(株)NTTデータ 代表取締役副社長
PM社内資格認定委員会主査
中村直司氏

 

 

 情報システムの高度化・複雑化、さらにはユーザーニーズの多様化とステークホルダー(利害関係者)の増加に伴い、プロジェクトマネジメントの重要性が一段と高まっている。特にSI企業にとって、価格低減・納期短縮の要求に応え、競争力を確保するためには、PM(プロジェクトマネージャ)の質的向上とプロジェクトマネジメント力の対外的明示は必須となっている。日本を代表するSI企業であるNTTデータはこのほど、PM社内資格認定制度を中心としたプロジェクトマネジメント施策を導入した。施策導入の背景とねらいを、PM社内資格認定委員会主査でもある中村直司代表取締役副社長に聞いた。

■変一段と高まる
  プロジェクト
マネジメントの重要性

―まず、SIビジネスを取り巻く最近の状況、貴社の経営環境からお聞かせください。

中村 経済の明るい兆しが見え始めている今、情報サービス産業においては、一部に戦略的情報投資を拡大する企業が見られるのですが、市場全体としては依然厳しい状況が続いています。また、かつてのメインフレームを中心とした大規模システム開発から、Web技術などを活用した短期間・少人数の中小規模システムの開発が一段と増えてきています。
 このような状況下、NTTデータでは、更なる事業の成長に向けて「SIビジネスの競争力強化」と「新規ビジネスの推進」を重点経営方針として掲げ、展開して参りました。特に、SIビジネスの競争力強化については、大規模SI ビジネスの強化と同時に、中小規模SI ビジネスの拡大に向けて、方式設計の集約化、海外発注の推進、プロジェクトマネージャの早期育成などに積極的に取り組んでいます。

―最近、プロジェクトマネジメント、とりわけプロジェクトマネージャの重要性が叫ばれておりますが、このような状況をどのように捉えていますか。

中村 情報システム開発を取り巻く環境が大きく変化してきています。システムを利用するユーザー企業にとっては、例えば従来、企画からカットオーバーまで1年間かけて開発したシステムも、半年で開発しなければビジネス上生き残れなくなってしまう場合があったり、グローバルな競争に打ち勝つためには開発コストの抑制は不可欠となっています。一方、システム構築を請け負うSI事業者にとっては、ユーザーニーズの多様化、システム開発技術の高度化が進展する中で、お客様のご要望に応えていかなければ、厳しい競争に勝ち抜くことはできません。
 また、従来のIT化というのは既存業務の効率化を目的としたものが多かったわけですが、最近は業務革新を伴うIT化や経営戦略に直結したIT化ということで、取引先やパートナー企業など企業間を連携したシステムへと広がりを見せています。このため、SI事業者から見ると、従来は企業の情報システム部だけが「お客様」であったものが、経営部門、ユーザー部門であるとかお客様の取引先やパートナー企業など、多くのステークホルダー(利害関係者)がプロジェクトに関与するようになってきました。
 このように、ユーザー企業、SI事業者双方の事業環境が変化してきたために、従来にも増してプロジェクト運営を担うPM(プロジェクトマネージャ)の役割が重要で、かつ質的向上が求められるようになっています。

― PM の役割として、クオリティ(品質)とコスト(予算)とデリバリー(納期)の3つについて責任を持つこと以外に、どのようなことが求められているのですか。

中村 プロジェクトを完遂するためには、一般に言われるシステム開発のQCD(品質・コスト・納期)を中心とした管理の他に、プロジェクトのスコープ(目標、範囲)を明確にし、プロジェクト組織を立ち上げ、プロジェクトを運営するといった面のマネジメントが重要です。PMには、プロジェクトに介在する多くのステークホルダーを共通のゴールに向って束ねながら物事をすすめていくことが求められます。プロジェクトのスコープ、タイム、コスト、品質、リスクなどの相反する要求事項を統合的にマネジメントすることが必要です。

プロジェクトマネジメント施策を導入
− PM の質と量の確保が急務に −


―これまでお話いただいた現状に対し、このほど全社的プロジェクトマネジメント施策を導入されることとなったようですが、その主なねらいをお聞かせください。

中村 冒頭お話したように事業環境が変化しており、SIが事業の柱であるNTTデータにとって、PMの質的向上はもちろん、SIビジネスの拡大に向けてPM数の確保が喫緊の課題となっています。特に中小規模のSIビジネスを積極的に展開するためには、それをマネジメントするPMが量的に必要になっています。そういった課題解決に向けて、このほど「PM社内資格認定制度」を中心とするプロジェクトマネジメント施策を全社に導入することにしました。

