●連載・“光”新世代ビジョンを支える研究開発の動向
 日本電信電話株式会社
 レゾナントネットワークプロジェクト
 渡部 信幸(左)長山 和弘(右)

「レゾナントコミュニケーションネットワーク(RENAネットワーク)

■あらまし

 NTTの「“光”新世代ビジョン」の中で示されたユーザビリティに優れ、ナローバンドの時代には実現できなかったリアルで自然なレゾナントなコミュニケーション環境を実現するためのネットワークをアーキテクチャー(レゾナントコミュニケーションネットワークアーキテクチャー:RENA)の観点から紹介する。

■レゾナントコミュニケーションネットワークのコンセプト

 昨年11月25日、NTTは“光”新世代ビジョン−ブロードバンドでレゾナントコミュニケーションの世界へ−、と題するビジョンをNTTグループの今後の重点的な取組み方針として策定した。このビジョンの目指すものは、「ユーザビリティに優れたレゾナントなコミュニケーションネットワーク環境の実現と、これを活用する多彩で豊富な新サービス、ビジネス機会の創出」にあり、2005年にこのような環境が実現されることを目標とした。このためにネットワークには、次のような条件が要求されると考えた。

・数千万加入規模のブロードバンドユーザへの対応:IPネットワークの利用ユーザ数は確実に増加する傾向にあり、情報家電、無線IDタグ、センサを含む膨大な数の端末がネットワークにつながること。
・利用形態の変化への対応:エンド・ツー・エンド型通信、多地点を含む多様な通信形態、多彩なアクセスが可能なこと。
・通信品質の確保:ベストエフォートから品質保証までの多様な品質および信頼性条件を選択できること。
・安全性と信頼性の確保:利用者のプライバシーが保護され、安心して利用できること。
・使いやすさ(ユーザビリティ)の向上:利用者が高度な知識・設定を行わずとも、安全で安心な通信が利用できること。
・ビジネス機会を創出するためのプラットフォーム機能の提供:誰でもネットワークを利用して新たなビジネスが簡易にできるための認証連携、代行徴収などが利用できること。

 これらの要求条件を満足するためにレゾナントコミュニケーションでは「確実なエンド・ツー・エンドコミュニケーションの提供」、「多彩で豊富なサービス、新たなビジネスの機会創出の促進」、「ユーザビリティの進化」をネットワークのコンセプトとして推進することとした(図1)。


図1 レゾナントコミュニケーションネットワークのコンセプト

■ベンチマークサービス

 レゾナントコミュニケーションネットワークにおいては、次のベンチマークサービスを経済的に提供することによりコンセプトを具現化した。
(1)双方向エンド・ツー・エンドリアルタイム通信:音声や高品質映像など、さまざまなメディアで1対1のコミュニケーションから講話のような同報通信、各支店を結んだ会議通信に至るまであらゆる双方向のリアルタイム通信を提供する。
(2)IP電話サービス:IPプロトコルを用い、既存電話網(PSTN)との相互接続を含むエンド・ツー・エンド音声通信を可能とする。
(3)仮想専用網サービス:企業内または企業間の複数の指定された拠点間の専用網をセキュアに公衆網上に提供する。
(4)コンテンツ配信サービス:コンテンツホルダの持つ映像等を複数のユーザに適切な品質でかつセキュアに配信する。
(5)ユビキタスネットワークサービス:ユーザの移動はもちろん通信中に端末を変えても通信のシームレスな継続性を提供する。センサや無線IDタグ(RFIDタグ)のネットワーク化によるユビキタス環境を提供する。
(6)データコミュニケーションサービス:ホームセキュリティコントロールやより複雑になるユーザ機器の遠隔制御環境を提供する。
(7)公衆インターネット接続サービス:グローバルなインターネット網への高速なアクセスサービスを提供する。
(8)プラットフォーム利用サービス:プラットフォーム上に用意された認証代行、課金代行等の機能をユーザが利用して新たなアプリケーションを創出できる環境を提供する。


■ネットワークアーキテクチャー

 レゾナントコミュニケーションネットワーク(RENAネットワーク)は、ベンチマークサービスはもとより今後追加されるサービスに対してもエンド・ツー・エンドのコネクティビティ、セキュリティ、品質、ユーザビリティをユーザへ提供するもので、そのネットワークアーキテクチャーを特にレゾナントコミュニケーションネットワークアーキテクチャー(RENA)と呼ぶ。RENAネットワークはユーザネットワーク(NW)、アクセスNW、コアNW、制御信号転送NW、保守運用NW、サービス/ネットワーク制御プラットフォームの機能により構成されており、その構成を図2に示す。RENAにおいてはその特徴である品質において、複数の通信品質レベルを提供する。具体的には最上位レベルから順に、専用線並みの帯域保証を行うギャランティレベル、帯域・遅延・ゆらぎ・損失率を組合せて保証する優先制御レベル、品質制御を行わない公衆インターネットと同様のベストエフォートレベルを想定している。さらに、ギャランティレベルに対しては、安定したトラフィック転送を提供するため、エンド・ツー・エンドの信頼性についても複数クラスを提供する。


