NTTデータ
技術開発本部
副本部長
山本修一郎
概念モデル
表1 概念モデルの記述要素
人間活動システムに含まれる個々の活動は「動詞」で表現できるから、人間活動システムを定義するためには動詞間の「結合性」も表現できる必要がある。このような活動間の関係を記述する表記法が概念モデルである。概念モデルの構成要素は、表1に示すように活動、活動間の論理的な依存関係、外部入出力と制御活動への出力からなる。活動内容は「動詞」を用いて記述するので、データフロー図に近いモデルであるといえる。異なるのは監視制御活動を持つ点と、活動間の関係が必ずしもデータの流れと一致していなくてもいいことである。また、データフロー図ではデータの保管庫「データストア」を記述するが、概念モデルではこのような概念は「名詞」で表現されるので、記述してはいけないし、記述すると誤りになる。
【例】概念モデル
基本定義「法令に対して実験を用いて工学的に有効性が確認されたゴール分析手法を開発するシステム。」に対する概念モデルの例として、「法令へのゴールグラフ作成方法に対する工学的活動の概念モデル」を図3に示す。
図3 法令へのゴールグラフ作成方法に対する工学的活動の概念モデル
システム定義の検証
表2 モデルの検証方法
人間活動システムを基本定義と概念モデルを用いて記述することを紹介した。しかし基本定義や概念モデルは記述すればいいというものではない。重要なのは「良い基本定義」と「良い概念モデル」を作成することだ。SSMには基本定義や概念モデルを分析するための手段が用意されている。それが表2に示したようにCATWOE分析とチェックランドの形式システムモデルの条件だ。以下ではこれらを概観しよう。
CATWOE分析
CATWOEとは基本定義を構成する基本的な要素の頭文字を列挙したものだ。「キャトウ」と読む。C:受益者(Customer)はシステムの恩恵を受ける対象である。A:実行者(Agent)はシステムの活動を実行する行為者のことである。T:変換はシステム入力をシステム出力に変換する。W:世界観は基本定義の意味を与える現実世界の状況に対する見方(フィルタ)である。O:所有者(Owner)は関心の対象となっているシステムの所有者である。E:環境(Environment)はシステムを取り巻く環境やシステムの外部にありシステムを包含する外部システムからの制約である。CATWOEの構造を基本定義および概念モデルと対応付けて整理すると図4のようになる。
図4 CATWOEの構造
【例】CATWOE分析
基本定義「法令に対して実験を用いて工学的に有効性が確認されたゴール分析手法を開発するシステム。」に対するCATWOEの内容は次のようになる。
- C:明示されていない
- 候補1:開発されたゴール分析手法を活用する世の中の分析者
- 候補2:ゴール分析手法を開発した担当者
- A:明示されていないが、ゴール分析手法の実験活動を実施した担当者
- T:ゴール分析手法を開発することである
- W:明示されていない
- 候補1:法令に対するゴール分析手法により、法令のゴール分析が容易化される
- 候補2:法令に対するゴール分析手法を先駆けて開発することにより、担当者に満足感をもたらす
- O:明示されていない
- 候補1:世の中
- 候補2:担当者
- E:明示されていない
- 候補1:対象とした法令やゴール分析手法の制約
- 候補2:担当者の時間や能力からの制約
この例で示したように同じ変換過程に対しても異なるWを採用できる可能性があることがCATWOEを調べることでわかる。もちろん、上述した他にもいくつかの候補が考えられるがここでは省略した。
- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
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- 111:IREB
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- 113:IREB要求の文書化
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- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要