NTTコムウェア(株)
 取締役 
研究開発部長
加瀬 一朗氏
 

ITU-TのSG11、SG13、SSGを中心に検討が進められている次世代ネットワーク( NGN ; Next Generation Network)。NGN 2004プロジェクトと呼ばれるこの取組みの最初の成果として、NTTコムウェアの寄書をベースラインドキュメントとしたNGNアーキテクチャのテクニカルレポートが2004年末には出される予定だ。本稿ではITU-T におけるNGN の最近の動向と、電話の次のキラーサービスを志向したNGNへの取組みを積極的に展開するNTTコムウェア研究開発部の最近の状況を紹介する。

注目を集めるNGNの目的と特徴

 
ネットワークの大容量化・高品質化と、端末のインテリジェント化の進展に伴い、次世代ネットワーク「NGN(Next Generation Network)」が注目を集めている。NGNは、図1に示すように、データ配送機能の他、ディレクトリサービス、認証サービス、位置情報サービス、メディア変換などの基本的なサービスを提供し、それらの機能を端末側が利用することにより、マルチメディア会議や家電管理などの高度なコミュニケーションサービスを実現する基盤となるものだ。


      図1 NGN Configuration Overview

 「NGNは、すべてのタイプのユーザーに対して、アクセス手段やメディア種別に依存せずにサービスを提供できるユビキタスなIPベースのマルチサービスプラットフォームです。NGN推進にあたっては、通信事業者、サービスプロバイダー、ハード/ソフト・ベンダー、ユーザーなど様々なステークホルダーが存在し、かつ国際間にまたがるため、国際的レベルでの標準化は不可欠です。現在、各種標準化関連団体がNGN推進に向けて活動を展開していますが、国際電気通信連合の電気通信標準化部門(ITU-T)では、SG11、SG13、SSGを中心に、2004年末の最初のドキュメント取りまとめに向けて、“NGN2004 プロジェクト”が進められています。私どもNTT コムウェア研究開発部は、NGNはポスト電話のキラーサービスを提供する重要な基盤と捉えており、NGNに向けた要素技術の研究開発に加え、NGNのアーキテクチャ検討に関する寄書をITU-T SG11に提出するなど積極的に取り組んでいます。2004年末には、私どもの寄書をベースラインドキュメントとしたNGNアーキテクチャのテクニカルレポートが完成する予定となっています。」(NTTコムウェア?取締役・研究開発部長 加瀬一朗氏)

●NGNの目的とメリット

 
NGN推進の目的は、通信事業者や各種サービスプロバイダー(ISP、NSP、CSP等)がそれぞれの役割を分業でき、異なるネットワーク間を相互接続してシームレスなサービスを実現し、かつ将来の新サービスや新技術に柔軟に対応できる「future-proof」なネットワークを構築・提供することである。NGNによって、エンドユーザーは、(1)音声だけでなく映像や情報主体のマルチメディアサービスが享受できる、(2)ユビキタスなモバイルアクセスをベースとした多様なサービスが享受できる、(3)ネットワークがセキュアで品質面でも信頼性がある(従来のインターネットにない特徴)、(4)サービスが簡単に利用できる、(5)複数の事業者からサービスを受けても、料金支払いはワンストップ化される、といったメリットが得られる。
 一方、通信事業者やサービスプロバイダーにとっては、(1)オープンインタフェース(API、プロトコル等)のプラットフォームにより、新サービスを迅速に提供し、ポスト電話のキラーサービスによる増収を期待できる、(2)既存通信網との相互運用性が確保でき、従来資産を活用できる、(3)ネットワークの品質やユーザーの端末機能に応じて、サービス品質(QoS)を保証できる機能を持つ、(4)異なるネットワークやサービスを、IPにより統合して、使いやすく効率のよいサービスを提供できる、といったメリットが得られる。

●NGNの特徴

 
IPベースのマルチサービス統合網としてのNGNは、現在のような各種サービスごとのネットワークが相互接続されたネットワーク形態と異なり、サービスの特性・制御機能と運用管理の両面で、以下のような特徴がある。

<サービスの特性、サービス制御機能に関する特徴>

・Guaranteed real time delivery

・Set-up time for multi-media conference with hundreds of users world-wide in order of seconds

・Application agnostic

・Real time routing

・User selected routing(for security,reliability and quality of delivery)