図2 RENAネットワーク構成

ユーザNWはユーザが保有するネットワークで、電話、PCやプリンタ、テレビやDVD等のAVデジタル機器、情報家電などのホームネットワーク、IPセントレックスやメールやwebサーバ等の企業ネットワーク、センサ、RFIDタグリーダ等がつながると想定される。ユーザNWに接続されるこれら種々の端末はそのインタフェースに関係なくRENAネットワークへ接続でき、RENAの特徴であるエンド・ツー・エンドのコネクティビティ、品質保証、セキュリティ、ユーザビリティが利用できることが必須である。そこでRENA ネットワークにおいては、ネットワークへの入り口機能としてホームゲートウェイ(HGW)を用意する。ホームゲートウェイの機能としては、ネットワークインタフェースの終端(IPv4/v6デュアルプロトコル終端、マルチキャストプロトコル終端、SIP(Session Initiation Protocol)信号終端、IP電話終端、パケットルーチング制御、アドレス管理)、品質制御(レイヤ2 VLANタグ制御およびレイヤ3トラフィッククラスによる品質制御、品質劣化補償)、不法アクセス防御するセキュリティ制御、リモートオペレーションを持っている。品質制御(帯域確保・優先制御)のためにHGWでは、転送するパケットの対象サービス(VoIP、CDN、VPN等)をSIP信号の内容から識別し、その結果に応じてキャリア側ネットワークに転送するパケットのIP-TOS (Type Of Service:サービスタイプ)値/DSCP(DiffservCode Point)値(それぞれIPv4ならびにIPv6のレイヤ3優先度)およびVLAN(Virtual LAN :仮想LAN)Priority-tag(レイヤ2の優先度)を指定し、さらに、割当て帯域に応じた送出パケットの流量制御やシェーピングを行う。

アクセスNWはユーザNWとコアNW、制御信号転送NW、保守運用NWのエッジルータまでの専用または共用のリンク回線であり、レイヤ1/2/3レベルで複数の品質クラスを持ち、かつトランスペアレントな転送をセキュアに提供する。

 RENAでは、マスユーザ向けには主として10Mbps〜100Mbps、SOHOを含む法人ユーザ向けに10Mbps〜10Gbpsのインタフェース速度の提供を想定し、物理網としてはパッシブオプティカルネットワーク(PON)、メディアコンバータ、そして光と組み合わせた固定無線をアクセスラインと想定し、帯域や品質が外的要因に影響され易いADSLについては、補完的な位置づけと考える。

品質制御のためにアクセスNWでは、レイヤ2において、VLAN-Priority-tagを使用し、ユーザNW・コアNWとの連携においては、IP-TOS値/DSCP値とVLAN-UserPriority値の変換を実施する。

コアNWはベンチマークサービスの急激な伸びを考慮すると数年後には超テラビット級のネットワークが要求される。そこで、RENAにおいては、経済的かつ柔軟にネットワークを構築するためにWDM技術、OXC技術など光技術とMPLS技術(ネットワークのエッジノードにおいて通信情報にラベルを付与し、ラベル情報に基づき、設定されたネットワークの入口から出口までのLSP(Label Switched Path)と呼ばれるパスを通して転送処理を行う技術)のIP等のパケット処理技術を融合させてトラフィック転送を実現するマルチレイヤパススルー技術を取り入れる(図3)。この技術では、MACアドレス、VLANタグ、ATMヘッダ、IPアドレス、QoS識別子などで識別される各種サービスのフローをネットワークの入口で光パスにマッピングするエッジノードと、光パスの高速転送を扱うコアノードによりトラフィックが転送される。大容量のコアノードにより高速パスでトラフィックを経済的に転送する一方、エッジノードにおいて、トラフィックフローの特性を判定し、それぞれのフローに最適な光パスを選定、接続することによって適切な品質制御も同時に実現する。


図3 マルチレイヤパススルー技術

 RENAにおけるユーザ・ネットワークインタフェースはIPv4とIPv6の両プロトコルを想定しているが、コアNW内においてもIPv4/v6デュアルスタック転送方式の採用を検討している。また、IPv4またはIPv6の専用端末の相互接続のためにネットワーク内でのIPパケットおよびSIP信号のv4/v6自動変換もサポートする。

 マルチキャスト通信は、ユニキャストと同一のネットワークまたは論理的に独立したネットワークを使用する。また、コンテンツ配信にはIGMP(Internet Group Management Protocol)、MLD(Multicast Listener Discovery Protocol)のみならず、NTTがRFC化を目指している認証付きのマルチキャストプロトコル(IGMP for user Authentication Protocol : IGAP、Multicast Listener Discovery Authentication Protocol : MLDA)をサポートする予定である(図4)。


図4 IGAP/MLDA機能

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