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〜百貨店ソリューション〜
百貨店システム構築事例

NTT コミュニケーションズソリューション事業部第二営業部(以下、 NTT コム)は、東北地方の大型百貨店の情報システム構築を依頼され た。この百貨店システム構築ソリューションの概要や同社のプロジェ クトの進め方などを詳しく解説していきたい。


システム構築へ向け現状分析

今回、同社がシステム構築を請け 負った百貨店は、東北地方最大の売 り場面積を誇る百貨店である。ちな みに、三越百貨店新宿店、大丸東京 店、松屋銀座本店などが、この百貨 店と同等の売り場面積を有する。

プロジェクトの発端は、都市再開 発計画の一環として新たにビル建設 を予定し、平成11 年11 月に新装オ ープンを目指すところから始まっ た。当時の百貨店の現状はというと、 レジスター機能としてのPOS の利 用までであり、ホスト系は2000 年 問題に対応できない状況であった。 そこで、NTT コムは百貨店の現状 の分析を行い、それに基づき、百貨 店の理想の経営面、システム面でコ ンサルティングを行ったのである。

まず、システムに関しては、現状 ではPOS システムの導入も図られ ていないため、データが整合されて いない。故に、売上や在庫といった データが、経営戦略として活かすこ とができないのである。

また、システム化が百貨店の経営 戦略に密接に結びつくように、百貨 店としての方向性も分析していっ た。地域都市型百貨店の強味は、
・迅速な業務改革が可能
・在庫・販売管理が容易

な点が挙げられる。NTT コムは、こ の強味を再認識する共に、強味をフ ルに活かした容易に誰でも利用しや すいシステムと早期の構築案を練り 上げていく。一方、弱点のほうは、
・仕入れにおける価格交渉力が弱い
・限定された商圏内での競争

と、経営戦略面の支柱となるべき部 分の強化の必要性が見えてくる。

NTT コムはシステム構築に際し、 これらの長短所を徹底的に分析し、 地域都市型百貨店の方向性の定義付 けを行った。
・収益構造の改革
・顧客シェア拡大
・自主製品政策強化
・大手百貨店との連携によるブラン ド誘致
・顧客サービスの徹底

などがそれにあたる。そして、これ らの方向性をシステム構築の底辺に 位置づけ、「地域都市型百貨店のあ るべき姿」として、百貨店に提案し たのである。

システムの概要

まず、システムの導入方針として 掲げられたのは「ゼロベースでのシ ステム導入」である。過去の実績や 習慣にとらわれず、白紙の状態から 期待水準を決定した。また、前述し たように、この情報化技術による経 営効率化に結びつくシステム構築を 目指すものでもある。

システム化にあたり対象とする業 務と戦略は以下の通りである


@顧客管理…顧客カードを導入し、 マーケットシェアの拡大を図る。 ポイント数だけでなく、購買履歴 も管理し、顧客の優良区分により 優良顧客を識別する。
A販売管理 …食品系はPLU (Price Look Up )、ファッション系は Non- PLU を実現する。顧客カー ドの導入や値札のコード体系化を 前提とし、売場のオペレーション に負担をかけないよう必要な機能 をPOS 上に盛り込む。
B営業分析 …各システムで構築する 商品、顧客、売上などの様々なデ ータを収集し、EUC (エンド・ユ ーザ・コンピューティング)によ る柔軟な分析を行う。
C商品管理 …商品コードの体系化を 前提とし、商品の性格(ステープ ル、ファッションなど)により、 在庫管理、販売管理と連携したシ ステム化を行う。
D在庫管理 …ファッション系はダラ ー管理、ステープル系はSKU (Stock Keeping Unit )単位での在 庫管理を実現する。特に棚卸しや 返品作業の効率化を図る。
Eギフト管理 …ギフト顧客のかこい こみのための、顧客管理情報と商 品の販売分析。
F外商管理 …外商と売場との売上ク ロス計上を実現する。特注商品の 取り扱いは案件管理としてシステ ム化する。外商顧客の管理により 顧客シェアの向上を図る。
G財務・会計 …統一伝票の導入を前 提とし、伝票の取込作業を効率化 する。また、各部門毎の収益管理、 及び買掛、売掛管理をシステムに よりサポートする。
H総務・人事 …社員カードの導入に よる勤務管理を行う。また、社員 割引の機能などを盛り込む。

これらの業務のシステム化を実現 したものが、図1 である。

図1 システムの概要

中心にな るのが基幹システムとフロント系の ストアシステムである。また、それ ら管理データの分析作業に使用する データウェアハウスも導入してい る。その他、百貨店経営に必要なシ ステムが付随する。

社内ネットワークの観点からシス テムを示したものは図2 である。

図2 ネットワーク概要

今 回の百貨店は1 店舗経営のため外部 とのネットワークを確立する必要は なく、あくまで社内システムの構築 を行った(1 店舗のみの経営のた め)。POS は120 台、PC は65 台設 置された。POS からの販売管理や 顧客管理データは基幹システムに蓄 積されていく。

