について1円、社会貢献しましょう」ということをauとJ-フォンさんに提案しているところです。他社さんも地域に密着したビジネスを展開しているわけですから、地域への貢献は、経済基盤のかさ上げだけではなく、非常に大事です。

■携帯・PHS100万加入は目前、すでにiモード契約数は80万突破

―そのような北陸地域におけるモバイルの普及状況はいかがですか。

菅原 前述したように、北陸地域は、人口から見ても小さいマーケットです。2003年3月末現在の携帯電話・PHSの契約数は185万3,000で、全国8,111万8,000台の2.3%とほぼ人口と同じ割合となっています。しかし、人口当たりの加入数では、東名阪に次ぐ普及率です。

―185万3,000契約のうち、貴社の契約数はどのくらいですか。

菅原 私どもが98万3,000加入でシェア53.1%です。前年比1万7,000の純増ですから、今年度中には当面の目標である100万加入は、間違いなく達成できそうです。また、iモードの契約数が、1999年2月22日のサービス開始以来、4月5日で80万に達しました。サービス開始から約4年2カ月で80万突破となり、携帯電話の契約数約95万におけるi モードの占める割合は約84%まで拡大しております。これは、NTTドコモグループの中でもトップクラスです。

―i モードの導入が加速した主な要因は。

菅原 カメラ付ケータイと「i ショット」サービスの提供、i モードの高速化・「i アプリ」コンテンツの充実等があげられます。私どもでは、積極的にi モードによるビジネスソリューションの提案や、魅力的なコンテンツの提供等を図っています。私は、法人営業で新規顧客を獲得した時は必ずi モードを薦め、そしてイントラネットの構築をお勧めするようにと言っています。私自身、トップセールスの際に、i モードによるイントラネットへのアクセスをデモしています。また、いわゆる「i モード教室」にはドコモショップに積極的に取り組んでもらっています。まだまだ利用率の向上の余地はあると信じています。

―NTTドコモ北陸のオリジナルサービスとして、誰でも簡単に写真付きホームページが作れる「ビジュアルアップi」を提供していますね。

菅原 これは、NTTドコモ北陸発のすばらしいサービスだと自負しています。面倒な操作は一切不要です。撮った画像をiショットやEメールでセンターに送信するだけで自動的にホームページに登録され、iモードとパソコンのどちらからも見ることができます。私どもも、防災訓練や金沢百万石まつり、城端むぎや祭といったイベント画像を、このサービスを利用して情報発信しています。顧客の獲得も順調です。少数精鋭という気概もあり、件数は少ないがサービスの完成度の高さは自慢ができると言っていいでしょう。


図1 ビジュアルアップiによる情報発信例

■モバイルマルチメディアの市民権を得るために、便利さの周知に注力

「弊社の社員もプロモーション企画や、新規ビジネスの創出等、いろんなことをやりたいと思っているわけで、私はその背中をポンと押してやれば良い…」

―昨年、社長に就任されてすぐにモバイルマルチメディアの推進体制を強化されました。

菅原 MM(モバイルマルチメディア)に関わるアプリケーションの高度化・多様化への対応とMM商品・システム商品の販売促進、新規ビジネスの創出等の充実強化を図るために、それまでの「MM 推進部」を「MMビジネス部」と「MMサービス開発部」に分割・再編しました。MMビジネスに関わるマーケティングとプロモーション企画、MM商品の販売サポート体制、アプリケーションの開発と新サービスの企画・開発体制を強化しました。これは着任前に方針化されていました。

―北陸地域でのモバイルソリューションの導入に関する意識はどのような感じですか。

菅原 私が企業のトップ層の方々に、iモードを使ってイントラネットへリモートアクセスするデモをお見せすると、「ケータイでそんなこともできるの?」と、皆さん驚かれると同時に、非常に興味を示してくださいます。これは、ある意味モバイルマルチメディアがまだまだ市民権を得ていないことの表れです。若者のネットケータイは流行っていますが、ビジネス要件でここまで活用できるということが知られていないというのは、我々の努力不足の一言に尽きます。便利なものを、より便利に使っていただく努力をもっともっとすべきです。

―便利さが理解されないから使っていただけない。

菅原 そういうことです。便利さを知らないからお使いにならないわけです。したがって、もっと便利さを訴求していくことが重要です。ビジネス、地域の情報発信にもっともっと活用していただきたい。「iエリア」についても、金沢・小松地域だけでなく、もっと細分するようにしていきたい。弊社の社員もプロモーション企画や、新規ビジネスの創出等、いろんなことをやりたいと思っているわけで、私はその背中をポンと押してやれば良いわけです。上司を説得するのに時間がかかるため、問題を先送りしてしまうということだけは、絶対に避けなければいけません。

