●NTT ComのICカードプラットフォームサービス 多目的ICカード提携と金融展開
 NTTコミュニケーションズ
 取締役
 eスマートトラストサービス部長

 遊佐 洋氏


【第1章・インタビュー
金融・公共分野への拡大も含め、ICカードプラットフォームサービスを積極展開

「セーフティパス(SAFETYPASS)」「セーフティパスビジネス(SAFETYPASS Business)」の名称で、BtoC、GtoC、BtoB、BtoEといった利用形態に応じて、多彩なICカードプラットフォームサービスを幅広く展開し、注目を集めるNTTコミュニケーションズ(NTT Com)のeスマートトラストサービス部。グローバルIPソリューションカンパニーというNTT Comの新事業ビジョンを実現するうえでも重要な役割を担うといわれるeスマートトラストサービス部の最近の取組み状況について、同部を陣頭指揮される遊佐洋取締役に聞いた。

■ネット上での信頼関係、eトラストの確立が最重要テーマ


―まず初めに、eスマートトラストサービス部の概要、主要ミッションからお聞かせください。

遊佐 まず、eスマートトラストサービスという部署名ですが、これは「smart card」すなわち「ICカード」と、「trust」すなわち「信頼、認証」からきています。ICカードと認証とこれらのベースとなるセキュリティ技術を結びつけてNTT Comにおける先端的なビジネス展開を図るというのが主要ミッションです。このような言い方をすると、技術オリエンテッドな手段を提供する部隊のように見えますが、真の狙いはネットにおける信頼、eトラストの確立にあります。

―eスマートトラストサービス部という組織名には、そういう想いが込められているわけですね。

遊佐 いってみればICカードやセキュリティ、認証というのは、eトラストを確立するための技術的な手段です。ネットは様々な取引やコミュニティにおいて、時間と空間を超越するといわれますが、残念ですがお互い顔の見えない間柄での信頼関係の形成は対面にはかないません。しかしここを克服しなければネットを用いた情報流通の活性化は図れません。つまりネット上での信頼関係確立の仕組みを作りあげることが、今後の健全なネット社会の発展のためにはどうしても必要となります。ネット上での信頼関係の確立、これが我々が現在持っている哲学です。

―一言でいえば、eトラストということですね。

遊佐 このe トラストを確立するためのセキュリティ技術をビジネス的に上手く組み立てていくことに取り組んでいます。

■NTT Comの新事業ビジョン実現のための重要な役割を担う

―貴社は先日「グローバルIPソリューションカンパニー」を目指す新事業ビジョンを発表されました。それに基づく今後の事業展開の中で、ICカードの多目的利用をはじめ、eスマートトラストサービス部が中核となって重要な役割を担う事業がいくつかあげられています。

遊佐 今回の新しい事業ビジョンの中で明確に謳われているICカードビジネス、セキュリティ、金融プラットフォームタスクフォースに関しては、我々の部が要になって展開するということで、責任の重大さを痛感しています。

■カード発行から運用・保守までトータルなICカードビジネスを展開

―新事業ビジョンの主要施策の中で、行政、交通、金融など、ICカードの多目的利用に向けたソリューションの展開があげられていましたが、NTT ComのICカードビジネス戦略をお聞かせください。

遊佐 ICカードというビジネスを捉えた時に、大きく3つあると考えています。一つは、例えばICカードを活用した社員証システムなど、ICカードのシステムをお客様のご要望に従って開発・導入するソリューションビジネスがあります。2つ目は、お客様がICカードを活用したビジネスを展開したいといった時に、それをバックで支えるシステムをある程度汎用的に組み上げてサービスとしてご提供する、いわゆるプラットフォームビジネスです。これは、非常に重要な分野だと思っています。ICカードを単に対面だけではなく、ネット上でも低コストで簡単に使える認証・決済プラットフォームサービス「セーフティパス(SAFETYPASS)」や、複数の事業者が1枚のICカードを共通に利用できるようICカードの多目的活用を統合的に運用管理するためのプラットフォームなどがこれに当ります。3つ目は、NTT Com自らがICカードを発行していくというビジネスです。

