付加価値サービスの提供で需要が拡がるiDC 市場

 近年、国内の通信事業者は、各種ネットワークサービスの提供だけでは競合他社との差別化が難しいという状況とともに、顧客からのアウトソーシング志向の急速な高まりに呼応して、付加価値サービスの提供・開発に力を入れている。この付加価値サービスの代表例の1つが、iDC(インターネット・データセンター)サービスである。2001年春から2002年にかけて起こったITバブルの崩壊に伴うiDC市場の縮退は、他の業種ほど深刻ではなく、2002年に限って顧客獲得率・稼働率は低調だったが、その後市場全体の淘汰が進み、2003年に入り再び回復基調となり、現在需要は拡大に転じている。この要因として、iDCがもつ堅牢なファシリティ設備とネットワークサービスとの総合的な提供体制、セキュリティ、QoS/SALといった高度に整備されたセキュアな環境があげられる。
 現在のiDCのサービスは、主に次のカテゴリーで構成されている。

 ・コロケーション:顧客設備をマネージする上で必要なセキュリティレベルに達した建屋・電源・空調等の設備を有するiDC専用スペース、およびラック等の設備で、24時間365日レベルでの、電源On/Off 等を含めた一時運用保守を含めたもの。

 ・ホスティング:ネットワーク機器やサーバホスト、ストレージ、OSレベルや、これに連動して提供されるファイアウォール、WebおよびEメール機能等の付加価値サービスを含めたかたちで提供されるサービス。

 ・ITサービス:コロケーション・ファシリティやホスティング設備・サービスを介して提供されるセキュリティ、マネージド等のサービス。
 以上の中で、とくにホスティングとITサービスの強化が今後の市場の拡大を左右するといわれている。
 以下では、IPをベースとした次世代のデータセンター事業者に向けたサン・マイクロシステムズ(株)の取組みと、iDCを超えたブロードバンド配信センターを目指す(株)ブロードバンドタワー、企業のデータセンターや電算室における電源・空調システムのTCOの最適化を図るエーピーシー・ジャパン(株)の取組みについて紹介する。

【サン・マイクロシステムズ】
システムだけでなくアーキテクチャの統合を実現するソリューションを提供

 1982年の創業以来、ネットワークを真に活かすハードウェア、ソフトウェア、サービスの提供を通じて業界をリードしてきたサン・マイクロシステムズ(株)(以下、Sun)は、その売上の15%以上を研究開発費に注いでいる。この徹底したR&D体制から生まれたJava技術は、今やインターネット社会の核となるテクノロジーとして、ミッションクリティカルでオープンな企業システムをはじめ、ネットワークコンピューティング環境に不可欠なものになっている。またSunは、Javaをはじめとしたテクノロジーをユーザーに付加価値として提供するとともに、さまざまな製品やサービスを、ユーザー自身が選択できるよう、さまざまな企業との強固なパートナーシップによる事業展開を推進している。
 「Sunの最大の特徴は、システム全体を提供していることです。プロセッサやサーバ、ストレージなどのハードウェア、OSやミドルウェアなどのソフトウェアなど、全てのパーツを自社で提供できるとともに、それぞれのコンポーネントは、オープンなインタフェースでつながっているので、ユーザーはコンポーネントごとを入れ換えることもできます。そのため、Sunは他のベンダーやシステムインテグレーターとパートナーを組むことができます。Sunはこれまで、さまざまなテクノロジーを開発してきましたが、単に最新の技術というだけでは、お客様は受け入れてくれません。その技術をパートナーと連携して、既存のシステムに整理統合できるソリューションを短期間、低コストで開発・提供してこそ、お客様のニーズに応えたことになります。」(サン・マイクロシステムズ(株) プロダクト&ソリューション・マーケティング本部 本部長 山本恭典氏)Sunは以上のようなポリシーのもと、iDCを含めたデータセンター事業者向けには、システム運用の最適化や稼働率の向上、コスト削減を可能にするシステムおよびアーキテクチャの統合を実現するソリューションを提供している。