―モバイルマルチメディアを楽しく紹介したホームページ「モバイルワンダーランド」や、モバイル体験(タッチ&トライ)ができる「モバイルラボ金沢」に加え、ソリューションフェアの開催など、モバイルの便利さを周知する取組みを積極的に行っていますね。

菅原 今年、2月に金沢・福井・富山で開催した「モバイルソリューションフェア2003」は大好評でした。重要なのは、前述したように、市場に積極的にアクセスすることによって、お客様からの意見を吸収することです。そういうマーケティングのチャネルを、営業もサービス開発部隊も代理店を含めた販売部隊もきちんと持っていて、そのニーズに基づいてお客様に様々な提案をする。そういう気持ちをチームとして育てていってポテンシャルを上げていくことが重要です。

■FOMA提供エリアを拡大人口カバー率約93%に

―本年3月末、FOMAの加入者数がグループ全体で33万を突破しました。北陸地域においても3月29日より提供エリアを拡大しましたが、FOMAの普及状況はいかがですか。

菅原 北陸におけるFOMAサービスは、2002年4月1日に金沢市・富山市・福井市など7市町でサービス開始(人口カバー率約37 %)して以来逐次提供エリアの拡大を図ってきました。本年3月29日からは石川県内8市17町、富山県内9市14町3村、福井県内8市15町においてFOMAの利用が可能となっています。これは人口カバー率にして約93%です。3月末現在の加入数は約3 ,000で、これは当初の計画値以上です。サービス提供エリアが拡大されたことで、今後普及が加速するのではないかと期待しています。特に、ネットワークのパラレル制御によって、アクセス速度が現在よりも速くなる10月以降には、さらにFOMAの魅力が倍加しますので、一気にドライブがかかるのではないかと思います。


写真1 「モバイルラボ金沢」のFOMAゾーン

―パートナーと連携し、映像監視などFOMA を活用したソリューション提案の強化と普及拡大を行っているようですが、手応えは…

菅原 FOMAサービスへの関心は非常に高く、特に映像監視系のソリューションや、CAD伝送等LAN アクセスソリューションに対するニーズは高いようです。端末については、特に最近では「FOMA P2102V」に対する申込みが多く、現在製品入荷待ちの状態です。こういった地域のニーズに合わせ、地域のハイテク企業と連携しCCDカメラにFOMAカードスロットを装備した小型・軽量の画期的な製品を現在開発中で、6月にはサンプル出荷を開始する予定です。新製品を活用することで、FOMA 端末から遠隔地に設置したカメラを自由に制御し、動画によるモニタリングが可能になります。

―NTTドコモ北陸発のFOMA対応製品ということですね。

菅原 そうです。非常に優れた技術力を持つ地域のハイテク企業とのアライアンスによる製品開発やソリューション提案を今後とも積極的に行っていきたいと考えています。iモードイントラもそうですが、お客様との一体開発、これが地域ドコモの役割だと思います。

■福祉をはじめ社会貢献活動にも注力

―1加入1円の社会貢献というお話がありましたが、福祉や社会貢献活動も積極的に支援されている。

菅原 昨年、「ぴあサポート」という団体が主催した「FOMAの体験会」に、グループ会社のドコモエンジニアリング北陸が技術協力を行いました。これは、ビジュアルホンを使用して、支援者が視聴覚障害者が映した映像を同時に見ることで、外出時の道案内や買物時の商品選択等をサポートするというFOMAを使った画期的なテレサポートの体験会でした。そして本年3月には、「見えにくい見えない人のための携帯電話体験会」を、au、J-フォンさんにも参加を呼びかけて実施しました。こういった活動は、障害者の方々にとっては便利な生活の情報を得る場、我々にとってはお客様のニーズを吸収する場として、双方にメリットがあるわけで、携帯電話のユニバーサルデザインにも役立ちます。私は、こういった取組みについて、トップとしてコミットすることが極めて重要だと考えています。NTTドコモ北陸では、社会貢献活動の一環として、夜間の交通事故防止に効果の高い反射蛍光グッズの普及支援を図るために、この4月より北陸各地に展開しているドコモショップで販売を開始しました。


写真2 今年開催された「見えにくい見えない人のための携帯電話体験会」の模様

■BSC導入で社風を変える

―最後に、今後の抱負をお聞かせください。

菅原 当面の目標である100万加入突破を目指し、業績評価の手法としてBSC(バランススコアカード)を導入しました。昨年12月にプロジェクトチームを作り、財務・顧客・業務プロセス・人材変革の4つの視点からビジョンと戦略を整理し、この4月から正式に導入しました。BSCによって企業のトップから社員一人一人までが、企業目標の実現に向けてビジョンと戦略を共有し、連携・協力しながら業務を進めることができるでしょうし、BSCによって社風をガラッと変えたいと思っています。今後、社員全体のモチベーションをいかに高めるかに、経営トップとして注力していきたいと思います。

―本日は有り難うございました。

(聞き手:本誌編集長 河西義人)

 

 


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