NTTの物性研が、微細な振動で演算を行う新半導体素子を開発
-現在の集積回路に比べ数桁消費電力の小さな超省エネコンピュータの実現に期待が-NTT先端技術総合研究所
NTTの物性科学基礎研究所は、半導体のチップ上にある髪の毛より細い板バネの微細な振動によってデジタル演算を行うという新しい原理を用いた半導体素子を世界に先駆けて開発した。この研究の一部は独立行政法人日本学術振興会科学研究費補助金の援助を受けて行われたもの。
今回開発した半導体素子の概要
新たに開発した半導体素子の心臓部は、長さ250μm、幅85μm、厚さ1.4μmの小さな板バネ。この髪の毛(約80μm)よりも細い板バネが、約10nmという極めて小さな幅で振動する時の「周期のずれ」を、「0」及び「1」のビット情報に対応させることにより、1ビットの基本的な演算を行うことに成功した。
新半導体素子は、板バネの極めて小さな振動を用いて演算を行うことから、現在のトランジスターを基本とした集積回路に比べ、数桁小さな消費電力のコンピュータを開発できる可能性があり、省エネルギー化の要請に応えた新しい情報処理システムとしての発展が期待される。
技術のポイント
図1 ビット情報を振動周期のずれに対応させる方法
図1のように、板バネに沿って周期的な力を加え、振動させる。最初に「上に曲がった」場合と、「下に曲がった」場合で振動の周期がちょうど半分ずれるため、半分だけずれた板バネの振動を「0」及び「1」のビット情報に対応させ、デジタル演算を行う。従来の電気回路ではなく微細な板バネの振動を用いるという新しい着想により、高集積度、低消費電力動作を目指したものだが、実際にはミクロの板バネを手で掴むことはできないのでNTT研究所では、わずか10pW(1千億分の1ワット)の電力で、半導体上の板バネの振動を自在に制御・検出できる半導体素子を開発(図2)。これにより10nmの微細な振動を引き起こし、その運動を検出することを可能にした。この素子を実際にデジタル演算に用いるには、隣の板バネのビット情報を受け取り、その情報を別の板バネに引き渡すことが必要であるが、今回の成果では板バネに振動として情報を蓄積した後、電気信号として取り出すことに成功している。このような素子を連結することで、板バネでデジタル演算が実際に行えるようになる。
図2 開発した半導体素子の構造(上面からの顕微鏡図)
今後の展開
今回の開発では、最も基本的な1ビット動作を確認することができたが、今後は、現実的なデジタル演算の実現に向けて、複数の素子を結合させた動作を確認していく予定である。また、より高い周波数、高い集積度、小さな消費電力を目指した微細化の研究も進め、実際の低消費 電力コンピュータとしての可能性を実証していく方針だ。
お問い合わせ先
NTT先端技術総合研究所企画部 広報担当:飯塚/河合
TEL:046-240-5157
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