日本電気(株)
マーケティング推進本部長
塩川 正二氏
 
 企業のグローバル競争力の維持・向上が求められている中、NECは、以前から提唱している「ダイナミックコラボレーション」を支援するために、2004年度下半期からIT/NW統合ソリューションの拡販に注力している。本稿では、NECのIT/NW統合ソリューションへの取組みと、その事例について紹介する。

コラボレーションによる
新たな経営スタイル

 
総務省の発表によると日本のブロードバンド加入者数は2004年1月末で1408万人であり、その一昨年から倍増している。この数字の背景には、国内のブロードバンド環境における総合力があり、日本は通信料金の安さ、通信速度の速さで世界一の水準を保っている。だが最近、電子政府の進捗度の国別ランキングが発表されているが、国連が発表した国連加盟国の2003年における電子政府準備度指数では日本が18位、米アクセンチュアの2003年電子政府進捗度調査によると15位である。
 また、世界経済フォーラムの報告における、2003年ネットワーク化対応ランキングでは12位である。このような統計から、国内のブロードバンド活用度合は、まだまだ遅れていることがわかる。NECは、この格差を埋める改善策を模索していた。
 また同時に近年は、経営とオペレーションスピードの向上、コアコンピタンスへの集中、顧客指向の成熟化、徹底したコストダウンなど、企業におけるグローバル競争力の維持・向上が求められている。
 このような現状をふまえてNECは、最大の強みであるITとネットワーク技術を融合した多彩なソリューションを、NECの新しいビジネスソリューション体系「iBestSolutions」に位置付けて提供し、お客様の課題解決に貢献していく。具体的なソリューションとして、ネットワーク領域からアプリケーション領域までのトータルセキュリティシステム、新しい顧客サービスを実現するVoIPを活用したIPコンタクトセンターシステム、TCO削減・コア業務への集中を実現するネットワークアウトソーシングサービスなどがある。
 また、ユビキタス社会の新しいオフィス環境を実現するソリューションとして「iBest Solutions/OfficeCollaboration」も提供している。
 具体的には、企業情報ポータルなどのIT技術と、広域イーサや無線LANなどのネットワーク技術との融合により、次世代のブロードバンドオフィス・コミュニケーションを実現するような、映像コミュニケーションや電子電話帳(IP電話連携)、Web会議から構成されるオフィスコミュニケーション・ソリューション、文書型ナレッジから構成されるオフィスナレッジ・ソリューションなどである。加えて、これらのソリューションにIPテレフォニーや企業ポータル(EIP)、ユニファイドメッセージなどのオフィス共通基盤を連携し、新たなワークスタイルを創出していく。

ITとNW との高度な技術力によりお客様に合わせたソリューションを提供

 
図1は、ITとNWを統合することによるコラボレーション環境の実現を図式化したものである。NECはIT分野において国内No.1の分散処理コンピューティング環境構築実績があり、同時にネットワーク分野において国内No.1のネットワーク売上実績がある。さらにVALUMO、RFID、iExpress(ITネットワーク統合サーバ)など、ITとネットワークを融合したミドルウェアや製品も活用できる。こうした高度な技術力を背景に、以下のようにお客様に合わせたソリューションを提供していく。


   
図1 IT とNW の統合によるコラボレーション環境の実現

1. 企業/官公庁向け

・ブロードバンドを活用した企業情報システム(eCRM/eSCM、設計コラボレーション)など

・ユビキタス電子政府サービス

・企業間ダイナミック・バリューチェーン

・ビジネス・グリッド

2. キャリア/xSP向け

・VoIP付加価値サービス基盤

・ユビキタス情報流通サービス基盤(CDN、位置情報、P2Pなど)

・ユーティリティー型サービス基盤

3. パーソナル向け

・BIGLOBE、PC、モバイルを組み合わせたユビキタスソリューション

コラボレーション環境を実現するための様々な要素

 コラボレーション環境構築上の課題として、まず重要視されるのが、業務のスピードやTCOの削減である。また、知的生産性の向上のために、ブロードバンドの発展により、モバイル化など新サービスができ、付加価値をつけることが重要になってくる。さらに最近、情報漏洩など企業のセキュリティに関して、様々な問題が発生している現状があり、企業として顧客の信頼を保つために、セキュリティの向上に努め、堅牢で拡張性の高いシステム構築が必要となってくる。従って、コラボレーション環境実現のためにNECは、ビジネスの段階ごとに以下のような要件を満たすことが重要であると考えている。

