NTTデータ
技術開発本部
副本部長
山本修一郎
RPPG-10(消費者に対する説明及び情報提供)
【記述】
事業者、事業者団体及び政府機関等の関係機関は、電子タグの利用目的、性質、そのメリット・デメリット等に関して、消費者が正しい知識を持ち、自ら電子タグの取扱いについて意思決定ができるよう、情報提供を行う等、消費者の電子タグに対する理解を助けるよう努める必要がある。
【分析のポイント】
最終的な目的はどこにあるかと考えると、「電子タグの利用目的、性質、そのメリット・デメリット等に関して、消費者が正しい知識を持ち、自ら電子タグの取扱いについて意思決定できる」ようにすることだと考えられる。さらにこの中で、「消費者が正しい知識を持つ」ことと「電子タグの取扱いについて意思決定できる」ことが並列に存在できると考えると、この2つが親ゴールになる。
次に「情報提供を行う等、消費者の電子タグに対する理解を助けるよう努める」という箇所を検討すると、「情報提供を行う」のは「消費者の電子タグに対する理解を助ける」ための手段だと考えられる。したがって、サブゴールは「消費者の電子タグに対する理解を助ける」となり、そのサブゴールが「電子タグに関する情報提供を行う」ことになる。
図6 第10(消費者に対する説明及び情報提供)
【ゴール図】
RPPG-10に対するゴール図を図6に示す。親ゴールは「消費者が正しい知識を持つようにする」ことと「消費者が電子タグの取り扱いについて意思決定できるようにする」ことである。サブゴールは「消費者の電子タグに対する理解を助ける」ことで、その手段が「電子タグに関する情報提供を行う」ことになる。
ソフトゴールの分類
チャンらのNFRフレームワーク[2]では、ソフトゴールを3種類に分類している(表2)。
・非機能型ソフトゴール
システム全体に対する制約を与える。
例:顧客を正確に管理する
・操作型ソフトゴール
非機能型ソフトゴールを実現する手段となる。
例:顧客を識別するための索引を用意する
・主張型ソフトゴール
意思決定に関する根拠となる理由を提示する。
例:プラチナ顧客は重要である
操作型ゴールの場合、ゴールが達成されているかいないかが明確に判定できる必要がある。たとえば、「情報を提供する」「~表示する」とか、「~保護する」といったソフトゴールは操作型でもよいかもしれない。
これに対して、「理解を助ける」「正しい知識を持つようにする」「意思決定できるようにする」などは、ゴールの達成条件があいまいなので、非機能型である。
主張型ゴールの例としてはRPPG-6の「電子タグに記録された情報を個人情報保護法上の個人情報として扱う」があった。
ゴール図の効果
ゴール図を描いていて気づいた点として、ガイドラインのタイトルのつけ方に「目的」の場合と「手段」の場合があることと、本文の記述の中に「目的」が記述されている場合とそうでない場合があることが挙げられる。幸いにして、今回の場合には目的がタイトルもしくは本文のどちらかに記述されていたので判読できたけれども、もしタイトルと内容の両方に手段しか記述されていなければ、ゴールを発見することは困難だっただろう。逆に言えば、ゴール図を描くことでこのような仕様の欠陥を発見できることになる。要求仕様書の視点から考えると、タイトルや本文を記述する上で、目的あるいは手段のどちらを記述するのかを予め記述要領で規定しておくことが重要だ。
また、本文の中に問題点が記述されている場合にも、目的の記述を見失いやすいことがある。問題点についてはゴール図では表現しないので、この点が少しわかりにくいかもしれない。あえて描くとするなら図7に示したように、主張型ゴールとして問題を記述することができるだろう。なぜそのゴールが必要なのかを問題点を明記することにより、理由を説明できるからだ。
図7 第5(電子タグの社会的利益等に関する情報提供)
今回は前回に引き続き、ゴール分析手法で電子タグプライバシーガイドラインを具体的に分析した。読者の皆さんが想像していたゴール図と比べてどうだったであろうか?
ゴール図は簡単だと思われただろうか?やはりとっつきにくいものだと思われただろうか?もし前者であれば幸いだ。
要求定義ではソフトウェアが何をすべきかを記述する。なぜソフトウェアが必要なのかを明らかにするのが、ゴール分析だ。最近の要求工学ではゴール指向要求工学(GORE, Goal Oriented Requirements Engineering)が盛んに研究されている。ぜひ修得していただきたい技術のひとつだ。
参考文献
- [1]総務省・経済産業省:
http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/pdf/040608_4_b.pdf - [2] Lawrence Chung, Brian Nixon,Eric Yu, John Mylopoulos, Non-Functional Requirements In Software Engineering, Kluwer Academic Publishers, 2000.
- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要