顧客の立場に立った パッケージ選定(1 )

今回の百貨店システム構築にあた り、重要なポイントが一点あった。 それは、開発コストを削減するため にERP パッケージで構成された百 貨店システムを導入する点である。 しかし、今回の百貨店の場合、前述 したようにゼロベースからの開発を 行っている。今まで、ERP パッケ ージを導入したことも当然ない。つ まり、パッケージは、特定のベンダ にとらわれず、全ての製品を目利き した上で最適なものを選定する必要 があったのである。

「全ての製品に目利きした〜」と一 言で言ってしまえば、簡単に聞こえ るが、実際にそれを行うことは豊富 な知識と大変な労力がともなってく ることは言うまでもない。世に出て いるパッケージの製品数も膨大であ り、NTT が選定可能な範囲で、製品 の特徴を把握しなければならない。 「選定基準を設けてあらゆる製品 を対象に絞り込みを行いました」
(同社ソリューション事業部第二営 業部課長 熊倉利昌氏)

同社はまず、システムの要件定義 を行った。そして、本システムの要求 条件を加味しながら技術的要素をと りまぜ、現実的な範囲のシステム要 求条件を取りまとめた。つまり、現実 的な範囲を見極めるためには、前述 のように、業界に存在するパッケー ジ商品の商品概要を十分に把握して おく必要があるのだ。ハードウェア に関しても要求条件を加味しながら、 必要と思われるハードウェア機器類 について洗い出した。ソフトウェア、 ハードウェアの要件は図3 のように 取りまとめ、整理を行った。

図3 システム要件定義

業務機能に関しては百貨店側の重 要度(A :必ず実現、B :コスト等 の条件による、C :必要ない)を定 義した。この重要度はパッケージ選 定の大前提になるものである。

次に、上記の要求条件から概要設 計を行ったものに対して、パッケー ジを選定する方法を検討していっ た。パッケージ選定は、まず機能要 件(業務機能記述書)、技術要件 (ハードウェア要件)を元に、それ ぞれ主要選定基準を設定し、各ベン ダから提供されている各パッケージ の一定評価を行い、百貨店総合情報 システムに最適なパッケージの絞り 込みを行った(図4 )。

図4 パッケージ選定方法

選定評価基準項目は、
@機能要件
A技術要件:
パッケージ特性、イン タフェース公開
Bその他の要件: ベンダのサポート 力、導入実績等 について条件を設定した。評価項目 は大項目−中項目−小項目と細分化 し、些細な事項もチェックをつけて いき、それぞれの項目の評価を行っ た(図5 )。

図5 主要選定基準

評価はカスタマイズ性 を比較して行われ、評価単位は3 段 階設けた。
・ほぼノーカスタマイズ=5
・簡易なカスタマイズ=3
・大幅なカスタマイズ=0
として、各項目の数値を累積してい く方法で行った(図6 )。

図6 パッケージ選定評価(カスタマイズ)

今回の百 貨店の場合、システム一斉導入を行 い、決められた期日に新店舗オープ ンを行う。まずは、期日までに全て の導入が完了していなければならな い。そのためには、後々複雑なカス タマイズを要するパッケージは必然 的に敬遠される。

前述のとおり、評価を行うパッケ ージは同社が取り扱う範囲内である が、それだけでもかなりの数のパッ ケージが選定対象に挙げられる。こ れらのパッケージを同社の選定基準 を基に絞り込み作業を行った。

顧客の立場に立った パッケージ選定(2 )

パッケージ機能評価とベンダの会 社概要・規模・事業所などの選定基 準を落としこみ、最終的に「パッケー ジ機能絶対評価」(図7 )として5 ベ ンダのパッケージが候補にあがった。

図7 パッケージ選定プロセス

そして、5 候補を百貨店側に推奨 パッケージとして提案し、同時に評 価資料等も提示する。実際の数値も 確認してもらい選定の裏付けも行っ ている。

しかし、ここまでは同社の机上評 価にとどまる。ここから、百貨店側 と現場レベルでの意見交換を行う。 そこで、5 候補から絞り込む最終的 な選定基準を設けた。
@提供機能として業務ができるだけ 要件に合致し、提供価格が安価で あること
A納期期限内にサービス提供を厳守 できること
B現行システムからの移行、及び教 育サポートが十分にあること
C財務・会計機能等、機能変更が多 発予想されるシステムは保守契約 の中でサポート可能であること
D保守・運用拠点が百貨店近郊にあ り、サポート力が十分であること

以上の5 項目である。しかし、百 貨店側が要求する機能の大半を網羅 していても、コストという現実問題 に直面すると、選定作業も暗礁に乗 り上げてしまう。さらに、ベンダの 技術サポートや支援体制なども吟味 しながら、最終的な決断を進めてい く。機能とコスト、そしてベンダの 支援力、これらの要素がバランス良 く盛り込まれているパッケージを絞 り込むのが同社の腕の見せどころと いえよう。