―今回の施策を推進するための専門組織を設置されたのですか。

中村 IT企業を中心に、プロジェクトマネジメントの取り組みを推進する専門組織としてPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を設置する企業が多くなっていますが、NTTデータでは、今回のプロジェクトマネジメント施策の導入及び推進を担当する組織として、品質保証部内に「プロジェクトマネジメント推進室」を設置しました。このプロジェクトマネジメント推進室と人事部、経営企画部、各事業本部等が全社横断のワーキンググループを形成し、今般の施策を検討・推進しています。


          図1 PM を巡る課題

3つの重点施策の全社展開でPMを巡る課題を解決

―具体的な施策についてお聞かせください。

中村 具体的には、(1)PM社内資格認定制度の導入、(2)PMポストの明確化、(3)PM育成体系の整備の3つの重点施策を全社に展開しています(図2参照)。


        図2 3 つの重点施策とねらい

 PM社内資格認定制度は、プロジェクトマネジメントに関わる技能を持った人材価値を会社として認め、社内資格という形で明示するものです。また、PMポストの明確化では、プロジェクトのトップのPMに限らず、グループリーダやチームリーダといったマネジメントの役割を担うポストをPMポストとして呼ぶことによって、PMとしての段階的キャリアアップの形成を目指しています。3つ目のPM育成体系の整備では、これまで当社が培ってきたPMノウハウの共有・継承する仕組みの確立とPMとして継続的に研鑽を促す育成施策を整備する計画です。

●プロジェクトの難易度が上がり、PMの質的向上が必須に

― PM 社内資格認定制度は、PM の技能・価値を会社として認めようというものですが、なぜ資格認定が必要なのですか。

中村 個々のプロジェクトの難易度が上がっており、PMとしての技能・価値を会社として認めることによって、優れたPMの育成促進と社内外へのPMとしてのプレゼンスの向上を図ることをねらいとしています。5年前に1億円のシステムを構築したのと、今年同じ規模のシステムを構築するのと比べると、今年の方がはるかに難しくなっているといえます。その要因としては、具体的には冒頭述べたようにシステムそのものが企業間を連携したシステムのように拡大化、複雑化してきている反面、お客様からは納期短縮と価格低下の要求が厳しくなってきています。また、技術的にも3階層アーキテクチャ、オブジェクト指向技術など、新しい技術を上手く活用することによって、より安価に、短期間に開発することができるわけで、日夜そういった勉強をしていく必要があります。何も、システム開発のスーパーマンとしてPMが全てを熟知しておく必要はないのですが、マネジメントする環境が刻々と変化を続けていることを充分に知っておかなければ、お客さまの要求に満足に応えることはできません。このように、システム開発を取り巻く環境が厳しい中、各プロジェクトを運営するPMに課せられた役割は非常に重要であり、質の向上つまりPMとしての技量をきちんと修得し、環境の変化に対応していくことが求められてきています。

●プレゼンスをもった形でプロジェクトマネジメント力の
  対外的アピールが必要


―内外へのPMプレゼンスの向上を謳われていますが、システム開発の競争入札時に、例えばPMP資格などが条件設定される例が見られるのですか。

中村 実際に公的機関における入札時の要件としてPMの国際資格であるPMP資格の有無を問われるケースが出始めています。公的機関に限らずシステム調達にあたって、プロジェクトマネジメント力は業者選定の際の重要なファクターであることは間違いありません。NTTデータは、昔からプロジェクトマネジメント力をコアコンピタンスとしてきましたが、システム提案時における競争入札の増加やPMP資格の保有が設定されるなどの世の中の動きに対して、プロジェクトマネジメント力を対外的に明示する仕組みを早期に確立することが必要でした。そこでPM社内資格認定制度を導入することによって、PMの価値をPM資格の形で認定することで、PMとその職務のプレゼンス(存在感、ステータス)を高めることをねらいとしています。

― PM 社内資格とPMP 資格との関係は。

中村 今回のPM社内資格には、アソシエイトPMから、シニアPM、エグゼクティブPM、プリンシパルPMまで4つのレベルがありますが、若手PMの登竜門であるアソシエイトPMを取得するための一つの条件として、PMP資格の保有を前提としています。前述したように、PMPは確かに国際的にも認められたPMに関する権威ある資格ではありますが、あくまで知識の確認が中心です。PMの入り口段階でPMとしての知識をしっかり習得した上で、実践の場で経験を積み優れたPMを目指して欲しいという思いがあります。