【第1 段階】企業ネットワーク基本の再構築:意思決定・業務スピードの向上、TCOの削減、リアルタイムなコミュニケーション環境の構築

【第2 段階】オープンによるIT基盤の再構築:ビジネスの拡大化を促進させる。既存のビジネスを停滞させない。

【第3 段階】IT・ネットワーク統合ソリューション活用:「個客」との接点を持った新しいビジネスの創造

 以下、NECの代表的なIT/NW統合ソリューションと、そのソリューションを効果的に利用した最新事例を紹介する。

【コラボレーションサービス事業事例】日本航空「NW アウトソーシング」

 日本航空は、ITを積極的に活用して業務効率を高め、競争力の向上を目指す「e-JAL」プロジェクトを2000年にスタートした。そのプロジェクトの一環として、同社はネットワークを刷新し、国内拠点を結ぶネットワークの設計・構築・運用および時期戦略策定のすべてをNECにアウトソーシングすることを決断した。その理由は、同社が従来の「自前主義」から業務改革を行い、ネットワークの設計から通信事業者の選定、構築、運用、管理までのすべてを、技術力はもちろんのこと、高品質なプロジェクトマネジメント能力や高いシステムインテグレーション能力まで兼ね備えていたNECにアウトソーシングするのがベストだと考えたからである。
 新ネットワークの構築にあたって、航空構内での設備の更新作業が必要になる。空港は早朝から夜遅くまで休みなく動き続ける必要があり、その間にコンピュータやネットワークを停止することができず、設備更新やテストランなどの現場の作業は、深夜の限られた時間の中で完了させなければならなかった。
 NECはこのように決められたタスクを決められた手順通りに、まちがいなく確実に処理する遂行力と、それをリードするマネジメント能力を持っていた。また、NECが提供する豊富なネットワークサービスを活用した、キャリアミックスによるネットワーク構築や、最適なハードウェアとソフトウェアを組み合わせた、高性能・高信頼のネットワークを実現するためのシステムインテグレーション力もあった。日本航空の新ネットワークは、2001年秋から順次サービスインし、現在は国内130拠点を結ぶまでに拡大している。新ネットワークには旅客系の情報に加え、テレビ会議、IPネットワーク上で音声通話を実現するVoIPなどを含む社内情報系のデータも流れており、トラフィックがかなり増加しているにもかかわらず、通信帯域を以前の20倍以上に拡大し、運用をコストを1.1倍程度に抑えている(図2参照)。


      図2 日本航空様のネットアウトソーシング構成図

 2002年10月、共同持株会社の日本航空システム発足に伴い、日本航空と日本エアシステムの経営統合が行われた。さらに2004年4月には、日本航空インターナショナルと日本航空ジャパンという2つの事業会社が誕生し、事業再編が行われた。これらの事業再編に伴い、両者のシステムやネットワークの統合作業が行われた。このネットワーク統合作業もNECが担当している。

【顧客コラボレーション事例】伊勢丹「呼び返しサーバ」

 NECと伊勢丹は、お客様が不在の時の折り返し電話を確実に発信した担当者につなぐことを可能とする「呼び返しサーバ」を共同で開発し、2004年から新宿本店で本格稼動を開始した(図3参照)。


      図3 伊勢丹様の「呼び返しサーバ」構成図

 伊勢丹では、お客様に電話をかけて、お客様が不在だった場合、例えば携帯電話の不在着信などで伊勢丹からの電話だということはわかっても、表示された番号に折り返しの電話をかけてもかからなかったり、無関係な部署にかかってしまったり、誰からの電話であったかまではわからないなど、お客様の満足度の低下につながるケースが発生していた。伊勢丹はこうした状況を改善し、お客様対応の品質向上を図るため、「呼び返しサーバ」を導入することを決定した。
 お客様に電話をかける際、呼び返しサーバにお客様の電話番号を入力し、自分の部署と名前を音声で登録しておくことで、お客様が不在で、改めて折り返しの電話が大代表やダイヤルインにかかってきた際に、電話をとったオペレータや担当者は、呼び返しサーバに登録されている情報を確認して、確実に電話をかけた担当者に繋ぐことができる。これにより、お客様からの電話対応におけるサービス品質が向上し、電話取り次ぎ業務の効率化が実現できる、加えて、各担当者がお客様へのサービス提供に集中することで、さらなるお客様満足度の向上にも繋がる。
 伊勢丹新宿本店の呼び返しサーバ導入には、約2000回線を収容する交換機としてNEC のIP-PBX「APEX7600i」と、IAサーバ「Express5800」が採用され、大代表への電話を集中管理する「PC中継台システム」などの音声ネットワーク基盤が導入された。また、新宿地区共通の内線PHSが導入されたことで、店内を移動していても、お客様からの電話を確実に受けることが可能となった。
 伊勢丹では2003年4月から、新たな経営計画「価値創造3ヶ年計画」をスタートさせ、「顧客起点による業務の見直し」に取り組んでおり、今後もお客様満足度の向上を推進するため、本店の導入を皮切りに、順次、国内店舗に対する呼び返しサーバの導入を進めていく。さらに、VoIP導入をはじめ、「PC中継台システム」の活用によるオペレータ業務の効率化、音声系システムと店内放送のさらなる融合などを検討していく。