・Stream based call model

・Non-repudiated

・Premium transport for connection and connectionless networks

<サービスの運用管理に関する特徴>

・Record of delays for every element(including servers)always available

・Self-healing

・Continuous real time monitoring of every session and connection

・Billing and charging measurements based on time and usage

・Connection oriented operating mode

 このような特徴を持つNGNを実現するためには、既存網からの移行や異なる網間の相互接続(インターワーキング)を含めたアーキテクチャ上の課題をはじめ、エンドツーエンドのQoS、サービスプラットフォーム、ネットワークマネジメント、合法的通信傍受( Lawful Interception:LI)、セキュリティ等の面で解決すべき課題が山積している。このような課題解決に向け、ITU-Tをはじめとする各種標準化団体は、積極的な活動を展開している。

標準化先導型でビジネスを牽引しようとするITU-Tの動向

 
NGN推進に向けて、各種標準化団体が標準化活動を展開しているが、NGN開発・標準化の指導的役割を担っているのがITU-Tだ。ITU-Tでは、技術分野ごとに12の研究委員会(SG)と、IMT-2000を含む将来の移動通信に関して研究を行う特別研究委員会(SSG)を設置して電気通信の標準化に関する技術的検討を進めており、NGNに関しては、SG11、SG13、SSGが中心となって2002年11月に「NGN2004プロジェクト」を立ち上げ、2004年の成果とりまとめに向けて作業が進められている。ITU-Tの狙いは、ISDNやIMT-2000と同様に、標準化先導型でビジネスを牽引することであり、シスコ、シーメンス、エリクソン、ノキアといったベンダーはこういった動きを支持する寄書を提出している。NGN推進に向けたITU-Tの最近の活動状況を次に示す。
 2003年7月にSG11 、SG13 、SSGが中心となってNGNに関するワークショップが開催された。最終日の「今後のNGNへの取り組みの方向性を議論するプロジェクトマネジメントミーティング」において、同年4月のNGNに関する中間ラポータ会合で合意された「NTTコムウェアからの寄書をベースラインドキュメントとするNGNアーキテクチャのテクニカルレポートを2004年末までに完成させる」ことが再確認されている。2003年10月にSG11会合が開催されフランステレコム、NTTコムウェア、シスコ、シーメンス、エリクソン、ノキア、インド等からNGN検討に関する寄書が提出された他、オーストラリア、イタリア、カナダからも合計8件のNGNの新課題に関する寄書が寄せられ、活発な議論が行われた。会合では、NGNのアーキテクチャ、BICC(Bearer Independent Call Control:既存電話網からIPネットワークへの円滑な発展を可能にするITUで開発された呼制御プロトコル)とISUP(ISDN User Part)/SIP(Session Initiation Protocol)間のインターワーキング、IP上のQoS要求条件、IEPS/ETS(国際緊急呼)信号要求条件等についての議論が行われた。
 なお、IN(Intelligent Network)の各種サービスを実現するためのAPIレファレンスドキュメントについて承認に向けた最終アップデート、及び関連団体からの最終確認が行われ補遺(Supplement)として承認された他、BICC/SIP/ISUPインターワーキングについては、勧告化に向けた作業も終了し、この会合においてコンセントされている。
 NTTコムウェアでは、4月の中間ラポータ会合に提出したテクニカルレポートのベースラインドキュメント(TRQ.ncap1)の拡充を提案している。この寄書は、今後のNGNのアーキテクチャ検討に大きな影響を与える位置づけのものであり、NGNイブニングセッションで概要を発表したのに続き、後日丸1日をかけて詳細な議論が行われた。この寄書に基づいてテクニカルレポート(TRQ.ncap1)の改版が承認され、2004年末に完成させることが再確認された。なお、参考までにNGNアーキテクチャの一例を図2に示す。基本的には、(1)サービスとトランスポートが独立に実現できるような構造、(2)ブロードバンドやモバイルなどを含む様々なアクセス手段がサポートできること、(3)それらの間でシームレスに通信、情報交換ができるよう共通のネットワーク制御/呼制御、サービス制御を行う層を持たせること、(4)既存の(回線交換ベース)網との相互接続や共存を可能にすること、などの点を考慮したアーキテクチャが作られる予定である。特に電話網との共存移行については重要な問題であり、様々な方式、インタフェースが検討されている。


