(株)NTTデータ
公共ビジネス事業本部
サービスインテグレーションビジネスユニット
ビジネスユニット長
越智 正昭氏
 
 e-コラボレーションによる新たな付加価値創造を目指すNTTデータ。その中にあって、「あったらいいな・・・」というマーケットインの発想に基づいて、ITを活用した官民連携による新たな社会インフラの創出に取り組むNTTデータ・公共ビジネス事業本部のサービスインテグレーションビジネスユニット。e-コラボレーション具現化の先導部隊としての最近の取組み状況を、越智正昭ビジネスユニット長に聞いた。

マーケットインの発想による
あったらいいなの仕組みを形に

―まず、サービスインテグレーションビジネスユニットの主要ミッションからお聞かせください。

越智 ご存知のようにNTTデータの公共事業部門は、主として官公庁様関連の情報システムを構築するビジネスを展開しており、これまで数多くのシステムを手がけてきた実績を有しています。こういう中で私どもサービスインテグレーションビジネスユニットの所属する公共ビジネス事業本部では、ITサービス分野のリーディングカンパニーとして、これまでのこのような公共分野での豊富な実績、経験を活かし、官公庁様等との連携による新しい社会の仕組み、社会インフラの創出に向けた取組みを行っています。特にその中でも私どもサービスインテグレーションBUでは官民連携による新たな社会インフラの創出ということにフォーカスした取組みを行っております。
 従来は官公庁様をはじめとしたお客様からシステム構築の仕事をいただくのがビジネスの中心でしたが、今後は規制緩和や、独立行政法人化など民営化の流れもあって、官民連携による様々な社会インフラを企画の段階から関わって創っていくことが重要で、これを公共ビジネス事業本部の主要ミッションにしようという方向に進化したわけです。その中にあって、私どものBU(ビジネスユニット)の主要ミッションは、「サービスインテグレーションビジネスユニット」という組織名称に端的にあらわれています。

―システムインテグレーション(SI)ではなく、サービスをインテグレートする…。

越智 よく私どものようなITサービス事業者を、SI(システムインテグレーション)事業者と称しています。
 しかし私は、これからのSI事業者はそれをもう一歩進化させてSI=システムインテグレーションではなくて、ITを活用した仕組み、サービスをインテグレートすることが重要であると考えています。
 私どもは、これまで規模はともかく、NTTデータの社内でも他のBUに負けないくらい、非常に多岐にわたる数多くのコンピュータシステムを世に送り出してきたと自負しています。この経験から何を感じたかと言いますと、これからの我々の業態は、ITを活用した新しい仕組み、サービスに関して、上流工程の企画段階から実現・運用まで責任を持って行うことが重要であるということです。「未来のしくみを、ITでつくる。」は、NTTデータのコミュニケーションワードですが、私どもサービスインテグレーションBUはこれをもう一つ掘り下げて、「あったらいいなの仕組みを形に」をコンセプトに事業展開しています。あったらいいなというマーケットインの発想、これをベースとして、これまでのITに関する経験・ノウハウと知恵を活かし、官民連携による社会インフラであるとか、各省庁をまたがる官官連携の仕組みを自ら企画・提案し、具現化していくというのが主要ミッションです。

e-コラボレーションを
具現化するための先導部隊の役割を担う

―浜口社長が提唱する「e-コラボレーションによる新たな価値創造」の実現を目指している…。

越智 企業間や官民、コミュニティ、さらにはITリソースなどの相互連携による生産性向上や効率化、そして新たな価値創造の追求、これを「e-コラボレーション」と呼んでいます。その基本となるのは、政府が推進しているe-Japan 戦略です。
 e-Japan戦略IIでは、7つの先導的取組みと5つの新しい社会基盤の整備によって、プレイヤー(官、民、個)を“結びつける”ことにより、「元気・安心・感動・便利」な社会の実現を目指しています。
 このように、ITを活用することによりいろいろなプレイヤーを“結びつける”、すなわち業種の枠を越えたビジネス連携による新たな価値の創造がe-コラボレーションの肝とも言えるものです(図1参照)。私どものBUは、このe-コラボレーションを具現化するための先導部隊としての役割を是非担いたいと思っています。

