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ビジネスコミュニケーション
第100回 保証ケースの議論分解パターン[応用編]国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授 山本修一郎

国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授
(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎

今回の記事で、本連載も100回を迎えることができた。これも読者のみなさんのご支援の賜物であると深く感謝している。

さて本稿では前回に引き続き、名古屋大学におけるこれまでの研究に基づいて考案した保証ケースの分解パターンについて紹介したい。その前に、最近、和解が報道されたトヨタの訴訟問題を事例にとり、現代システムが抱えるリスクについて保証ケースの観点から述べる。

現代のシステムリスクとは

最近、米国での大規模リコール訴訟に対してトヨタが940億円で和解したという報道があった[1]。この金額は、米国の自動車業界で過去最大だそうである。この訴訟では、トヨタ車のエンジンを制御する電子スロットルに「意図しない急加速」があるということが問題になっていた。しかし、すでにNASAによる第三者検証によって、トヨタ車の電子スロットルに欠陥がなかったことが確認されている。にもかかわらず、今後訴訟が長引くことによるイメージ低下を避けるために、トヨタが和解金の支払いを決断したとのことである。またトヨタは、投資家との間で「トヨタ株低下による損害」訴訟についても20億円で和解している。

NASAによる第三者検証は、この事件が問題になった後で、「電子スロットルに欠陥がないこと」を証明する客観的な証拠をトヨタ側が提示できなかったために、米当局の指示によって実施された点が重要である。この事実は、もしトヨタ側が法廷で「電子スロットルに欠陥がないこと」を証明する客観的な証拠として保証ケースを提示できていれば、もっとうまく、そして早く経済的に和解できた可能性が高いことを示唆している。

その場合、開発段階で作成する保証ケースでは「電子スロットルに欠陥がないこと」を主張として、主張が成立するための客観的な証拠を作成して確認することになる。法廷でこの主張が証明できるかと問われたときに、この保証ケースを提示すればよかったのである。しかし、現実には、このような米国社会が納得するような客観的な証拠が提示できなかったために、NASAによる第三者検証が必要になったわけだ。

以上をまとめると、表1のようになる。

表1 現代のシステムリスク

表1 現代のシステムリスク

これまではシステムリスクというと、システム開発に関わる信頼性についてしか考慮していなかった。しかも、徹底的な試験を実施しておけば、システムを高信頼化できることから、第三者検証のような活動を、冗長であるとして軽視してきたのが実態である。しかしトヨタの事例からわかるように、試験が充実しているからというだけでは、開発活動の妥当性を客観的に説明することができないというリスクがある。これらのことは、本連載の第70回ですでに指摘していたことである。都合の悪いことは起きないと思っているところに限って、いつか厄介な事態が発生するものである。

また、問題事象が発生したときに、組織が問題の本質を理解することなく、不適切な判断に基づいて対応することによって、ビジネスの継続性に重大な支障をきたすという、組織内部や顧客とのコミュニケーションのリスクが発生する。

さらに、顧客による想定外の訴訟を起こすというリスクもある。トヨタの事例では、この3つのリスクが複合して、ブランドが大きな経済的損失を被った。ここでの重要な教訓は次の2点である。

システム開発段階で第三者検証確認を実施することにより、適切な開発活動を実施していることを客観的に証明できる証拠を残すこと。

この結果に基づいて、問題事象が発生した場合に、適切なコミュニケーションによって、顧客に対して説明責任を遂行できること。

これによって、システムを開発した企業は、ビジネスの継続性を達成できるのである。

保証ケースによるリスク対策の考え方

それでは、このような現代のシステムが抱えるリスクを保証ケースでどのように回避できるのだろうか?

1つの考え方を表2に示した。

表2 保証ケースを活用した現代システムのリスク対策例

表2 保証ケースを活用した現代システムのリスク対策例

まず、顧客対応リスクへの対策を保証ケースによって確認することができる。また、ビジネス継続性リスクへの対策を保証ケースによって確認することができる。さらに保証ケースにより、要求プロセス、設計プロセス、実装プロセス、試験プロセスの妥当性を客観的に第三者が確認できるようになる。

ここで、開発プロセスが分割発注されている場合でも、保証ケースを工程ごとに作成することができることを注意しておく。つまり、各工程の活動が正しく実施されていることを示す証拠がないと、本来、工程完了判断できないはずである。したがって、当事者以外の第三者が見ても納得できるような証拠書類として、開発文書が記録されていることを確認することになる。

リスク対策の経済効果

ここで、リスク対策の経済的な効果をまとめると、図1のようになる。リスク対策のためには経費が必要である。当然、貧弱な対策よりも豊富な対策の方がより多くの経費がかかる。一方、リスク対策を軽視すれば、経済的に大きな損失が発生する可能性がある。そこで重要になるのが、適切なリスク対策を選択することである。

適切なリスク対策を選択するためには、リスクを識別して、甚大な被害をもたらす可能性のあるリスクに対して対策を用意したことを確認する必要がある。このために、保証ケースを用いることができる。

図1 リスク対策の経済効果

図1 リスク対策の経済効果



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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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