―すでにセーフティパスのビジネス展開で、相当枚数のNTT ComのICカードを利用者に直接発行している。

遊佐 プラットフォームビジネスは、これを利用する事業の開拓と同時に進めなければ意味がありません。プラットフォームを作ると同時に、それをネット上で使う実際のサービスそのものも自らクリエイトし、立ち上げていくことが必要です。セーフティパスには、コンシューマ向けとビジネス向けがあります。特にコンシューマ向けの場合、NTT Comの単独ICカードだけではなく他の事業者と提携して発行するパターンが圧倒的に多く、それによる提携ビジネスが生まれているということで、ビジネスの構図としては、非常に膨らみがあります。以上3つのビジネス分野のすべてについて我々は、社内の他事業部と連携しながら取り組んでいます。

■ICカードを用いた認証・決済プラットフォームサービス「セーフティパス」

―ICカードプラットフォームサービスであるセーフティパスのビジネスの方向性をお聞かせください。

遊佐 ICカードは非常に奥が深く一言で語ることは難しいのですが、ICカードの利用形態には、前述のようにコンシューマ向けと、ビジネス向けの2つがあります。

 これらをさらに仔細に見れば企業とコンシューマ間での利用(BtoC)、公共機関と住民間での利用(GtoC)、企業間の商取引での利用(BtoB)、そして職域での展開(BtoE)に区分されますが、さらに、最近では、もう一つ思わぬニーズがあることが分かりました。それは、企業内ネットワークの支線系で使うということです。図1に示すように、こういったICカードの様々な利用形態に対応したサービスソリューションを、ICカードプラットフォームサービスとして展開しています。


図1 NTT ComのICカードプラットフォームサービス

―その具体的なサービス名称がセーフティパスということですね。

遊佐 サービス体系上、コンシューマ向けサービスとして「セーフティパス」、ビジネス向けサービスとして「セーフティパスビジネス」を提供しています。前者のセーフティパスは、インターネット上の事業者がコンシューマ向けに提供するサービスに対し、セキュリティ上の問題を解消し、安心で快適なインターネットサービスを提供するためのプラットフォームサービスです(図2参照)。この場合インターネットショッピングなどBtoC向けEコマースでは、単に認証・暗号化を行うだけではサービスとして完結しません。必ず決済が伴います。したがって、認証・暗号と決済をセットで提供しています。例えばネット証券は、コンシューマがネット上で、極めて強固なセキュリティと、取引に連動する決済を必要とすることから最もニーズが高い分野です。クレジット業界の個人信用情報機関であるCICとの提携サービスもいい適用事例です。これは、クレジットカードの紛失・盗難や転居先等の連絡代行、個人信用情報の開示をインターネットで安全に行えるようにしたサービスです。CICの会員は、保有するクレジットカードをあらかじめネットで登録しておけば、紛失・盗難や転居した時に同社に連絡するだけで、会員に代わって登録済みのクレジットカード会社に一斉に連絡してくれます。また、ネットで自分の個人信用情報を請求し、確認することもできます。


図2 認証・決済プラットフォームサービス「セーフティパス」の概要

■大幅な需要拡大が期待できる金融業界との連携

―強固なセキュリティとICカードの多機能性という観点から、今後一番需要が多くなりそうなのはどのような分野ですか。

遊佐 やはり金融業界です。不思議なことに今、インターネットというバーチャルの世界では、クレジット番号を入力するだけで、クレジットカードが使われてしまい、本当にクレジットカードを持っているかどうかの確認はしていません。しかし、実際のお店で、カードを提示せずに番号を告げただけで買い物ができるかというとそれは絶対にできません。当然、ネット上でもリアルの世界と同じようなセキュリティの仕組みで取引を安全に行うべきでしょう。その際に不可欠となるのがセキュアなIP プラットフォームです。クレジットカードのIC化が進みつつありますので、セーフティパスとの連携により、その仕組みが実現できます。すでに我々はカード会社との提携を進めています。そして、今後、もっと重要になるのは銀行のICキャッシュカードとの連携です。

―全銀協が2001年3月にIC キャッシュカードの標準仕様を策定しましたが、なかなかICカード化が進んでいません。

遊佐 それは、単に磁気ストライプのキャッシュカードをICカード化するだけでは銀行側にとってメリットがないからです。現在、キャッシュカードを使うところはATMかデビットの2カ所しかなくて、これではすぐにICカード化する必然性は何もない。しかし、IC化によってもっといろんな活用の仕方が考えられるという点に着目すれば、銀行さんにとっても多大なメリットがあるわけです。例えば、ATMとインターネットバンキングはそれぞれ独立したサービスとして動いており、銀行側にとっては、チャネル対応がまったく違っています。ICキャッシュカードによって、リアルでのサービス展開とネットバンキングが統合できれば、銀行側にとってもメリットが大きいし、利用者の利便性も向上するわけです。また、ICカードの多機能性に着目すれば、交通系や行政を含めた様々な公共サービスとの連携も可能になります。我々は、すでに日本全ての銀行のICキャッシュカードに共通する「全銀協認証局」も受託運用しており、そのような拡張展開に極めて有利な立場にあります。

