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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第17回:ゴール分析 応用編
NTTデータ 技術開発本部 副本部長 山本修一郎
NTTデータ 
技術開発本部
副本部長 
山本修一郎

概念モデル

表1 概念モデルの記述要素
表1 概念モデルの記述要素

人間活動システムに含まれる個々の活動は「動詞」で表現できるから、人間活動システムを定義するためには動詞間の「結合性」も表現できる必要がある。このような活動間の関係を記述する表記法が概念モデルである。概念モデルの構成要素は、表1に示すように活動、活動間の論理的な依存関係、外部入出力と制御活動への出力からなる。活動内容は「動詞」を用いて記述するので、データフロー図に近いモデルであるといえる。異なるのは監視制御活動を持つ点と、活動間の関係が必ずしもデータの流れと一致していなくてもいいことである。また、データフロー図ではデータの保管庫「データストア」を記述するが、概念モデルではこのような概念は「名詞」で表現されるので、記述してはいけないし、記述すると誤りになる。

【例】概念モデル

基本定義「法令に対して実験を用いて工学的に有効性が確認されたゴール分析手法を開発するシステム。」に対する概念モデルの例として、「法令へのゴールグラフ作成方法に対する工学的活動の概念モデル」を図3に示す。

図3 法令へのゴールグラフ作成方法に対する工学的活動の概念モデル
図3 法令へのゴールグラフ作成方法に対する工学的活動の概念モデル

システム定義の検証

表2 モデルの検証方法
表2 モデルの検証方法

人間活動システムを基本定義と概念モデルを用いて記述することを紹介した。しかし基本定義や概念モデルは記述すればいいというものではない。重要なのは「良い基本定義」と「良い概念モデル」を作成することだ。SSMには基本定義や概念モデルを分析するための手段が用意されている。それが表2に示したようにCATWOE分析とチェックランドの形式システムモデルの条件だ。以下ではこれらを概観しよう。

CATWOE分析

CATWOEとは基本定義を構成する基本的な要素の頭文字を列挙したものだ。「キャトウ」と読む。C:受益者(Customer)はシステムの恩恵を受ける対象である。A:実行者(Agent)はシステムの活動を実行する行為者のことである。T:変換はシステム入力をシステム出力に変換する。W:世界観は基本定義の意味を与える現実世界の状況に対する見方(フィルタ)である。O:所有者(Owner)は関心の対象となっているシステムの所有者である。E:環境(Environment)はシステムを取り巻く環境やシステムの外部にありシステムを包含する外部システムからの制約である。CATWOEの構造を基本定義および概念モデルと対応付けて整理すると図4のようになる。

図4 CATWOEの構造
図4 CATWOEの構造

【例】CATWOE分析

基本定義「法令に対して実験を用いて工学的に有効性が確認されたゴール分析手法を開発するシステム。」に対するCATWOEの内容は次のようになる。

  • C:明示されていない
  • 候補1:開発されたゴール分析手法を活用する世の中の分析者
  • 候補2:ゴール分析手法を開発した担当者
  • A:明示されていないが、ゴール分析手法の実験活動を実施した担当者
  • T:ゴール分析手法を開発することである
  • W:明示されていない
  • 候補1:法令に対するゴール分析手法により、法令のゴール分析が容易化される
  • 候補2:法令に対するゴール分析手法を先駆けて開発することにより、担当者に満足感をもたらす
  • O:明示されていない
  • 候補1:世の中
  • 候補2:担当者
  • E:明示されていない
  • 候補1:対象とした法令やゴール分析手法の制約
  • 候補2:担当者の時間や能力からの制約

この例で示したように同じ変換過程に対しても異なるWを採用できる可能性があることがCATWOEを調べることでわかる。もちろん、上述した他にもいくつかの候補が考えられるがここでは省略した。

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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。



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