ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

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第119回 持続可能性要求国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授 山本修一郎

国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授
(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎

今回は、最近注目されている持続可能性(Sustainability)についての要求工学を紹介する。持続可能性要求は、地球環境の持続可能性のために提案された[1]。以下では、はじめに持続可能性とソフトウェアシステムがどのように関係するかを説明する。次に、持続可能性要求の歴史と、持続可能性要求を記述する上での留意点と課題を紹介する。

持続可能性

国連による定義では、「将来の世代がニーズを満たすために彼らの可能性を妥協させることのないように、現代のニーズを満たすこと」が持続可能開発であるとされている。

持続可能性の検討では、経済面、社会面、環境面を考慮する必要がある。

これまでのソフトウェア工学でも、経済面、社会面の次元は間接的に支援されている。たとえば、ゴール指向要求工学では、ビジネスゴールを扱うことができるので経済面を考慮できる。また、社会システム要求として、ステークホルダ要求や安全要求などを扱うことで社会面を考慮できる。

しかし、環境面の持続可能性について、ソフトウェア工学では考慮されてこなかったので、今後検討していく必要がある[1]

ソフトウェア工学と持続可能性の関係には、①ソフトウェア開発プロセスの持続可能性を改善する、②コンテクストの中で利用されるソフトウェアシステムの持続可能性を改善することで、コンテクストの持続可能性を改善するという2つがある。ソフトウェアシステムの持続可能性への影響には、次の3種類がある[2]。ここで、コンテクストというのは、人間社会や地球環境を含むソフトウェアシステムが利用される環境のことである。

一次的影響:ソフトウェアシステムが与える環境への直接的な効果。たとえば、ソフトウェアシステム自体が消費するエネルギー使用量。

二次的影響:ソフトウェアシステムがもたらす間接的な効果。たとえば、資源消費や消費者行動の変化によって増加するエネルギー使用量の増加。

三次的影響:リバウンド効果。たとえば、システム効率の向上がより多くの利用をもたらすことによるエネルギー使用量の増加。

ソフトウェア開発によってどのようにして持続可能性を効果的に達成できるか?

持続可能性要求を組み込むことから持続可能性要求が実現されていることを確認する品質保証の実施までの系統的なアプローチが必要になる。持続可能性についての明示的な品質特性によって、このすべての工程がガイドされる必要がある。このような考え方は、セキュリティ要求や安全要求でも同様にみられたことである。たとえば、安全要求を明確に定義することで、システムが安全要求を実現していることを保証できる。そこで、Penzenstadlerらは、セキュリティ要求や安全性要求についてのこれまでの研究を踏まえて、持続可能性要求を確立することで、持続可能性のためのソフトウェア工学によってわれわれの世界をより持続可能にすることを目指している。

セキュリティ、安全性、持続可能性についてのソフトウェア技術

セキュリティ、安全性、持続可能性についてのソフトウェア技術の歴史を整理すると表1のようになる。ソフトウェアセキュリティは1980年代からセキュア計算と検証として認識されてきた。安全設計の観点から1990年代に入ってソフトウェア安全性が検討されるようになった。持続可能性は、ようやく2010年代になってソフトウェアシステムの品質の一部として認識されるようになった。このような安全性やセキュリティに対するソフトウェア技術の発展は、社会的な事件・事故の顕在化がきっかけになっている。したがって、最初から安全性やセキュリティが要求工学で検討されてきたわけではない。たとえば、IEEE Std. 830-1998では、安全性とセキュリティは制約の一種としてしか扱われていない。これに対して、最も新しい要求工学の標準であるISO/IEC/IEEE 29148:2011では、安全性とセキュリティが主要な話題として取り上げられている。

◆安全性要求

識別されたハザードから導出される制約が安全性要求である。過去のソフトウェア障害原因のほとんどが、コーディングエラーではなく要求欠陥であるというLevesonの報告[3]がある。このため、重要安全システムに対する要求仕様の網羅的な分析手法の研究開発が1990年代に盛んになった。

◆セキュリティ要求

特定のシステムにおける具体的な要求に、セキュリティに関する高水準の組織方針が明示されていることがセキュリティ要求である。安全要求と同様に考えると、「保護すべき資源への識別された攻撃への対策としての制約」がセキュリティ要求であるということもできる。

最近では、セキュリティ標準に準拠する必要から、セキュリティ要求が注目されるようになってきた。

以下では、安全性、セキュリティ、持続可能性について

・特性
・誤解への対策
・要求分析手法
・方針と標準
の観点から比較して説明する。

表1 セキュリティ、安全性、持続可能性のソフトウェア技術の経緯と要求工学(クリックで拡大)

表1 セキュリティ、安全性、持続可能性のソフトウェア技術の経緯と要求工学

特性

持続可能性の特性を明らかにするために、特性としての安全性とセキュリティを考えると以下のようになる。



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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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