【企業間コラボレーション事例】JA熊本果実連「生鮮品トレーサビリティ支援サービス」

 NECは、農産物や青果物などの生産・加工・流通等の各段階における原材料の出所や製造元、販売先等の履歴データを保管し、インターネット経由で一般消費者などに公開する「トレーサビリティシステム」を構築するサービスを「トレーサビリティシステム支援サービス」の名称で販売している(図4参照)。


      図4 生鮮品トレーサビリティ支援サービス

 2003年11月には熊本県果実農業協同組合連合会(JA熊本果実連)がこのシステムを導入して、熊本県内11のJAにより生産された温州みかんやデコポンなどの農産物の栽培情報の提供を開始した。
 トレーサビリティシステム支援サービスは、生産者や加工業者、流通業者がNECのiDCに構築するシステムを共用する方式(ASP方式)により、導入・運用に係るコストを最小限に抑えつつ情報連携ができる。これにより、生産者において食品の安全性に関して問題が発生した際の原因究明や、問題となった食品の追跡・回収を容易にするとともに、消費者においては自宅や小売店の店頭などからインターネットを介して生産者情報や栽培履歴などを確認することができるようになるなど、生産者/消費者双方における食品の品質確保に関する情報ニーズに貢献していく。このサービスの他の特長として以下のようなものがある。

【システム利用が容易】:生産者や加工業者、流通業者が持つ履歴情報は、NECが保有するセキュリティ対策を施したデータセンター(iDC)のサーバにおいて管理するため、初期投資コストが低減できるとともに短期間での導入が可能である。また、データ量の増加に伴うシステム拡張などの作業も不要となる。

【最新の技術による高付加価値サービスの実現】:XMLやWebサービスを活用しているほか、データ交換方式においても「生鮮EDI」などの業界標準手順に準拠しているため、大手小売業者や食品加工業者が独自に構築する他のトレーサビリティシステムとのデータ連携が可能である。また、ストリーミング技術を活用した動画による情報提供(例:産地映像や農産物の調理方法)など、ブロードバンドを活用した様々なサービスを提供することができる。加えて、RFIDの活用により、従来は困難とされていた荷姿の変化やロットの変化にも対応した、流通過程における履歴の記録を実現するサービスを提供する。

【効率的な運用モデルの実現】:農閑期に農産物の栽培計画をデータベース化し、実績を随時登録するシステム形態や、JAの営農指導員などによる代行入力機能、及び農薬データベースとの連携により、産地側での登録作業負担を軽減している。

【官公庁コラボレーション事例】筑穂町立ちくほ図書館「LiCSR II」

 福岡県の“へそ”(重心地)に位置する筑穂町は、2003年6月に、斬新でデザイン性の高い建物と、最新のIT技術を取り入れた未来型図書館をオープンした。また、その新図書館建設に際し、ICタグと図書館管理機能「LiCSR II」を融合させた、トータル図書館管理システムを導入した。
 筑穂町は以前、中央公民館の図書室で、約8,000冊の蔵書で図書館として運営していたが、住民のニーズに十分応えきれていないという判断から、2000年度に策定した総合計画において図書館の新設を決定し、急ピッチでの設計・竣工を行った。
 特に図書館運営の中心的な役割を担う資料整理・利用者管理部分については、ICタグを取り入れ、サービス向上や業務の効率化を図った。ICタグを利用すれば、従来のバーコードでは記録できなかった書名や著者名などの情報を書き込むことができ、パソコンと連携するIC リーダライタとICタグの内蔵アンテナとのデータ交換を通じて、非接触で窓口処理、資料番号や書誌情報の登録・修正処理が行える。これによって窓口では、まとめて複数冊の処理ができ、スムーズな貸し出しや返却処理が可能となる。また入り口には、貸し出していない資料を検出し、アラーム通知を行うBDS(ブック・ディテクション・システム)ゲートを設置しており、貸し出し、返却処理と同時にアラーム情報を消去するBDS処理が行える。さらに蔵書の点検や配架チェックも、小型ハンディリーダを用いて簡単に作業が行える。この他にも、利用者へのサービス向上を目的に、タッチパネル上で資料を簡単に検索できる利用者検索機能(OPAC)のある端末を設置している。パソコンやOPAC機能は、高速LANで図書館サーバと結ばれ、情報の一元管理を行っている。
 ICタグの導入により、貸し出し、返却の処理が短期間でき、利用者を待たせなくても済むようになった。また、「本の返却ポスト」に返却された時間外返却の処理も会館前に済ませることができた。さらに、ICタグによって生まれる時間的な余裕を、図書館利用者とのコミュニケーションやレファレンスサービス向上に繋げることまでも可能となった。