         図2 NGN アーキテクチャ例

 ITU-T以外にも各種標準化団体がNGNを推進しているが、その活動の概要を以下に示す。

・ETSI :電気通信技術に関する欧州標準規格団体。サービス、プロトコル、ネットワークのインタフェース仕様を検討しているプロジェクトSPAN(Services and Protocol for Advanced Networks)と、IPテレフォニーの呼制御プロトコル、QoS、セキュリティなどを研究するプロジェクトTIPHON(Telecommunications and Internet Protocol Harmonisation Over Networks)が統合され、新たにプロジェクト「TISPAN」が発足し、NGNの指導的団体として活動中。移動体網とIP網・既存電話網との相互接続に関する仕様策定にも取り組んでいる。新TISPANは、ビジネスケースと市場要求に重点をおき、2005年末までを第1フェーズとする段階的アプローチによって、「欧州マルチサービスブロードバンドネットワーク(仮称:Euro-Mnet or Euro-NGN)」を開発することを目指している。

・3GPP:モバイルでのIP網、さらにオールIP化を見据えた検討を行っており、制御プロトコルとしてSIP/SIP-T(SIP for Telephones)を採用。ETSIの上記各組織と連携して標準化活動を展開している。最近、「Future Evolution Workshop」を設立し、2007年から2008年までの短期をスコープとしたHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)の拡張、ITUでのSystem beyond IMT-2000の検討と関連する第4世代の検討を進めている。

・Committee T1:米国の電気通信網インタフェース標準を作成する機関で、ANSI(米国規格協会)が認証。NGN関連ではT1A1(パフォーマンス、QoS)、T1M1(OSS)、T1P1(モバイル)、T1S1(信号方式)等の各下部組織で検討中。

・TIA:米国の電気通信メーカの団体で、ANSIが認証。端末とネットワークとのインタラクションに関して取り組んでいる他、3GPP2 と連携して無線システム、無線IP ネットワーク等を検討中。

・IETF:IPテレフォニーに関して、基本的に網内の機能を単純化し端末に高度な機能を分散配備するアプローチをとっており、SIP/SIP-T、ENUM(Telephone Number Mapping)、TRIP(Telephony Routing over IP)、モバイルIP等の標準化を推進している。

NGN 推進に積極的に取り組むNTT コムウェア研究開発部

 
NTTコムウェア研究開発部ではユビキタス技術、ブロードバンド技術、次世代IP 技術、ビジネスプラットフォーム技術の4つのコアテクノロジーを中心に取り組むとともに、ビジネスオリエンテッドなクロステクノロジーにも積極的に取り組んでいる(図3参照)。


     図3 NTT コムウェアの研究開発への取組み

 特に、冒頭の加瀬一朗取締役・研究開発部長の話にもあるように、NGNをユビキタス/ブロードバンド志向の増収の期待できるポスト電話のキラーサービス実現の重要なインフラと位置づけており、要素技術の研究開発や標準化への貢献など、NGNに向け積極的に取り組んでいる。図4に示すように、ブロードバンドでユビキタスな特徴を生かしたアプリケーションこそがNGNの主流アプリケーションであり、通信事業者にとってコストダウンをもたらすが、減収の可能性もあるVoIP/IP電話アプリケーションだけでは十分ではないというのが基本的な考えだ。


図4 ユビキタス/ブロードバンドサービス: NGN の主流アプリケーション

 すでに述べたように、ITU-TSG11に積極的に寄書を提出してきており、NGNのベーシックアーキテクチャについて、NGNの検討に積極的なフランステレコムなどとも継続的に連携し、2004年末までのテクニカルドキュメント化に向けて作業を進めている。また、図5に示すように、NGNに向けた要素技術の研究開発に取り組んできている。すでに具体的な研究開発成果が出始めており、そのうちのユビキタス技術に関する成果(L-Box、Tangible IP Network Designer、3G324M-GW)を、去る12月10日〜12日の3日間、スイス・ジュネーブで開催された「第1回世界情報社会サミット(WSIS)」において、展示デモンストレーションしている。
 WSISは、先進国と途上国との情報格差の解消を目指して国連(ITU)が主催するもので、今回が初めて。176カ国の代表や481の民間活動団体(NGO)などから計2万人が参加した。(日本からは麻生総務大臣出席)


図5 NTT コムウェア研究開発部が取り組むNGN に向けての要素技術

WSISでの展示デモでも注目を集めたNGNに向けたユビキタス技術

 
NGNは、現在のVoIPで採用されている音声主体のソフトスイッチのアーキテクチャだけでは限界があり、よりユビキタス/ブロードバンド主体のP2P志向のアーキテクチャを考慮したものになるものと思われる。その意味で、NTTコムウェア研究開発部が先の「世界情報社会サミット」において展示デモンストレーションし、多くの参加者の注目を集めた3G324M-GW、L-Box、Tangible IP-NW DesignerがNGNの最初のモデルケースといえる。次に、これら技術の概要を紹介する。


