INTERVIEW
(株)NTTデータ アイテック
代表取締役社長

小林健造氏

 


NTTデータとの協業体制で、
新市場でのビジネス拡大を目指す



 2003年12月、SIIの100%子会社セイコーアイテックが、NTTデータとセイコーインスツルメンツ(以下、SII)の資本提携により、NTTデータアイテック(以下、アイテック)として新たなスタートを切った。3社の“攻め”の経営戦略に基づく新たな枠組みで、さらなる市場拡大に向け経営の舵取りを行う小林健造社長に、新体制でのビジネス展開について聞いた。

協業体制により、新たな一歩を踏
み出した
NTT データアイテック


― 2003 年12月にNTTデータとSIIの資本提携により、NTTデータ アイテックとして新たなスタートを切られたわけですが、新体制への移行の経緯と狙いをお聞かせください。

小林 アイテックは、1982年にSIIグループの戦略的な情報システム子会社として設立されました。以来、SIIの基幹系システムの構築・保守・運用を担ってきた他、そこで培った製造業向けシステム・ノウハウを強みとして、SIIグループ以外へのビジネス展開を積極的に行い、売上高のうち外販比率が50%強を占めるまでになっています。しかし、今後、競争が激化するIT市場において、幅広い業務への進出を含めさらに事業を発展させていくためには、強力なパートナーとの連携によって営業力と技術力の強化を図っていくことが不可欠でした。私はSIIの服部副会長と茶山社長には、「今の状況のままでは、これ以上の発展は望めないので、アライアンスを指向したい」旨をお願いしていました。
 SIIとしても、グループとしてITの活用強化を図るためにはITの戦略機能の充実とアイテックの育成強化は必須でした。こういった思いと、ITパートナーとして様々な企業との提携を行い、製造業等専門性の高い業務ノウハウと高度な技術力を有する企業との提携を指向していたNTTデータの思いが一致して、今回の協業体制構築に至ったわけです。NTTデータアイテックの設立は、3社の事業のさらなる発展に向けた「攻め」の経営戦略の当然の結果だったといえます。新しい資本構成は、NTTデータが60%、SIIが40%です。協業体制構築の最大の狙いは、SIIグループの情報システム子会社として培った業務ノウハウと技術力を有するアイテックと、NTTデータの営業力と先進IT技術のシナジーにより、SIIグループ向けにより高度なサービスを提供するとともに、組立加工系製造業等の新たな市場へのビジネス展開を積極的に行い、さらなる成長を図ることです。

―新体制での組織の概要をお聞かせください。

小林 従業員数は300名強で、2003年度約40億円の売上を目標にしています。組織は図1に示すように、スタッフ部門、SIIグループ向けのサービスを行うSII 事業部、SAP R/3 をコアにしたビジネスを行うERPソリューション事業部、モバイルアプリケーションやWebアプリケーション、ファームウェア、制御系システム等を開発・保守する産業システム事業部の3つの事業部と、ソフトウェア工場として韓国・釜山に設立したITEC-Koreaからなっています。


     図1 NTT データアイテックの組織構成

―釜山にオフショアの開発拠点を持っているわけですね。

小林 韓国では国策でIT教育を強化しており、質の高い技術者の採用が日本国内より容易です。しかも釜山市は国の支援を得て“Centum City”に積極的に企業誘致を行っており、特に海外のIT企業に数々の支援策を講じていることから、高品質なソフトウェアの開発拠点として、2001年11月にITEC-Korea を設立しました。

SAP R/3の技術力を活かしたビジネスが全体の6割を占める

― SII グループ外の顧客に向けたビジネスの具体的な方向性をお聞かせください。

小林 前述の組織構成にみられるように、SIIグループ外のビジネスの柱は2つあり、一つはERPパッケージのSAP R/3をコアにしたビジネスです。具体的にはSAP認定コンサルタントの有資格者を110名抱え、SAP R/3の導入支援、開発・保守、さらには運用のアウトソーシングも行っています。これが現在主力事業であり、売上の60%を占めています。残り40%が産業システム事業と呼んでいるビジネスです。こちらのコアとなるビジネスは、モバイル機器のファームウェア、モバイルアプリケーションの開発・保守で売上の25%となっており、これを今後拡大していきたいと考えています。残り15%がネットワークなど、インフラ系のビジネスです。今後は、産業システムの汎用製品(パッケージ)を育てていくことと、SAP R/3関連ビジネス分野をそれなりの規模、例えば500名程度まで陣容強化を図り、さらにビジネスを拡大していきたいと考えています。

―グループ内にはNTTデータサイエンスやNTTデータウェーブといったSAP R/3の技術力を売りにした会社がありますが、どう差別化していくお考えですか。

小林 私どもは、SIIグループの基幹系システムをSAP R/3を適用して構築・運用しているノウハウをベースにしていることから、組立加工系製造業における生産管理システムも含めた基幹業務システムへのSAP R/3の導入・運用に関して実績も多く、業務ノウハウも含め相当の自信を持っています。
 最近、多様な生産形態を実現するERP導入とSCMを効率的に実現したいお客様に対し、「MF-3000」というテンプレート(モデルシステム)を提供開始しましたが、このような製造系に特化したテンプレートは、NTTデータグループの中にはありません。これが私どもの強みの一つであり、この分野をさらに強化して、NTTデータグループの営業力をお借りして、さらに伸ばしていきたいと思います。