―金融機関と行政との結びつきはもともと強い…。

遊佐 税金や住宅・水道・学校等の公共サービス料金の収納業務、すなわち公金収納の分野でもセーフティパスとの連携によって大幅なコストダウンが図れるのではないかと考えています。このようにBtoCの金融分野はGtoCともつながりが深く、金融業界での展開に注力し、ソリューションをプラットフォーム型とSIを組み合わせた形で提供していきたいという強い思いがあります。

■IPsecによるハイセキュアなサービス「セーフティパスビジネス」も急拡大

―ビジネス向けのセーフティパスビジネスについてはいかがですか。

遊佐 セーフティパスビジネスは、プラットフォームとしてコンシューマ向けと同類の技術手段を使い、ビジネス向けに少し変更を加えたサービスです。このサービスがビジネス向けとして優れている最大の特徴は、IPsecによるハイセキュアな暗号路と、なりすましが不可能なICカード技術を用いた個人認証ということです。BtoBについては、ASP事業者向けにICカード認証のソリューションを提供しています。また、BtoEの職域向けには、多目的ICカードとして、キャッシュレス決済機能、入退室管理機能、クレジットカード機能、キャッシュカード機能、リモートアクセス機能などを搭載したIC社員証システムのソリューションを提供しています。VPNルータを導入することなくインターネット上で容易にインターネットVPNを構築でき、自宅や外出先からブロードバンドによる社内LANへのセキュアなリモートアクセスが可能になります。社員証にこのようなリモートアクセスのソリューションを組み込んで提供できるのは、我々以外にはありません。そういったことから、BtoEでの需要が急拡大しています。またすでに述べたように、IPsec暗号路というセーフティパスビジネスの特徴を活かし、企業ネットワークの支線系での活用が急速に増加しています。IP-VPNや広域LANで接続するまでもない末端の支線系まで、インターネットを使ってIPsecによるセキュアなアクセス環境を容易に実現しようという動きです。これは、まさに企業ネットワークの一部に、セーフティパスビジネスをバンドルするというものです。

―ビジネスの展開も行いやすいし、手離れも良い。

遊佐 リモートアクセスや企業ネット展開は非常に分かりやすい活用法なので、説明しやすく営業もやりやすい。主に企業ネット系(回線サービスとのバンドル)の営業は、他事業部のフロント営業部隊にお願いする形でビジネス展開しています。

■今年度の重点施策と将来の抱負

―IC カードプラットフォームサービスに関し、今年度の重点施策と将来展望についてお聞かせください。

遊佐 非常に幅広く多彩なビジネスを展開していることから、すべての分野でのビジネス展開に注力する必要があるわけですが、特にBtoC向けでは、金融・公共の分野での展開があげられます。また、ぴあとの合弁企業「ぴあデジタルライフライン」の電子チケット事業が今年から本格的に立ち上がります。この分野にも注力していきたいと思います。それからBtoEの職域と企業ネットの分野は、収益構造が非常に良いことから狙い目であり、重点分野の一つと捉えています。

 これまで、我々が基盤としてきたキャリア事業から高付加価値系に事業領域を拡大していくにあたって一番重要なコンセプトは、セキュリティだと思っています。セキュリティには非常に深い意味があり、ビジネスの仕方から見ると私は「守りのセキュリティ」と「攻め、すなわち明るいセキュリティ」があると言っています。従前のセキュリティビジネスは、顧客の安全を守るという、脅威への防衛ビジネス「守りのセキュリティ」だったのですが、これに対し「明るいセキュリティ」とは、インターネット上で、これまで実現したくても実現できなかった様々なサービスが、セキュリティ技術の進歩によって可能になってきたことに立脚します。新しいセキュリティ技術をベースに新しいサービスを開発し、積極的に明るくビジネス展開していく方針です。

―まさにeトラストですね。

遊佐 そうです。そういう観点で、お客様の信頼を得つつ、新しいセキュリティ技術に基づいた先駆的な事業をスピードに乗って展開していきたいと考えています。

―本日は有り難うございました。

(聞き手:本誌編集長 河西義人)

 

 


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