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ユビキタスと携帯電話技術動向

NTTデータ 技術開発本部 
セキュアサービスプラットフォームグループ
飯野 徹(いいの とおる)

1.はじめに

 最近「ユビキタス」という言葉が盛んに使われている。「どこでも、至るところ」という意味のラテン語“ubique”から由来した言葉で、直訳すると「同時に、至るところに存在する」という意味である。ゼロックス社の故Mark Weiser氏が「ユビキタスコンピューティング」を唱えて以来、現在ではユビキタスネットワーク、ユビキタスサービス、ユビキタス時代、ユビキタス社会など様々な解釈で使われている。

 一般的に「ユビキタス」は、パソコンだけでなく家電や無線タグなど極めて多くのモノがつながり、利用者がいつでもどこでもさりげなくサービスを受けられるという状態を示している。

 ここではサービスを受ける利用者の視点から、携帯電話を利用した「ユビキタス」の具体的なイメージを挙げ、そのイメージを実現するために必要な技術、利用形態とサービス動向について紹介する。


2.携帯電話を利用した「ユビキタス」に必要な技術

 「ユビキタス」のイメージでよく言われているものの一つに以下のようなものがある。


 「個人が持っている携帯電話を財布代わりにし、携帯電話をお店の端末に向けたりかざしたりすることで、町のいたるところで買い物ができるようになる」

 このようなイメージを実現するには、サービスを受けたいときにのみ、携帯電話を介して様々なモノとつながり、サービスを受けたくないときは携帯電話から不要な情報を出さないようなアクセス制御の仕組みが必要である。

 一般的なICカードには、相手が正しいか否かを自立的に判断しアクセス制御する仕組みがある。しかし現在普及している携帯電話には、ICカードのように鍵などの秘匿情報を安全に保持する機能や暗号演算機能を利用できる環境がない。

 そのため携帯電話でアクセス制御機能や外部認証機能を実現するには、携帯電話にダウンロードするアプリケーションに、利用するデータの不正な取得・書き換え・コピーを防ぐデータ保護の仕組みを実装し、その上でアクセス制御機能や外部認証機能を組み入れる必要がある。

 また、次世代携帯電話の一部には、加入者識別用のUIM(User Identity Module)と呼ばれるICカードのチップ部分を切り取った形状のものが格納されている。現在は携帯電話の加入者情報などが格納されているだけで、他のアプリケーションをサービス提供者が格納することができない。しかし、将来UIMにサービス提供者が複数のアプリケーションを入れられる環境になれば、ID情報や鍵情報を含めたアプリケーションをサーバから直接利用者のUIMにダウンロードし、携帯電話のアプリケーションと組み合わせて利用することができる。そのため、利用者はいつでもUIMのセキュリティ機能や携帯電話のインタフェースを活用したカード的なサービスを受けられるようになる。


  図1 携帯電話のJavaアプリケーションとUIMアプリケーションの連携


3.利用形態とサービス動向

 携帯電話に付けられるインタフェースとしては、画面表示、非接触タグ、非接触ICカード、赤外線通信、Bluetoothなどさまざまなものがある。以下にそれぞれのインタフェースの使い方の特徴とサービス動向を示す。

・ 画面表示機能を利用するタイプは、バーコード情報などを表示するだけなので、ほとんどの携帯電話で対応可能であるが、対向する端末にスキャナーをおく必要がある。会員証やチケット、コンビニでの料金清算の確認などで実用化されている。

・ 非接触タグを利用するタイプは、単に携帯電話のストラップなどにつければよいので導入がしやすいが、タグにネットワーク経由でアクセスはできないため、タグの運用管理が必要となる。タグの情報とメールアドレスを組み合わせによる、広告やコミュニケーションツールとしての活用が始まっている。

・ 赤外線通信を利用するタイプは、対抗する端末に入れる受光センサが安価で小さいメリットがあるが、通信時間が長くなると赤外線には指向性があるため携帯電話を受光センサに向けてかざしつづける手間が生じる。韓国では携帯電話にクレジット情報を格納したモバイルクレジットサービスが2002年から実用化され、日本でも現在実験が行われている。

・ 非接触ICカードを利用するタイプは、セキュリティを考慮してかつ高速に通信が行える半面、端末側に非接触ICカードリーダを設置する必要がある。携帯電話を定期券として使う方法も検討され、今後対応する端末も出てくると予想される。

・ Bluetoothを利用するタイプは、通信距離が長くとれるメリットがあるが、対向する端末との鍵交換などの処理に時間がかかる問題がある。日本ではまだ対応した携帯電話端末が少ないが、携帯電話のヘッドセットなどで使われ始めている。

・ UIMが利用できるタイプは、サービスで利用するデータをより安全に保護した状態でサービスが提供でき、かつ着脱可能なのでサービス移行時の運用がしやすい。ただ携帯電話側にUIMを読み取るリーダが必要になる。日本ではUIMの暗号演算機能を利用したネットワークアクセス時のSSL(Secure Socket Layer)クライアント認証などのサービスが開始されている。


   図2 携帯電話に付けられるインタフェースの特徴・利用イメージ

4.おわりに

 弊社では、現在進んでいる携帯電話の赤外線通信を利用したモバイルクレジット実験において、クレジット決済に対応する多機能カード決済処理端末開発や、クレジットカード情報を携帯電話にダウンロードするためのダウンロードセンタの構築に関わっています。

 また、携帯電話にマルチアプリケーション機能のUIMを利用する場合のサービスダウンロード・パーソナライズ技術、携帯電話アプリケーションのセキュリティを保つ技術開発を通して、いつでもどこでもさりげなくサービス実現する「ユビキタス」のセキュリティに関する技術開発にも取り組んでおります。

※「Java」はSun Microsystems社の登録商標です。


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E-Mail:iinot@nttdata.co.jp


 

 


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