―運用のアウトソーシングも行っているということですが。

小林 SAP R/3のサーバに関してハウジングも含めたアウトソーシングのサービスを提供していますし、リモートでの監視・運用保守サービスも提供しています。

汎用製品の市場展開にも注力

―先ほど、産業システムの汎用製品を育てていきたいということでしたが、具体的にはどのような製品があるのですか。

小林 今後ビジネスの拡大が期待できるとして手がけ始めたものが2つあります。一つは、SII本体が取り組み始めた、タイムスタンプサービスです。これは、サイバーネット上で、正確な時刻を配信し時刻監査を行うことで、電子文書の存在証明や電子文書の完全性を証明するサービスです。私どもでは、タイムスタンプ・オーソリティということで、様々なサーバで必要としているトランザクションにタイムスタンプを発行し時刻認証を行う認証センタビジネス(ASP事業)を開始しました。
 もう一つ力を入れているのが、これまで実現できなかった2次元のCADデータを直接PDF形式に変換するエンジンの開発です。この変換エンジンと、改版管理としてタイムスタンプを活用した図面管理・配布管理システムは、官公庁や自治体における電子調達・電子申請、土木・建設業界における電子納品の分野で高く評価されると期待しています。
 特に、官公庁・自治体に強いNTTデータと連携してビジネスを展開していくことにより、かなりのセールス規模になるのではないかと考えています。

組込み系ソフトも得意な分野

―売上の1/4を占めるモバイル系ではどんな実績があるのですか。

小林 一番分かりやすいのが、SIIデータサービスが提供している無線カード決済サービス「CREPiCO(クレピコ)」で使われるモバイル端末のファームウェアの開発と、CAFISセンターに接続するゲートウェイサーバの開発です。組込み系ソフトウェアの分野、特にモバイル機器のファームウェアの開発やゲートウェイサーバの開発は私どもの得意な分野です。日本たばこ産業様が全国6万店のたばこ屋さんに発注端末を配備し、たばこの発注システムを展開していますが、この発注端末と受注センターのシステムをつなぐゲートウェイサーバも私どもが開発しました。

―Linux のポーティングも得意な分野ですね。

小林 私どもでは、いずれ携帯電話にはLinuxが搭載されるだろうという想定のもとに、Linuxが様々な機器にポーティングできるように、なるべく極小化するようなことを3年ほど前から取り組んできましたが、ここにきてCPUの能力やメモリ容量が拡大してきたため、様々な機器にLinuxが搭載できるようになり、様々なところから仕事の依頼がくるようになりました。現在、約10名のLinux 専門チームが、各種CPUへの移植、ネットワークルータやモバイル機器への組込みを行っています。またLinux以外にも、μiTRONのモバイル機器への組込みも手がけています。今後は、例えば携帯電話に搭載されたブラウザのように、様々な機器の部品として使っていただけるような組込み用のアプリケーションソフトも開発していきたいと考えています。

現在300名の会社を将来的には1000名規模にまで拡大したい

―NTTデータグループの一員になったことにより、どのようなメリットがあるとお考えですか。

小林 新体制でスタートして間もないですが、すでに協業効果がでてきています。NTTデータの方針として、外注するにしても自分のグループ内になるべくノウハウが残るようにというオペレーションをしています。このため、NTTデータが資本参加した企業でSAP R/3のビジネスを展開しているところから、リソースが足りないということで、支援の依頼がきており、SAP R/3技術者の稼働率が急速に上がっています。
 さらに、韓国・中国・東南アジアにわが国の製造業が多数進出しています。韓国にソフトウェア工場を持つ私どもと、中国に複数の子会社を持つNTTデータが連携して、アジア市場に進出する製造業をIT面で支援するビジネスが展開できるのではないかと考えています。

―最後に、今後の経営目標を含めた抱負をお聞かせください。

小林 3年スパンの中期計画では、一人当たりの売上高を2000万円にもっていくことが当面の目標です。人員を急激に増やすのではなく、徐々に増やしていき、売上目標としては、2004年度に45億円、2007年度に63億円を目指しています。長期的には、オフショアのソフトウェア工場であるITEC-Koreaを含めて、将来的には1000名規模の会社に育てていきたいと思っています。
 なぜ1000名かといいますと、先行開発や汎用的な製品の研究開発には投資が必要です。大体人員の5%程度を投入する必要があり、R&D要員を50名とすると、分母は1000名になるからです。
 いずれにしましても、お客様から高い信頼と満足を得られるIT企業を目指すことで、わが国の製造業の発展にIT面から貢献していきたいと考えています。


―本日は有り難うございました。












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