―BU の組織構成をお聞かせください。

越智 内部の組織は、「トランスポーテションビジネス企画担当」「ソーシャルビジネス企画担当」及びスタッフ部門の3つの部門からなっています。また、関連会社として、気象及び生活関連情報を提供する「(株)ハレックス」( http://info.halex.co.jp)があります。


         図1 e-Japan 戦略とe-コラボレーション

e-Airport プロジェクトに注力

―現在、具体的にどのような取組みを行っていますか。

越智 先ほど述べたe-Japan戦略には、5年先、10年先の日本のあるべき姿が描かれています。すなわち、国としての「あったらいいなの仕組み」です。私どもは、基本的にこのe-Japan戦略に沿ったかたちで、現在日本の国が直面しているような大きな課題の解決に対して、ITとこれまでの経験を武器にトライしています。それは、従来の仕組みではなかなか実現しにくい分野であり、その一つの代表例が、別稿で紹介する「e-Airportプロジェクト」です(図2参照)。これは、2001年より国土交通省が中心となって推進している「e-Airport 構想」に基づくプロジェクトです。成田空港をモデルケースとして最先端のITを用いて世界最先端の空港を実現するというもので、現在「e-チェックイン」「e-タグ」「e-NAVI」などのプロジェクトが実証実験などを経て具体化し、実運用に向けた取組みが行われています。
 このe-Airport プロジェクトは、ITの活用により国の玄関としての国際空港における人と物の流れの効率化を行い、あわせて世界最先端のIT国家を強くアピールするための一つのショーケースにしようという取組みです。また同時に、このe-Airportプロジェクトの基本はナショナルセキュリティに対する取組みでもあります。海外との窓口である国際空港は、海外へ向かう航空機が離発着する場所、多くの人々が行き交う場所であると同時に、出入国の窓口、国境という側面も持ち合わせています。人と物との巨大な集積ポイントであり、文字通り我が国のポータルです。
 例えば、日本の食料自給率は約4割にしか過ぎません。残りの6割のうち、特に生鮮食料品を中心に多くは空輸により我が国に持ち込まれています。また、海外から資源を輸入し、加工・製品化して輸出するという日本の産業構造からみても、国際空港は重要な貨物港といえます。しかし、日本最大の貨物港でもある成田国際空港にしても、取扱量に比して物理的な規模としては狭隘で、常に混雑しているという状況にあります。この物理的な制約の中では、いかに効率的に人や物の流れを円滑化するかということが重要となり、そこに、情報、とりわけITの活用が鍵となってくるわけです。
 このように、この国の玄関としての国際空港はどうあるべきかを考え、ITを活用してセキュリティ面での強化を図りつつ、旅客手続きの効率化・迅速化、さらには物流の円滑化を実現する新しい仕組みを創造するというのが、e-Airportプロジェクトです。

―複数の官庁や航空会社、物流業者をはじめ多くの民間企業が関係しているということで、まさにNTTデータが提唱する「e-コラボレーション」の考え方が重要になる…。

越智 そうですね。国際空港は、出入国管理、通関、検疫といった国境としての役割を果たすため、複数の政府機関や航空会社をはじめ官民にまたがる多くの関係機関が存在します。e-Airportプロジェクトは、まさにe-コラボレーションの考え方に基づく官民連携が大きな鍵を握っていますし、業種間のビジネス連携を加速して新しい価値を創出するe-コラボレーションの具体的な形であると思います。
 私どもは、このプロジェクトに当初から参加し、ご協力させていただいておりますが、この取組みを通して見えてきた近未来の「あったらいいなの仕組み」を、是非とも形にしていきたいと考えています。


          図2 e-コラボレーションとe-Airport

若年層の雇用問題に加えて、
減災ビジネスや地域活性化に注力

― e-Airport プロジェクト以外に、どのような取組みを行っていますか。

越智 BU内のソーシャルビジネス企画担当が中心となって、現在我が国の最重要課題の一つとなっている若年層の就労問題にも取り組んでいます。私どもでは、独立行政法人雇用・能力開発機構様が平成15年3月末に運営を開始した「私のしごと館」(http://www.shigotokan.ehdo.go.jp)の情報システムの開発をお手伝いいたしました。京都の関西文化学術研究都市にある「私のしごと館」は、様々な職業に関する体験の機会や情報を提供するとともに、必要な相談・援助などを行う施設です。この時の経験を契機に、若年雇用問題に深く興味を持ちました。