―PMP 取得者が国内で3000人を超えたという中で、貴社では何人のPMP取得者がいるのですか。

中村 毎月30名程度がPMP資格を取得しており、現在約250名で、今年度末には500名を目指しています。

―かなり難しいと言われるPMP 資格の取得を最初の条件に設定しているということですが、認定の基準は。

中村 具体的には、PM社内資格認定制度で定める「PMケーパビリティ基準」に基づいてPMとしての力量を客観的に確認し、PM社内資格として認定します。PMケーパビリティ基準は、世の中の標準であるPMBOK(R)やITスキル標準等のフレームワークに当社が30年以上培ってきたPMのノウハウを加え、策定しています。

●SIビジネスの拡大にはPMの絶対数の確保が必要

―貴社ではこの7月、ミドルマーケットのSIビジネス強化に向けて、地域の子会社の再編も含めた構造改革を実施されました。今後、従来の大規模SIビジネスを維持しつつ、中小規模のSIビジネスを拡大していくためには、PMの絶対数を確保する必要があり、今回の施策のねらいの1つもそこにあるようですが。

中村 その通りです。大規模プロジェクトをタンカーに例えるなら、中小規模プロジェクトは近海漁業の小さな漁船になります。大型タンカーでも、小さな漁船でもそれぞれ、舵をとる船長が絶対に必要です。開発期間が長期にわたる大規模プロジェクトでは、プロジェクト内でPM人材の計画的な育成が可能でした。ところが、開発期間が短い比較的小規模のプロジェクトではPMを育成する間もないほど、次から次へとプロジェクトを創生してはこなしているという状況下にあり、環境的にプロジェクトに依存したPMの育成がかなり難しくなってきています。中小規模のSIビジネス強化のためには、今般の施策を通じたPMの育成強化によるPMの絶対数の確保は必須であると考えています。

―今回の施策はグループ会社を含めて取り組まれるわけですか。

中村 SIビジネスの強化はNTTデータグループ全体が取り組むべき課題であり、PM人材の育成についても同様です。施策導入初年度である今年度は、まず社内に今回の施策をしっかりと定着させることに注力し、その後できるだけ早い段階で、グループ会社にも今回の施策を展開していきたいと考えています。

●プロジェクトマネジメント・ノウハウの共有・継承は不可欠

―「西暦2007年」問題が話題になっていますが、これと同じように属人的なPMのノウハウの共有・継承が課題になっていますね。

中村 「西暦2007年問題」というのは、何も情報システムに限ったことではありません。要は、先人達が築きあげてきた価値あるノウハウ・経験をいかに次の世代に引き継がせるか、後継者を育成したり、他の人が活用できる形に整理しておくかが非常に重要であるということです。個々人に蓄積されたノウハウ・経験は、その人が退職すると、失われる危険性があるわけです。これまでシステム開発プロジェクトをリードしてきたベテランPMが持つプロジェクトマネジメント・ノウハウを全社で共有し、今後PMを目指す社員に継承していく仕組みを確立することが必要です。

―具体的にはどのような仕組みを考えているのですか。

中村 ナレッジ共有の具体的な仕組みとして、社内システムに情報を登録し、情報共有が行えるようにはなっていますが、この仕組みはあくまでも情報提供者の自主的な取組みに依存しています。また、電子的な情報だけではエッセンスが上手く伝わらない部分もあると思います。そこで、今回のプロジェクトマネジメント施策の重点項目の1つである「PM育成体系の整備」の一環で、「PMコミュニティ」や「メンタリング」という新しい形式の施策を導入することとしました。この中では、プロジェクトの事例分析や最新PM技法の研究といった活動を通じてPMとしての相互研鑽を図ったり、経験豊富な上位のPMがメンターとなって若手PMを支援することによって、ノウハウの共有とか継承につなげていきたいと考えています。

施策の定着化に注力し、3年間でPM人材1800人の認定を目指す

―最後に、当面、何人のPM 認定を目指しているのですか

中村 今回のプロジェクトマネジメント施策は、お客様に対する品質保証というか信頼感保証をPM認定という形で行い、競争力を高めることが最大のねらいです。明確な数値目標ということではありませんが、向こう3年間で1800名程度の認定を一応の目安にしています。

―本日は有り難うございました。


(聞き手・構成:編集長 河西義人)









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