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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第14回:ゴール分析
NTTデータ 技術開発本部 副本部長 山本修一郎
NTTデータ 
技術開発本部
副本部長 
山本修一郎

主要なゴール分析手法

ゴール分析の代表的な手法には、表1に示す3つがある[2]。これらの手法の共通点は、ゴールを非機能要求、機能要求とそれらの関係に影響を与える外部環境の条件という3種に分類して、ゴール間の依存関係を明確化していることである。環境条件を示すゴールについては、それぞれ、主張、判断条件、仮説などと称しており、手法間で扱い方に差がある。ゴール間の依存関係については、上述した4種の関係を各手法でも記述できる。

表1 主なゴール分析手法
  概要 特徴
NFRフレームワーク
(Non Functional Requirements Framework)
■ 一般的な非機能要求(NFR)の階層構造をNFR型として定義しておき、具体的なシステム要求の分析で再利用。
■ ソフトゴールにはNFR、操作要求、主張(claim)の3種がある。
■ ソフトゴール依存関係(Softgoal Interdependency, SI)グラフでゴールの依存関係を分析。
■ NFRをNFR型として予めパターン化して再利用することで網羅的な分析ができる。
i*(アイ・スター) ■ アクタ(関係者)、ゴール、タスク、ソフトゴール(非機能要求)、資源の概念によりシステム要求を定義。
■ ゴールで判断条件、状態を明確化し、タスクによりゴール達成手順を定義する。
■ 戦略依存(Strategic Dependency, SD)モデルによりアクタ間の依存関係を分析。
戦略原理(Strategic Rationale, SR) モデルによりアクタ内の依存関係を分析。
■ SD/SRモデルでas-isとto-beを分析することにより、ビジネスプロセスの変革に適用できる。
KAOS
(Knowledge Acquisition in autOmated Specification)
■ ゴールを目標状態、システムが達成責任を持つ操作要求と、環境や人が達成責任をもつ仮説の3種に分類する。
■ 目標状態と操作や仮説との関係を分析。
■ 様相論理を利用してゴールを記述することにより、ゴール分解に矛盾がないことを数学的に検証できる。

NFRフレームワーク(Non Functional Requirements Framework)

一般的な非機能要求(NFR)の階層構造をNFR型として定義しておき、具体的なシステム要求の分析で再利用する。

ソフトゴールにはNFR、操作要求、主張(claim)の3種がある。ソフトゴール依存関係(Softgoal Interdependency, SI)グラフでゴールの依存関係を分析する。NFRをNFR型として予めパターン化して再利用することで網羅的な分析ができるという特徴がある。

図3 性能に関する非機能要求の階層化
図3 性能に関する非機能要求の階層化

性能に関する非機能要求を階層的に整理した結果を図3に示す。

実際のシステム開発では、ゴール分析の初期段階でこのようなNFR型を参考にして具体的なゴール分析を進めていくことができる。

 

i*(アイ・スター)

アクタ(関係者)、ゴール、タスク、ソフトゴール(非機能要求)、資源の概念によりシステム要求を定義する。ゴールでは判断条件や状態を明確化し、タスクによりゴールの達成手順を定義する。

戦略依存(Strategic Dependency, SD)モデルによりアクタ間の依存関係を分析する。また戦略原理(Strategic Rationale, SR) モデルによりアクタ内の依存関係を分析する。SDモデルとSRモデルで現状(as-is)の業務とシステム導入後(to-be)の業務を比較分析することにより、ビジネスプロセスの変革に適用できるという特徴がある。

KAOS(Knowledge Acquisition in autOmated Specification)

ゴールを目標状態、システムが達成責任を持つ操作要求と、環境や人が達成責任をもつ仮説の3種に分類することにより、目標状態と操作や仮説との関係を分析する。

KOASの特徴は、様相論理を利用してゴールを記述することにより、ゴール分解に矛盾がないことを数学的に検証できることである。

NFRと操作要求の対応付け

オフィスのワークスタイルを変革するための新しいシステムの開発を顧客から依頼されたとしよう。まず、オフィス業務の分析では、社員、組織、居室、会議室、会議室予約や会議運営などの社内手続き、会議資料などの共有情報などの資源と、これらの資源に対する操作の両方をモデル化しないといけない。

コミュニケーション作業の効率化には、情報作業の効率化とそのための手続き作業の効率化が必要だとしよう。情報作業の効率化では、情報共有、情報作成、情報収集が必要だ。情報共有では情報保護と情報活用が必要だ。使いやすさの点では情報活用は+関係にあるが、情報保護は-関係だ。一方、セキュリティの観点では、情報保護は+関係だ。情報収集には、ヒトの活用とインターネットの活用が必要だ。手続きの効率化では、スケジューリングとモニタリングが重要だ。このようにして、段階的に、ゴールを詳細化していくと、図4の上部のゴール分析の木構造ができる。

図4 ワークスタイル変革のためのソフトゴールグラフ
図4 ワークスタイル変革のためのソフトゴールグラフ

次に、ゴール分析木に操作要求を追加していく。たとえば、情報保護というソフトゴールを達成するためには、ICカードと社員認証という機能要求(操作要求)が考えられる。このようにして、図4の下部に操作要求を追加することにより、非機能要求に対する操作要求を識別してゴール分析木に追加していくことができる。

トポスによる問題分析

ゴール分析ではゴール間の依存関係を分析する。このような物事の因果関係を合理的に分析するという考え方は実は古くからある。ギリシア語で「場所」を意味する言葉にトポス(topos,複数はtopoi)がある[3]。このトポスには、問題や議論の背景を説明する「場所」という意味がある。アリストテレスの『トピカ』はトポスの術のことだ。トポイ図は問題領域の概念間の関係を示す図である。

図5 トポイ図
図5 トポイ図

たとえば、次のような自動車の速度を取り巻く事象の関係を考える。

  • 自動車の速度が高いと、運転手の操作に悪影響がある
  • 自動車の快適性を高めるには、自動車の速度が速いことが必要である
  • 自動車の馬力が高いことが、自動車の速度を高くする必要がある
  • 自動車の速度が高いと、自動車事故の可能性が高くなる
  • 自動車の速度が高いと、自動車の燃費が悪くなる

このとき、図5に示すようなトポイ図で自動車の速度問題の背景、つまり「問題の場所」を表すことができる。

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