これだけは知って欲しいSOA
第4回 SOAによる成功のために(留意事項と今後の展望)過去3回でSOAの概略、具体的事例、進め方について説明してきた。最終回となる本稿では、SOAの導入をビジネスの成功に正しく結びつけるための(現時点の)留意事項と今後の展望につき、業界・技術動向も交えつつ概説する。
留意すべき事項
本稿のみならず、(企業にとっての)SOAの重要性、魅力を伝える記事情報は業界にあふれている。ハードウェア・ソフトウェアベンダ、パッケージベンダ、大小のSIビジネスやコンサルティングビジネスがそれぞれに独自の製品、サービスの優位性を謳い、IT系のカンファレンスやビジネス誌では先進ユーザが自らの取り組みと将来のプランを語っている。
ある種狂騒的でさえある状況の中で、当事者である企業は冷静に、現時点のSOAならびにそれにまつわる製品・サービスの優位と限界を見極めなければならない。以下、いくつかのポイントごとに留意事項と対処法につき述べる。
(1)パフォーマンス
SOA(より厳密にはWebサービス)導入について各企業が抱く第一の不安がこれではないだろうか。実際、Webサービスを活用する企業でパフォーマンスに関わる懸念が比較的多いのは事実である。
各ミドルウェアベンダはそれぞれにパフォーマンス面での改善を進めており、今後も効果の見込めるところではあるが、設計面でも考慮が必要な点、SOAだからといって従来のSIと異なるわけではない。
あるサービスを定義する際に、結局そのサービスがどれだけのシステム、データエンティティにアクセスすることになるのか、またそのボリュームはどの程度なのか、こうした点についての配慮と、判断を助けるガイドラインは、最終的には個々のSOAプロジェクトで定義しなければならない。現行システム側のデータ要件や処理能力はそれぞれに異なっており、SOAだからといって10も20ものシステムをひとつのサービスの裏に連結すればパフォーマンス上よいことがないのは自明である。
SOAはシステムの垣根を越える技術であるが、超えるべき垣根があまりにも多いときには、サービスの単位を細かくしたり、場合によっては従来どおりの物理システム統合を限定的に行ったりといった、現実的なオプションも検討すべきである。こうした課題は前述のミドルウェア性能向上、言い換えれば技術の進歩に応じて解消されていくところも多いが、導入時点で限界を見極める努力を怠ってはならない。
(2)信頼性
WebサービスはHTTPやSOAPといった標準プロトコルをベースとしているが、これらの通信手段がいわゆるベストエフォート志向であるのは周知のとおりである。現時点では、複雑なトランザクション管理を要する基幹系システムよりも営業系や情報系のシステムでの適用が多いことも事実である。
メッセージングの信頼性に関わっては、当初複数の標準が共存しており、OASIS(Organization for the Advancement of Structured Infor- mation Standards・・・e-ビジネス標準の開発、統合および採用を推進する非営利国際コンソーシアム)にてその統一が進行中である。これにあわせ各ベンダによるミドルウェア機能強化も進みつつあるが、パフォーマンスの項でも見たとおり、導入時点での限界見極め、必要な機能アドオンについては、各企業にて検討判断すべきポイントとなる。
(3)セキュリティ
メッセージング信頼性についての標準と同じく、OASISにて去る2月に統一セキュリティ標準(WS-Security1.1)が承認されたところである。これにより各ミドルウェアのセキュリティ機能強化が加速されるものと期待される。
とはいえ現状は発展途上と見たほうがよく、SOA導入時の統一セキュリティ基盤整備においては、採用するミドルウェアの提供機能を見極めたうえで他ソフトウェアや独自開発の認証機能等との組み合わせを考えるべきであろう。
今後の展望
既述の留意事項にかかわらず、SOAにまつわるさらなる技術革新、ミドルウェア機能強化は今後とも進み、企業における利用もそれにより促進されるであろう。
また、企業内ITにとどまらず、いわゆるユビキタスコンピューティングや組み込みソフトウェアといった先進技術とそれを活用したビジネスも、物理システムのくびきを解くSOAと思想の上で通底する部分が多く、相乗効果で互いに発展していくことが予想される。
SI業界においては、SOAを単なる技術でなくビジネスソリューションととらえ、ビジネスプロセスとそれを構成するサービスそのものをテンプレート化して提供するような、コンサルティングも含めた総合力が問われることになろう。
あらためて、SOA導入の成功においては、技術云々以前にビジネスプロセスとサービスの最適な切り出し、定義こそが肝要である点、強調したい。同じような業務機能に複数のサービスが対応する状態は、保守の冗長化を招き、コストメリットを失わせる。その一方で既述のとおり、あまりに多くの機能を一つのサービスに持たせることは、パフォーマンスの点で問題である。そもそものビジネス戦略に照らしていかなるプロセスが、サービスがSOA化されなければならないのか、それを技術的観点から検証した場合にどのような構成が最終的に可能となるのか、こうした検討の過程では、前述のようなコンサルティングサービスを活用することも一助となろう。
さらに、ビジネスプロセスやサービスを一から定義、設計開発する代わりに、ソリューションテンプレートやパッケージとして買い入れ、カスタマイズして導入するような方法も考えられる。あるいはその逆に、自社で開発したサービスをその単位でアウトソースしたり、場合によっては外販したりといった可能性も広がるであろう。
SOA導入は今後の企業ITの重要なテーマのひとつとなるであろう。弊社としても、そうした取り組みの一翼を担い、多くのクライアントの成功に貢献したく思っている。
お問い合わせ先
アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク産業本部パートナー
立花 良範
yoshinori.tachibana@accenture.com
同シニアマネージャー
松本 晋一
shinichi.matsumoto@accenture.com
アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク産業本部パートナー
立花 良範
これだけは知って欲しいSOA
- 第1回:経営とITの間に潜むねじれを解消せよ
- 第2回:事例に見るSOA導入のビジネスインパクト
- 第3回:SOA 導入のアプローチ
- 第4回 SOAによる成功のために(留意事項と今後の展望)