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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
営業人材の育成戦略

第1回:問題提起編

-営業現場に対する思い込みを排す-

FTTHの契約数がここにきて急速な伸びを見せている。2005年12月現在の契約数は464万、3ヶ月ごとの純増数はDSLのそれを大きく上回る66万契約を記録した。

こうした状況の下、営業現場が求められるケイパイビリティが従来とは異なってきているのではないか。また、それに伴って営業人材の育成戦略も変えていく必要があるのではないか。このような観点から、今後三回にわたって営業人材の育成戦略のあり方について再考してみたい。

第一回目の今回は、まず営業に対するありがちな思い込みについての問題提起を行った上で、育成戦略を構築する上での考え方について検討する。

営業に対する思い込み

営業人材の育成戦略を構築する上でまず重要なのは、営業現場に対する間違った(必ずしも正しくない)思い込みを排することである。この点に異論はないだろう。

しかし実際には、営業現場に対するある種の思い込みを前提にして育成プログラムを策定している例が見受けられる。弊社のコンサルティング経験から、ありがちな思い込みを図1に挙げた。

図1 営業現場に対するありがちな思い込み
図1 営業現場に対するありがちな思い込み

(1)精神論 vs. 科学論の二元論?

営業は努力と根性、とにかく何度もアタックすれば実績は自然とついてくる、という考え方(精神論)は根強い。こうした考え方は、何も営業現場だけにとどまらない。現場から離れた営業企画などの部署でも、策定した販売拡大施策が上手くいかないと、「現場はやる気がないからだ」という結論を出しがちだ。

一方で、営業を科学的にとらえようとする向きもある。営業プロセスをいくつかのステップに分解する、ステップごとに有効なツールを開発する、重要業績評価指標(KPI)を設定してモニタリングする、ボトルネックプロセスを見つける、そこに潜む問題点を明らかにして手を打っていく、等々。そうすることこそ、業績を向上させる本質的な営みなだ、というわけだ。

我々は、これら精神論、科学論のどちらも正しいと考えている。ただし、弊社の経験からいえることは、どちらか一方の前提に偏った検討は破綻する、ということだ。間違ったやり方を何度続けても(精神論)成功はあり得ない。かといって有効なツールや論理的に正しいやり方を提供する(科学論)だけでは現場は動かない。精神論、科学論とも真実だという前提のもと、戦略や戦術を組み立てていくべきといえるだろう。

(2)現場が戦略を理解していない?

営業担当者の育成戦略は、販売戦略と密接に結びついている必要があるため、現場から離れた本社の企画部門に近い部署で策定されることが多い。そんな“本社”からはよく次のような嘆きが聞かれる。「現場が自社の戦略を知らない」。確かに、現場調査をすると「戦略を説明できない」という事実が浮かびあがる。しかし、戦略が説明できれば本当に売れるのだろうか?確かに、少数精鋭の自律型営業組織を作り上げるには必要なことかもしれないが、一部の優秀な担当者を除く大半の担当者にとっては、自社の戦略を説明することより、顧客を説得して買ってもらうにはどういうトークをすればいいのか、といったことの方がはるかに重要だ。現場に戦略を落とし込むには、戦略そのものを伝えても効果は低く、戦略を“実行の仕方”にまで噛み砕いて伝えることが必要だ。

(3)豊富な知識を流暢に話すのが良い営業?

“良い営業”というと、知識が豊富で、話すのが上手く流暢にスラスラと説明ができる、といったイメージを抱きがちである。しかし、次のような経験をしたことはないだろうか。ある商品を購入しようと店舗を訪れたものの、店員の説明が長くてイライラし、結局嫌になって買う気が失せてしまった…。知識の豊富さや流暢なしゃべりだけでは、ものは売れない。弊社の経験からいうと、むしろ必要なのは、顧客の意思決定に関わる情報をタイミングよく提供する事であり、また顧客が抱いている疑問に的確に回答することである。

(4)営業には豊富な経験が必要?

営業には豊富な経験が必要である、という考え方にもよく出くわす。しかし、実際には必ずしもそうではない。我々が支援した事例でも、調べてみると、経験の浅い担当者の方が経験の長い担当者よりも実績が上だったというケースが少なくない。これは、経験者は過去の成功体験に固執して顧客視点を忘れてしまうためだと一般的にいわれている。問題はなぜ過去の成功体験が通用しなくなるかであるが、我々の考えはこうだ。製品には導入期、成長期、といったライフサイクルがあり、各フェーズで顧客が製品に求める価値が異なる(=有効な営業の仕方が異なる)ためである。

(5)丁寧な接客が最高のサービス?

営業担当者が提供すべき最高の顧客サービスとはどのようなものだろうか。基本的には丁寧な接客は重要だが、いつもそうとは限らない。例えば、同じ“服を買う”という購買シーンでも、高級ブランドのスーツを買うときと普段着のTシャツを買うときでは、顧客が期待する接客サービスは大きく異なる。後者においては、懇切丁寧な接客にメリットがないだけでなく、むしろデメリットになり得る。「あの店に行くと、店員がまとわりついてきて面倒だから、やめておこう」といった具合だ。前記は極端な例かもしれないが、重要なことは、売りたい商品の性質/ポジショニングによっては、丁寧な接客がマイナスに作用することがあり得るという事実である。

営業人材の育成戦略の基本的考え方

以上を営業人材の育成戦略の観点から要約すると、顧客視点での提供価値に焦点を当てたケイパビリティ構築が不可欠である、といえるだろう。顧客は単にモノを買っているのではなく、商品の裏にある価値(商品の持つ機能であったり、商品を持つことによって得られる優越感であったりする)を買っているのだと捉えるべきだ。また、それらの価値は、製品ライフサイクルや商品の特性によって異なってくるため、身につけるべきケイパビリティに唯一の絶対解は存在しない、との認識で育成戦略を構築すべきである。

今回は育成戦略の前提となる考え方を紹介した。次回以降は、製品のライフサイクルや商品/サービスの性質に応じてどのような育成戦略を構築すべきかについて、より具体的な内容に踏み込んでいきたい。

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