「機能だけで言えば、理想のパッ ケージは他にもあったんです。しか し、価格などを考慮すると全体のバ ランスで決定していかなければなり ません。顧客の要求にできるだけ応 えられて、安価なものを提供するの が我々の作業といえます」(同 熊 倉利昌氏)

また、これらのパッケージでカバ ーできる機能要件を明確にするため、 図8 のようにシステム構成と照らし 合わせた。この際に、同社は複数パッ ケージの組み合わせ案も提示してい る。これは、百貨店側の業者指定・ 関連系列等の外部要員の圧力や予算 などを十分に考慮したためである。

今回利用したパッケージ選定の評 価項目は、一般的な選定であり、流 用も可能である。しかし、当然、顧 客の条件や要求によって変化するも のであり、同社は選定基準について は柔軟な対応を見せている。

「パッケージ選定の基準は当然顧客 別に変化します。常に、顧客へのヒ アリングを基に条件や基準を作成し ていきます」(同主査 関根幸雄氏)

ハードウェア、 ソフトウェアの導入

システムを導入することになれ ば、当然PC やパッケージソフトウ ェアを各PC にインストールする必 要が生じてくるはずである。さらに、 今回は百貨店という特殊事情が絡ん できており、POS レジも大量に一 斉導入している。これらの端末にそ れらソフトウェアを効率よくインス トールするを模索することになっ た。問題は、
@パッケージソフトウェアの競合: 導入したパッケージソフトウェア は主にOracle DB を利用するソフ トウェアが多い。このためクライ アント側のOracle の設定、Version が異なることが発生し、共存する 設定を考慮
Aパッケージソフトウェア導入管 理: PC によってインストールす るソフトウェアが異なるため、イ ンストールソフトウェア管理が非 常に煩雑 の2 点であった。同社はそれぞれの 問題の解決策として以下の方法を採 った。
@の解決策: ソフトウェア共存設定 などの煩雑設定を一括して全ての PC に行った。PC の設定を完成さ せた後、HDD 環境をCD- R に焼き 付けた(HDD バックアップ作成)。 その後、専用ツールにてCD- R か ら各PC のHDD にコピーし、一般 のリカバリCD と同様の形式で設 定を行った。
Aの解決策: PC の調子がおかしく なった場合は、導入時の環境に戻 すべくインストール時に作成した リカバリCD を利用した。これな らば、ユーザが容易に初期状態に 戻すことが可能であり、管理者の 負担も軽減できる。 情報・通信系企業とは異なり、従 業員がPC 自体の扱いに慣れていな いことも想定し、あらかじめこのよ うな対策を講じたのである。

また、今回はこれら機器類の搬入 作業について苦慮するところが多か った。大型店のため、POS レジ120 台、PC 65 台を一括搬入したのであ る。ビル管理、工事JV 、ビルオーナ ー、運送会社との調整も行った。

顧客ニーズに適した システム作りを目指す

今回の百貨店は、昨今では珍しい 全業務一括構築であった。これは、 平成11 年11 月の新オープンと同時 に業務全体を一斉稼働させなければ ならないためであった。また、配線 関連の工事も支店(現NTT 東日本) が請負ったため、インフラからシス テムまで、NTT 系列で一括受注し ている点も大きな特徴のひとつであ ろう。「インフラとシステムの一括 提供は、今までにないサービスの形」 (同 熊倉利昌氏)と言うように、 同社だからこそ提供できるサービス であることは間違いない。

そして、今回の構築例で同社らし さが最も現れたのが、「顧客ニーズ にマッチしたパッケージ、物品選定」 であろう。マルチベンダである強味 を最大限に発揮し、余すところなく 顧客にサービスを提供できた点であ る。当たり前と言えばそれまでだが、 顧客から見れば、これが最も重要な ポイントといえる。しかし、メーカ 系の業者では、ここまで広く製品の 選択肢を用意することは不可能であ り、パッケージ選定をこれほど入念 に行うことはない。顧客の理想に限 りなく近いシステムを実現するため の、高いスキルのひとつが今回のパ ッケージの選定である。

メジャーで高価なものだけをおき まり通り提供するだけがシステム構 築ではない。、各顧客のニーズを吟 味し、必要最低限のシステムを構築 させることも、システムインテグレ ーターとしての技量が問われるとこ ろであろう。

「百貨店の、特に情報化が進んで ない大型店舗にこの構築ノウハウを 提供していきたい」と語るように同 社は顧客と二人三脚で作り上げるシ ステム構築を今後も目指していくと いう。最先端の技術を追いかける風 潮が強まる中、徹底的に顧客ニーズ を分析する同社の姿に真のIT サー ビスを見た思いである。

<お問い合わせ先>
NTT コミュニケーションズ
ソリューション事業部
第二営業部
システムインテグレーションチーム
TEL :03- 3539- 5710
熊倉利昌
toshimasa.kumakura@ntt.com
関根幸雄
yukio.sekine@ntt.com