伊藤忠テクノソリューションズ

ITを活用した「ワークモデル改革」
システムではなく「文化を創る」ことを重視

(2019年11月号掲載)

伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)は世の中の動きに先行してデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)による働き方改革を推進してきた。その取り組みの最も大きな特徴は、情報システム部門が現場の要望に応じてシステムを作るだけでなく、「IT を使う文化創り」を重視している点にある。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
サービスデザイングループ
情報システム室 情報システム部
部長/エグゼクティブエンジニア
永田 孝哉

重要なのはシステムを作ることではなく「ITを使う文化を創る」こと

CTC は2004 年、「ワークスタイル改革」を目的とする「eWork」というプロジェクトをスタートした。人材教育、プロセス、設備まで含めたフレームワークを作成したほか、高セキュリティなファイルサーバーやメールシステムの導入、また「データを社外に持ち出さない」というルールを設けるなど、他社に先駆けたセキュリティ強化も特徴の1 つであった。

「データを社外に持ち出せないようにすることでセキュリティは強化されましたが、『残業が増える』、『コミュニケーションが遅くなる』という不満も出るようになりました。もともとコンセプトの1 つであった『セキュリティと利便性のバランスを取る』ためには、IT も現場の要件も全てわかっている情報システム部門が『ITを使う文化そのものを創る』ことが重要です。この取り組みがCTC の働き方改革を支えています」(永田氏)

文化を創るにはルールによって強制的に使い方を変えることも必要

「IT を使う文化創り」が進んだ要因の1 つが、IT 利用に関するルールや制約作りであった。例えば何でもメールで連絡しファイルもメールで送ることは、情報流出などの事故につながりかねないという懸念から、メールボックスの容量を制限した。大容量化する近年の動きと逆行する施策だが、ファイル共有ツールやチャットツールなど、用途に応じて適切なツールを使う文化が浸透した。

またファイルサーバーを作業用と文書管理用に分け、作業用には容量制限を設けることで、無駄なファイルを残さない文化を醸成した。文書管理用には容量制限はないが、作業用を経て
文書管理用に保管されるのは本当に必要なファイルだけであるため、ストレージのコストを抑えることができた。

よりワークスタイルに合う形でのIT活用を推進

2011 年からスタートした第二次ワークスタイル改革「eWork+」では、より社員一人ひとりのワークスタイルに合うようIT 活用を推進した。離席中などのステータスを確認して利用できるチャットツールを本格導入したのもこのときであった。また、当時普及が進んでいたスマートフォンやタブレット端末を業務に活用するため、自社ソリューションの「CACHATTO」を全社的に導入した。導入や運用のしやすさと高いセキュリティが特徴のCACHATTO はMDM 機能なしに、BYOD(Bring Your Own Device)でも安心して利用できる。

シンクライアントシステムは導入済みであったため、「クライアント側にデータを保存させない」ことで、さまざまな端末から安全に利用できるようにした。

「『スマートフォンとPC 端末さえあればどこでも仕事できる』という体制が整いました(図1)。また働く場所や端末の選択肢が広がったことで、パートナースタッフは自社のオフィスから自社が支給する端末を使って安全に業務を行ってもらえるようになりました。つまりはCTC 側でオフィススペースの確保やネットワーク、端末の手配といったことが不要になり、即日でプロジェクト体制の立ち上げが完了します」(永田氏)

図1 場所・時間・端末を選ばない働き方環境へ

このため、CTC のパートナースタッフは増加しているものの、CTCのオフィスで業務を行う人数はむしろ減っている。このことによるコスト削減効果も計り知れない。

このほか社内ポータルを刷新し、個人のスキルを登録するルールを設けてスキル保有者を探しやすくするなど、社員個人間のつながり・コミュニケーションを促進した。

「いきいきと創造的業務に挑戦できる」ための「ワークモデル改革」

世の中に先行して働き方改革につながるDX を進めてきたCTC は、2018 年から「ワークモデル改革」に取り組んでいる。全てを自社で用意することにこだわらず、近年普及した多様なSaaS にも対応できる仕事環境を実現すること、またそれによって「いきいきと創造的業務に挑戦できる」ことを目標としている。すなわち「先端IT 技術をフル活用しゼロベースで働き方をリデザイン」する取り組みだ。

2020 年度末までの実現を目指しているものだけでも「顔認証によるオフィスセキュリティ* 1」、「データが入った状態でも安心して端末を持ち歩けるデスクトップ環境」(図2)、「SD-WAN 導入によるコスト削減」など、さまざまな施策がある。

図2 端末環境の改革

「コミュニケーションツールの本命であるチャットツールを、より生産性を高めるために活用することを検討しています。またエンジニアの最適配置という課題に対応すべく、タレント・マネジメントをしやすくする仕組み* 2 作りも進めています。将来5G が普及すればオフィスにネットワークケーブルを敷設する必要もなくなるかもしれません。自動化による業務効率化はもちろん、社内ルールや仕組みの見直しも含め、さまざまなことを検討しながら、ワークモデル改革に取り組んでいます」(永田氏)

※ 1 ※ 2 ともに 詳細は本号CTC 特集を参照