 図6 3G324M-GW による次世代テレビ会議システム(NGN の構成例)

●3G324M-GW

 3G324M-GWは、第3世代携帯電話網とIP 網の呼制御接続プロトコル、音声/映像プロトコル及びフォーマット変換を行うゲートウェイだ。NGNの構成例として3G324MGWソリューションによる次世代テレビ会議システムを図6に示す。ビデオを使った次世代テレビ会議システムの場合、PC端末からの参加だけでなく、携帯端末からも同様な形で参加できる必要がある。そのためには、複数のネットワーク(例えば、IP網、ISDN網、第3世代携帯網)を連携させ、かつ端末のプロファイルに適した形で、コンテンツを変換・配信する必要がある。こういったメディア統合サービスが、3G324M-GWソリューションによって、容易に実現できることから、新サービスの創造を目指す通信キャリアや各種サービスプロバイダー、さらにはモバイル会議システムの構築を目指す一般企業にとって、極めて有効な技術である。

●L-Box

 
L-Boxは、家庭内のセキュリティゲートウェイや、家庭内の情報家電端末を収容するコンセントの役割を果たすマイクロLinuxホームゲートウェイだ。Linux OSを採用し、高さ119?、幅68?、奥行き98?の小型・軽量の筺体ながら、Ethernet、PCMCIAカード、無線LANカード、Bluetooth、Ir、Echonet等の各種インタフェース端子を装備し、ファイアウォール機能やIPv4/IPv6に対応している他、低消費電力設計で発熱量を抑え安心して常時利用できるのが大きな特長である。
 L-Boxをホームゲートウェイとして活用し、外出先から携帯などによる家の施錠確認や電灯・エアコンのON/OFFのコントロール、ビデオの自動録画、風呂沸かし、ペットの世話などのホーム制御やセキュリティ、モバイル・テレメディシンなどに適用可能である。

●Tangible IP-NW Designer

 Tangible IP-NW Designerは、図7に示すように、TUI(Tangible User Interface)を利用して、コンサルティング、設計、運用監視といったIP網のビジネスサイクルをトータルでカバーするIP網設計システムだ。本システムは、MIT Media LabのTangible Media Groupの石井教授とのコラボレーションにより実現したもので「BusinessWeek」誌の2003年11月3日号でも取り上げられ話題となった。Tangible IP-NW Designerの主な特長を以下に示す。

(1)TUIの利用により、複数人のコラボレーションによるネットワーク設計作業が可能な他、LCD タブレット、Anotoペン等最新UIの活用によりNWの詳細設計も容易。

(2)リアルタイムシミュレーションの機能により、ネットワーク設計者は、パラメータ変更による性能やコストへの影響を瞬時に把握でき、最適なネットワークコンフィギュレーションを効率的に見つけることが可能。

(3)3D表示の裸眼立体視ディスプレイにより、ネットワークの構造及びIPネットワーク(ルータ、リンク等)内の各種パケットの動きを立体的にかつ直感的に把握することができ、IPネットワークのCrisis Controlに役立てることができる。

(4)ネットワーク設計を依頼するお客様へのプレゼンテーションツールとしても利用可能。


         図7 Tangible IP-NW Designer(NGN のマネジメントサービス例)

 以上、NGN推進の目的、ITU-Tにおける標準化の動き、NTTコムウェア研究開発部の取組みを紹介した。ビジネスが縮退傾向にあるキャリアやベンダーにとって、NGNへの取組みは不可欠だ。今後、NGNのアーキテクチャがITU-T によりレファレンスモデル/テンプレート化されて、各ベンダー、キャリアはNGNの要素技術をセレクトしてそれぞれが差別化を狙っていくものと考えられる。サービスについても同様で、場合によってはサービスサイトをオープンに開放していく可能性も強い。前出の加瀬一朗取締役研究開発部長は、「固定電話の収入は減少傾向にあり、VoIPだけでは特効薬にはならず、電話の次の、ユビキタス・ブロードバンド・次世代IPによる増収を可能とするキラーサービスを志向したNGNへの取組みは必須です。」と述べている。頁数の関係で今回ご紹介できなかったその他のNGNに向けた要素技術については、下記に問い合わせられたい。

お問合せ先

NTTコムウェア(株)
研究開発部
インキュベーション担当
Tel:043-211-3590
URL:http://www.nttcom.co.jp





Copyright:(C) 2003 BUSINESS COMMUNICATION All Rights Reserved