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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
営業人材の育成戦略

第2回:検討の前提

-商品/サービスのライフサイクルを踏まえた人材育成-

前回は営業人材の育成についての「思い込み」について問題提起を行った。とかく精神論、知識や経験偏重型の営業人材育成が行われがちな背景には、営業というのは売るモノが何であれ、共通したスキルであるという認識が育成側にあるからではないだろうか。今回はそんな常識にメスを入れ、商品/サービスの特性を踏まえた育成のあるべき姿について検討していきたい。

商品/サービスのライフサイクル

あらゆる商品/サービスには寿命があり、その売上や普及度は時間の経過と共に緩やかなS字カーブを描く。弊社ではこのカーブを大きく四つの段階に分けて捉えている(図1)。まず新商品を市場に投入した直後に訪れる導入期。そして集中的なマーケティングの結果、商品が市場に受け入れられ始める成長期。続いて商品が多数の顧客に受入れられ、利益が安定する成熟期。最後にシェアを落とし、利益が減少しはじめる衰退期。それではこれらの段階毎に顧客に対する提供価値は何であり、営業人材を育成する上で何に留意すべきか見ていきたい。

図1 製品/サービスのライフサイクル
図1 製品/サービスのライフサイクル

(1)導入期

新商品に飛びついて購入する顧客とは最新の機能やデザインを探求してやまない、マニア的存在であると考えられる。彼らは求めている価値が見出されれば高額な出費をも惜しまない。そんな顧客に対して素人向けの丁寧な商品説明をしてはそっぽを向かれても当然。導入期においては、新商品に対して興味を示す顧客を確実に捉えることが最重要なのである。

このような顧客を相手にする販売現場に求められるのは、新商品に対する顧客の知識・理解レベルや顧客の都合を見極めた上で、彼らが知りたいことに答えられる力である。この段階では競合も少ないため、いかに自社商品が斬新であり、これまでの商品とはどれだけ違うかということを訴求する深い知識に裏打ちされた営業スキルが必要となる。

(2)成長期

この段階における顧客は特定のマニアではなく、マス市場である。導入期において必要とされる深い商品知識を営業担当全員が知らなくとも何とか顧客には対応できるだろうが、成長期においては様々な商品知識や購買意欲を持った多くの顧客が押し寄せてくることを覚悟しなくてはならない。従って全営業担当者が様々な顧客の知識・購買意欲のレベルを見極め、相応しい対応をとる必要がある。その際に顧客に対して明確にすべきポイントは以下の4つであると弊社は考えている。

  • (1)なぜ、その会社から買うのか
  • (2)なぜ、その商品内容/オプションを買うのか
  • (3)なぜ、今、買うのか
  • (4)なぜ、その担当者から買うのか

商品知識があり、購買意欲の高い顧客の場合は特に(1)が重要である。他社ではなく自社でなければならない理由を具体的なメリットを挙げて伝えなければ顧客は買ってくれない。また購買意欲が顕在化していない顧客の場合は、(2)(3)を明らかにすることで購買意欲を上げることが可能だ。顧客が購入の際に何を重視しているかを聞き出し、それに合ったオプションを提案する。また併せてキャンペーン情報など、今ここで買うことのメリットを伝えることで顧客の背中を押すことが可能となる。

また商品知識が豊富でない顧客に対しては、判りやすい説明をしたり、顧客の疑問点に丁寧に答えたりすることで「この人からなら買う」という気持ちを抱かせること、すなわち(4)が効果的であると考えられる。家電量販店などへ行って買物をする時のことを考えてみれば、思い当たる節があるのではないだろうか。

この段階では、販売現場には多種多様な商品情報やセールステクニックが溢れており、担当者も少なからず不安を抱えているものである。営業企画やマネジャーは大量の情報をただやみくもに現場に流すのではなく、お客様のタイプを切り分け、それぞれのタイプに対して(1)~(4)のポイントをどのように訴求すべきか、ということに絞ってケイパビリティの育成を行うべきである。前回も言ったように、知識を詰め込みさえすれば営業がうまくなるわけではない。

(3)成熟期

この段階においては商品が市場に広く浸透しているため、他社商品を利用している顧客をいかに自社商品に乗り換えさせ、シェアを広げるかということが大きなポイントとなる。その際、価格競争力が最大のバリューとなることは当然だが、バンドルサービスやアフターケアなどトータルでの自社優位性を訴え、説得する力も必要である。

大体、成熟期における商品スペックに他社と大きな差異が存在するわけはなく、従って販売担当者による懇切丁寧な説明も必要ない。それよりも前述(2)における①③に注力し、競合から顧客を奪うための営業活動を行うことが重要である。

(4)衰退期

衰退期とは一つの商品の寿命が終わる段階であると同時に、次の商品導入に際しての準備期間であると我々は考えている。すなわち、ある商品を通じて獲得した優良顧客を囲い込み、次の商品へ誘うためのステージである。そのためこの段階では新規顧客を獲得するというよりも、ロイヤリティを向上させるような優待プログラムやアフターケアで自社ブランド自体に対する信頼感をさらに醸成することが重要である。

営業人材に求められるケイパビリティ

以上のように、営業人材に求められるケイパビリティは商品のライフサイクルの各段階において顧客が何を求めているか、によって異なってくる。とはいえ、顧客との短い会話の中から顧客の購買意欲や知識レベルを瞬時に見極め、適切な対応をとれる営業担当者はほんの一握りである。営業人材の育成においては、その他大勢の担当者が適切な判断を下せるよう、顧客のタイプ/場合分け、そしてポイントを絞った営業スクリプトの整理をすることが肝となる。

次回は育成のための具体的な手段・方法について解説したい。

お問い合わせ先

アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク産業本部パートナー
冨永 孝
takashi.tominaga@accenture.com
同シニアマネジャー
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ayako.takemoto@accenture.com
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冨永 孝
アクセンチュア株式会社 通信・ハイテク産業本部同シニアマネジャー 竹本 理子
アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク産業本部シニアマネジャー
竹本 理子