―若年層の雇用問題は、深刻な問題となっている。

越智 はい。極めて深刻化しており、政府も昨年6月に文部科学大臣、厚生労働大臣、経済産業大臣、経済財政政策担当大臣が、「若者自立・挑戦プラン」を取りまとめ、教育・雇用・産業政策の連携を強化し、官民一体となった総合的な人材対策を強化するということで、国を挙げての取組みを開始しています。一般にはフリーターに関する問題がなにかと取り沙汰されておりますが、私が特に着目している問題に「七五三問題」、すなわち中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が就職後3年以内に離職しているという現実があります。これは就労機会を迎えた高校、大学生のみならず、小・中学生においても職業や仕事に関する情報や学習機会が不足しているために、せっかく職業に就いても個人の適性との間でアンマッチが起きてしまっていることから来る問題ではないかと考えており、そういう分野はITでなんとか補うことが出来るものと考えております。私どもも、この若年層の就労問題という社会的な課題解決に向けて何とかお手伝いしたいということで、取り組んでいます。具体的には、「若者自立・挑戦プラン」に基づいて、厚生労働省、文部科学省、経済産業省の3省が主導し、産官学地域連携による「ジョブカフェ(Job Cafe)」プロジェクトが進められています。これは、地域による若年者のための新たな仕組みとしての「ワンストップサービスセンター(ジョブカフェ)」を整備し、単なる職業紹介にとどまらず、インターンシップやキャリアカウンセリング、職業適性診断などを含めて総合的な支援を行うという取組みです(写真1参照)。現在、各都道府県で整備が進められていますが、私どもではすでに複数県の「ジョブカフェ」のシステム開発と運用を担当させていただいています。その中で私どもの特徴としては、開発を担当したSEにキャリアカウンセラーの資格を取得させて、実際にジョブカフェの窓口でカウンセリングにあたらせていることがあげられます。
 つまり、ITの専門家が実際に現場に立って、体験しながら、システムの運用を含めて本当に必要とされるもの、「あったらいいなの仕組み」を常に考えているという点です。

―その他の取組みについてもお聞かせいただけますか。

越智 気象情報を提供する関連会社のハレックスと連携して、2つのテーマに取り組んでいます。一つは、「減災(災害の程度を減らす)ビジネス」です。四方を海で囲まれた海洋国家であり、4つの大陸プレートの重なり合ったところに位置する我が国は常に自然災害の脅威に曝されていると言っても過言ではありません。この自然災害を防ぐのは極めて難しいことですが、情報によりその被害の程度を少しでも少なくする、すなわち減災は可能ではないかと思い、取り組んでおります。現在は「減災ビジネス」の新しいモデルを考えようということで、省庁や建設・設備・鉄道等の民間企業、大学の先生方を集めた勉強会を立ち上げています。もう一つは、地域の活性化です。気象情報は、市民生活に一番密着した情報ですので、気象情報と生活情報を提供するハレックスを介して、情報を通じてなんとか地域活性化のお役に立つことはできないものかということにも注力しています。


    
写真1 ジョブカフェの様子(写真提供: JOB カフェ千葉)

人材の育成がビジネス拡大の鍵

―最後に、今後の抱負をお聞かせください。

越智 新しい社会の仕組みを創出していこうというサービスインテグレーションBUにとって、ビジネス拡大の最大の鍵は、人材です。「いかに(How)」ではなくて、「何を(What)」創るかの企画力がある人材を育成することが重要で、この点に現在もっとも力を入れています。幸い、そういう素養を持つ若い社員も多いので、その芽を摘まずに伸ばしながら、「SI=サービスインテグレーション」ビジネスを拡大していきたいと考えています。

(聞き手・構成:編集長 河西義人)

―本日は有り難うございました。

(聞き手・構成:編集長 河西義人)





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