   図1 サン・マイクロシステムズのiDC 向けの主な製品群

 続々と新たなテクノロジーが登場し、新たなサービスへの対応が要求されている今、iDC並びに企業のデータセンターには、将来のサービスの追加・拡張を踏まえたシステムの統合が求められている。しかし、ここで言う統合とは、現在のシステムを1つにまとめるだけではなく、将来、新たな設備を導入した時でも、既存のシステムとの整備・統合を容易に行えることを目的としたものである。そのためには、システムだけでなくアーキテクチャの統合も必要である。このような課題に対して、Sunは、エントリーサーバからハイエンドサーバまで、64ビットのUltraSPARC プロセッサを搭載したUNIXサーバと高度なネットワーク機能を信頼性の高い環境で実現できるSolaris オペレーティングシステムで構成されたシングルアーキテクチャのIT基盤を提供している。これらの製品によりシステム管理者は、統一された環境でシステム全体の管理することができるようになる。また、オープンな環境で開発された13,000本を超えるアプリケーションを活用することも可能である。
 さらにSunでは、データセンターを構成する要素であるネットワーク、コンピュータ、ストレージといったリソースを1つのリソースプールとして仮想化し、管理の簡素化や、生産性、柔軟性の向上を図るデータセンター運用のためのアーキテクチャ「N1」を提唱している。このN1アーキテクチャにより、データセンター上にあるすべてのリソースが、あたかも1つのコンピュータのように管理され、データセンターの統合が可能となる。
 「メインフレームからオープンシステムへの移行、グリッドコンピューティングおよびユーティリティ・コンピューティング等を含め、ソリューションやサービスにおいてもコストと複雑性の削減を実現することで、ユーザーニーズに応えていきます。」(前出、山本氏)
 現在Sun は、ハードウェア製品ではSPARCおよびIntel x86ベースのモデルに加えて、AMDとの戦略的提携によるOpteronを搭載した製品を提供している。また、LinuxおよびSolaris のオペレーティングシステムから、Sun Java SystemやN1といったソフトウェアやミドルウェア、ストレージ製品においても、ユーザーニーズに反映した製品を提供している。

【ブロードバンドタワー】
iDCの全てのフェーズがビジネスチャンスとなる「Net Stage Business」へ

 国内有数のiDC事業者として、不特定多数のダイヤルアップ/ブロードバンドユーザーのアクセスへの対応をはじめ、ブロードバンドコンテンツを快適に利用できる環境を各種ネットワーク事業者と連携して提供している(株)ブロードバンドタワー(以下、BBTower)は、1995年に米国で生まれたiDCの元祖である米国グローバルセンターの日本法人として、2000年2月に設立された。その後、2002年4月に社名を現在のBBTowerに変更し、親会社である(株)インターネット総合研究所(IRI)の技術の集約拠点として、豊富なiDCのノウハウをベースに、ブロードバンドビジネスを展開するネットワーク事業者に向けて、コンサルティングやコンテンツ配信のプラットフォーム提供を含めた総合的なサービスを展開している。BBTowerの特徴として、第一にロケーションとファシリティがあげられる。BBTowerは、わが国のインターネットの中枢施設と各種交通機関が集まる東京・大手町に位置し、そのファシリティは、耐震性に優れた建物自体の堅牢性とともに、電源の安定供給、消火設備、空調管理などの充実した設備を備え、ユーザーに快適なIT 環境を提供。さらに、24時間365日体制の有人監視やモニタリング、入退館システムなどにより、セキュリティやマネジメント面も十分に確保している。
 事業およびネットワークの特徴として、キャリアニュートラルとコネクティビティ(ネットワークの接続性)があげられる。BBTower は、通信回線選択に制限のない“キャリアニュートラル”の理念のもと、主要回線事業者の通信回線の引き込みを行い、ユーザーの使用目的に応じた最適な通信回線を自由に選択できるようになっており、現在引き込まれていない通信事業者や回線種別については、希望により順次対応していくそうである。次にコネクティビティについては、国内の主要IXやISP(高速アクセス事業者)との接続により、高速・広帯域のインターネットコネクティビティを提供している。また、コアネットワークと外部接続の完全な冗長構成を構築し、常に安定したコネクティビティを実現している。さらに、コアネットワークから外部接続に至る一連のネットワークには10ギガビットイーサネットを導入し、将来のトラフィック増大にも十分に対応できるようになっている。
 「ADSLやFTTHなどの高速大容量サービスが普及する中で、BBTowerは、高品質でさまざまなコンテンツを直接エンドユーザーに届ける“ブロードバンド配信センター”として、ビジネスに直結したiDC事業を展開しています。その背景には、IRIグループのネットワーク運用やサーバ運用などの高い技術力があります。」(株)ブロードバンドタワー経営企画室・取締役室長佐藤康夫氏)


      表1 ブロードバンドタワーの提供サービス

 表1は、現在BBTowerが提供している主なサービスの概要である。その他のサービスとして、(株)NTTデータと共同で運用している「Meet Me Room(MMR)」がある。MMRは、ブロードバンドインターネット時代のバックボーン構築に不可欠なネットワーク事業者間における相互接続を容易に実現する環境を提供することを目的とした施設である。
 「MMRは、お客様のラックに引き込まれる通信回線の種類に全く制限のない“オープンポリシー”をベースに運用していますので、お客様のニーズにあった最適なサービスを選択することがきます。また、日本最大の商用IX、日本インターネットエクスチェンジ(JPIX)による『JPIX第2大手町』が同施設内で稼動していますので、構内配線のみでIXを通じたトラフィック交換が可能です。」(前出、佐藤氏)