【企業内コラボレーション事例】グランド品川コモンズ「VoIPソリューション/電子電話帳」

 NECは2003年9月に、JR品川駅に隣接する巨大ビル群「グランド品川コモンズ」において、三菱重工業など入居企業約8割に対し、企業内通信網をVoIPで再構築した(図5参照)。VoIP導入時にはNECのIPPBX「APEX7600i/180」を採用し、電話回線とLAN回線の統合を図っており、ネットワーク機器・屋内配線設備などの効率化を実現している。また、LANケーブルにIP電話機を接続し、従来のPBXに比べ少ない設定変更でIP 電話の移設を可能としている。なお、同一ビル内での移設においては、IPアドレスをLAN接続時に自動的に割り当てるDHCP 技術を活用することで、PBXと電話機での設定変更を全く不要としている。
 また、IP電話と連携した全社規模の電子電話帳システムの構築も実現した。NECの電子電話帳システム「ダイヤルBOX」をベースに、関連会社を含め、約4万人規模のデータベースを有する電子電話帳システムを新たに構築した。ダイヤルBOXとIP電話の連携により、電子電話帳で相手を検索し、電話番号をクリックするだけで電話をかけることができる。これにより、テレビ電話機能、ワープロや表計算などをPC上で共有しながらの通話、相手の在席・話し中・不在を確認できる状態表示機能など、多彩な機能によりコミュニケーションの利便性が向上した。また、電話・電子メール・FAX・音声メールを統合したユニファイド・メッセージ・システムにより、外出から携帯電話で自分宛の電子メールを音声でできるようになった。


    図5 グランド品川コモンズのソリューション構成図

3G ビジュアルフォンとPC によるWebTV 会議システム

 NECは、3GビジュアルフォンとPCの映像コミュニケーションを提供する「3GVirdnet」とWebTV会議コミュニケーションを提供する「コミュニケーションドア(会議SL)」を連携させ、外出先や出張先からでも3GビジュアルフォンがあればPCがなくても会議への参加や視聴ができるモバイルコミュニケーション(図6参照)を実現した。従来のPC同士によるWeb会議に3Gビジュアルフォンが加わることで「時間」と「場所」を選ばず、Web会議の利用シーンが大きく拡がることになる。具体的な例として、自治体では災害時に迅速な対策をとるために、3Gビジュアルフォンで撮った地震や台風の被災地域からの映像を遠隔地の複数箇所でリアルタイムに共有して被災状況を確認することにより、迅速な対応をとることができる。その他にも、保守現場の担当者を拠点の上位技術者がサポートしたり、建築現場の映像と図面等資料の共有により進捗管理をリアルタイムに行う等の応用例が考えられ、3G Virdnet とコミュニケーションドアの連携により、従来のPC同士のWeb会議では実現できなかったスピーディでフレキシブルな運用を可能にしている。


      図6 3G Virdnet を利用したWeb 会議システム

ブロードバンドソリューションの発信基地
「NEC ブロードバンドソリューションセンター」


 NECは、同社が提案する新しいワークスタイルを、お客様に実際に見て感じてもらうことを目的として、前出のグランド品川コモンズ内にある品川イーストワンタワービルの7〜8階に、オフィス兼ショールーム「NECブロードバンドソリューションセンター」を開設した(写真1参照)。オフィスでは社員が創造型ソリューションを生み出す環境として、最新のユビキタス環境を活用し、フリーアドレスとペーパーレスを実践している。
 ショールームのコンセプトとして、ソリューションの体験とオフィスでの実践をお客様の目で確認でき、現在導入できるソリューション(70%)と、今後生み出されるソリューション(30%)がわかること等がある。各ブースには以下のようなソリューションが用意されている。


  写真1 NEC ブロードバンドソリューションセンターのショールーム

【コラボレーションブース】:IPテレフォニー、ユニファイドメッセージング、Web会議

【リモートアクセス】:リモートアクセス、モバイルWeb会議、営業活動支援システム

【ナレッジコミュニティ・ブース】:統合ポータル、ナレッジコミュニティ、e-ラーニング、ドキュメント管理、高速文書閲覧、全文情報検索

【インフォメーション・ブース】:ゾーン全体案内、ユビキタスグループコラボレーション、ブロードバンドディスプレイ

 NECでは同センターの今後の展開として、第一ステップの成果をNECグループ、パートナー企業や協力会社に拡大したサプライチェーンのブロードバンド化の実現や、顔認識システムやICタグを利用したオフィス入退室の改善等を考えている。


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