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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

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第30回:特性要因図とゴール思考分析 NTTデータ 技術開発本部 副本部長 山本修一郎

(株)NTTデータ 技術開発本部 システム科学研究所 所長 工学博士 山本修一郎

概要

品質管理などでは、特性要因図がよく用いられる。特性とその特性に対して影響を与える要因との関係を階層的に整理するための図式が特性要因図である。今回は、特性要因図とゴールグラフとの関係について考えてみよう。

特性要因図

特性要因図では、まず特性を大骨で示す。次に特性に対する要因を中骨、中骨に対する要因を小骨という風に段階的に詳細化していく。このため特性要因図を魚の骨図(フィッシュボーンチャート)ともいう。特性要因図の構成要素を表1に示す。

表1 特性要因図の構成要素
表1 特性要因図の構成要素

特性要因図の例

ISO9126ソフトウェア品質特性に対する特性要因図の記述例を図1に示した。

図1 ISO/IEC9126(JIS X 0129)ソフトウェア品質特性に対する特性要因図(クリックで拡大)
図1 ISO/IEC9126(JIS X 0129)ソフトウェア品質特性に対する特性要因図
(クリックで拡大)

ソフトウェアの品質の特性は、以下のように分類される(JIS X 0129)。

(1)信頼性:

指定された達成水準を維持する特性。副特性には成熟性、障害許容性、回復性がある。

(2)保守性:

修正のしやすさに関する特性。副特性には分析容易性、変更容易性、安定性、試験容易性がある。

(3)移植性:

ある環境から他の環境に移すための特性。副特性には成熟性、障害許容性、回復性がある。

(4)効率性:

使用する資源の量に対比して適切な性能を提供する特性。副特性には時間効率性と資源効率性がある。

(5)機能性:

明示的及び暗示的必要性に合致する機能を提供する特性。副特性には合目的性、正確性、相互運用性、セキュリティがある。

(6)使用性:

理解、習得、利用でき、利用者にとって魅力的である特性。副特性には理解性、修得性、運用性、魅力性がある。

特性要因図では、このように主特性と副特性の関係を表現することができる。また特性要因図では、大骨として問題や課題を対応させることで中骨や小骨で大骨に対する原因や対策を段階的に分析することもできる。たとえば、ソフトウェアの設計ミスに対する特性要因図の例が文献[1]にある。

ここでは、図2のようなマツダのロードスターのデザインで用いられた「人馬一体」を大骨とする特性要因図の例を示そう。この例は、イノベータの条件を豊富な事例に基づいて整理している「イノベーションの作法-リーダーに学ぶ革新の人間学」[2]のロードスターの事例から作成した。この本の冒頭に出てくるマツダのロードスターの事例は、「人馬一体」を実現するという強い信念で1人の技術者が、孤立無援の状態から徐々に支援者を得て会社を救う物語だ。図2は筆者がこの事例を参考にして描いたものであり、当然実際に用いられたロードスターの特性要因図[3]とは異なることを注意しておく。

図2 マツダ・ロードスターの特性要因図の例
図2 マツダ・ロードスターの特性要因図の例

さて、この図から次のようなことが分かる。ロードスターが目標とする「人馬一体」を実現するためには、緊張感、走り感、ダイレクト感、爽快感が重要だ。緊張感を実現するためには、全体レイアウト、デザイン処理、パワープラントおよびシャーシでどうすればいいかを検討する必要がある。このため全体レイアウトのデザインでは、スポーツカーとしての乗降性、あえて狭い居住性、運転席からの視界などが検討されたのである。

この図で分かるように、特性要因図では、最終目標としての「人馬一体」感を達成するために検討すべき課題を段階的に具体化できるのである。

ゴールグラフと特性要因図

特性要因図では、主特性を副特性に段階的に展開できると述べた。ということは、ゴールをサブゴールに段階的に展開するゴールグラフと同じ構造を特性要因図が持つということである。実際に、大骨をゴール、中骨をそのサブゴール、小骨をサブゴールのサブゴールというように対応付ければ、特性要因図からゴールグラフを作成できる。

たとえば、ロードスターの例に対して、このように対応付けられたゴールグラフを図3に示す。

図3 ロードスターの特性要因図に対するゴール木の例
図3 ロードスターの特性要因図に対するゴール木の例

ところで、このゴールグラフを良く見ると、「緊張感」などの乗車時のドライバーの心理状態の性質に関するゴールと「デザイン処理」などの車を実現する上でのプロセスや、「あえて狭い居住性」というようなデザイン上の意志決定が混在していることが分かる。

そこで、次に、NFRフレームワーク[4][5]を用いて、この点についてどうすればいいか考えてみよう。まず、NFRフレームワークを紹介しよう。

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