         図2 iDC からNet Stage Business へ

 BBTowerでは、今後の取組みとして、“Net Stage Business”をコンセプトとして掲げている。これは、これまでネットワークインテグレーションのフェーズを中心としてきたBB Towerのビジネス領域の拡大を目指した取組みである(図2参照)。
 「ネットワークをお客様のビジネスの“ステージ”として捉え、その上で展開されるビジネスを全面的にサポートしていきます。その取組みの一環として、2003年9月に、IT戦略コンサルティングや経営戦略コンサルティングを行う(株)シアンス・アールを設立、および2004 年2月に、ネットシネマ事業の本格展開を目的とした(株)ブロードバンドピクチャーズを設立しました。今後も、これまでのiDC事業で得たノウハウをベースに、全てのフェーズでサービスを提供できるアウトソーシングセンターの構築を目指していきます。」(前出、佐藤氏)

【エーピーシー・ジャパン】
データセンターと電算室における
NCPI(ネットワーク必須の物理インフラ)の成長に合わせた投資を図る

 電源保護のトータルソリューションプロバイダーであるAPC(American Power Conversion)の日本法人である(株)エーピーシー・ジャパン(以下、APC Japan)は、2003年6月に、モジュール化されたUPS(無停電電源装置)、分電盤、空調機器などを19インチラックの中に収納した、データセンターおよび電算室向けのラック収納型電源・空調ソリューション「InfraStruXure(インフラストラクチャ)」を発表した。同製品は、IT環境の成長に合わせた段階的な投資を可能にするアーキテクチャで、データセンターや電算室の構築において、主に「投資の最適化」、「環境変化への柔軟な適応性」、「容易なシステム管理」、「工期・納期の短縮」といったメリットを提供するソリューションである。
 また、このInfraStruXureには、データセンターや電算室における電源システムをはじめとしたさまざまな課題へのAPCの回答が含まれている。
 近年、企業システムが電算室へ統合され、インターネットワーキングにおけるデータセンターの重要性が増す中、さまざまな問題が発生した。APCでは、このような問題について、Fortune1000にリストアップされている企業や、政府機関、教育機関、サービスプロバイダーなどに対して調査を行った。その結果、表2のような課題が回答された。そしてAPCでは、この課題に対しての解決策を打ち出した(表2参照)。また、この調査の結果、過剰設備と統合化の欠如によるTCO(総所有コスト)の問題が明確となった。APC Japanマーケティング本部の千歳敬雄氏は、このTCOの問題と解決策について次のように語っている。
 「これまでの電源・空調システムは、ルーム単位でデザインされていました。この手法は、5〜10年先までの電力需要を予測して最初から完結したシステムを構築する必要があるため、過剰な初期投資を招いてしまうケースが多々ありました。またこの手法は、現在のラックベースのIT環境には適していません。現在のIT環境は、電源容量と空調の条件がシステム(ゾーン)ごとに異なるため、拡張性の高いラックベースのデザインが求められています。ラック用に最適化した電源・空調システムにより、システムに見合った設計を行うことで、その重要度に見合ったアベイラビリティ(可用性)の向上や事業に適した投資を可能にし、導入・運用・保守・メンテナンスにかかるコストを最小限に抑えることができます。そして、将来の事業拡大や縮小を見越したシステムを実現するには、電源・ラック・空調の統合化が不可欠です。システム全体に統合化が欠けていると、外部のサプライヤーやベンダーなどへの依存度が増してしまい、多額な設置コストや運用コスト、修理コストなどが発生してしまいます。InfraStruXureは、電源・ラック・空調をラックに最適に総合化することで、このような問題を解決しています。」


    表2 データセンターと電算室における課題と解決策

 InfraStruXureは、UPS・ラック・空調機器の3つの要素から構成されており、UPS・空調コンポーネントは全てモジュール化され、19インチラック筐体に収められている。これらのコンポーネントをラック列ごとに設置することで、IT機器をゾーン単位で保護する「ゾーンプロテクション」が可能となる。このゾーンプロテクションの採用により、これまでの中央設置型の大型電源・空調設備に必要なスペースを削減し、事業拡大時には最適なコンポーネントをゾーン単位で追加することができるようになる。
 「ビジネスプロセスのアベイラビリティは、人的資源、方法・手順、情報技術、物理インフラの4つのレイヤーで構成されており、高可用性は、この4つのレイヤーを統合することで実現します。APCの各ソリューションは、企業活動のアベイラビリティを根底から支える物理インフラに属しており、我々はこの物理インフラを『NCPI( Network Critical Physical Infrastructure)』と呼んでいます。ビジネスに応じたITシステムを予測し、NCPIを事前に整備しておくことは至難の業です。しかし、InfraStruXureのモジュール化されたコンポーネントは、必要に応じてモジュールを追加、撤去することで、さまざまな環境に簡単に適応できます。」(前出、千歳氏)


           InfraStruXure タイプB の構成例

 InfraStruXureには、電算室や小規模データセンター向けのType A(ラック1〜10台)、Type B(ラック10〜100台)、大規模データセンター向けのType C(ラック100台以上)の3タイプがある。この3タイプをベースに、各種オプション製品を追加することで、最適な製品構成を実現し、TCOの低減と工期・納期時間の短縮を可能にしている。













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