ネットワーク放送システム
「VQVision 」



TwinVQ を利用した 発信・配信システム
マルチメディアの発達により、一 方的に映像や音声として情報を配布 する従来の放送から、ユーザ側が意 思を伝えたり、必要な番組や商品に 関する映像を自由に選ぶことができ るビデオ・オン・デマンド(VOD ) など、双方向な放送へのニーズが高 まっている。

それを低コストで可能にするの が、NTT サイバースペース研究所 で開発した、ネットワーク放送シス テム「VQVision 」だ。

これは、N T T が開発した TwinVQ (Transform domain Wei-ghted Interleav Vector Quan-tization :変換領域重み付けインタ リーブベクトル量子化)という音楽 圧縮技術を放送に応用した、音楽や 映像をリアルタイムに発信・配信で きるサービスシステム。

このシステムの特長を同所メディ ア処理プロジェクト音声符号化グル ープグループリーダの金子孝夫主幹 研究員は次のように語っている。

「圧縮・発信・配信といったすべ てのリアルタイム処理を、ソフトウ ェアだけで実現できるのが、最大の 特長です。そのため、映像圧縮用な どの専用ハードウェアは必要なく、 低コストで導入できるメリットがあ ります」

ソフトウェアのみの導入で、 社内放送システムを実現
「VQVision 」のシステムは、図1 の通り、スタジオや現場で収録した 映像・音声を圧縮ソフト「プロデュ ーサ」で圧縮し、放送局(センター) に設置した「ストリーミングサーバ」 にリアルタイムで発信される。

放送局では、「ストリーミングサ ーバ」で受信したライブ中継と 「AV エンコーダ」で作成したスケジ ュール番組から、「プログラムコン ポーサ」を使って番組と番組表を作 成。これをリアルタイム、マルチキ ャスト配信で放送を行うことにな る。ユーザは、インターネットや OCN (Open Computer Network : NTT が提供するデータ通信用回線 サービス)経由で、パソコン端末に 搭載された「プレーヤ」により、番 組表に基づいた番組の受信や再生を オンデマンドで楽しむことができる (図2 )。

たとえば、このシステムを企業の 社内放送に導入する場合の導入コス トであるが、録画のためのビデオな ど機材が必要となるが、社内LAN が構築してあれば、ソフトウェアの みの導入で済む。「まだ、商用化の 段階ではありませんから価格は未定 ですが、恐らく数万から数十万円程 度になると思います」(金子氏)

国際的に高い評価の 音声圧縮技術
「VQVision 」の主な特長をあげる と、次のようになる。まず第1 点は、 音楽専用のTwinVQ ソフトを使っ ていることより、音楽・音声はCD 帯域までの最高の品質であること だ。前述のように、TwinVQ は NTT が開発した音楽圧縮技術。固 定長フレーム/ベクトル量子化方式 を採用し、伝送時にエラーが生じ、 データの再送が間に合わない場合で も、音質に与える影響が極めて少な いという特性を持つ。そのため、イ ンターネットやOCN といった帯域 を保証しないベストエフォート型ネ ットワーク向きと言える。

また、圧縮率も18 分の1 以上と 高い圧縮率を実現している。普通、 圧縮率が高いと音質は劣化する。し かし、現在の音声圧縮技術に求めら れるのは、高い圧縮率と品質だ。こ の相反する2 つを満足させるのは非 常に困難なことだ。それが、 TwinVQ 技術を応用することで、 CD 帯域の音質の良さと高い圧縮率 を実現させることに成功している。 しかも、圧縮率が高いことは、それ だけ、短時間で送信することができ ることになる。また、64 kbps 以下 という低ビットレートでも高音質を 保ちながら送信できるというメリッ トもある。

このTwinVQ 技術は、1998 年に 国際標準MPEG-4 /Audio のコミ ッティ・ドラフト(標準化勧告の原 案)に採用され、今年中には正式に 国際規格として勧告される予定だ。 つまり、国際的にもその性能の良さ が高く評価されているというわけ だ。第2 点は、業界標準の最新ストリ ーミング通信プロトコルを採用する ことで、安定したリアルタイム配信、 あるいはインターネット経由で再生 ソフトをダウンロードしてから、こ れを起動して再生するマルチキャス ト配信を実現していることだ。もち ろん、「プロデューサ」「ストリーミ ングサーバ」「プレーヤ」などはす べてパソコンによるソフトウェア処 理で実現。そのため、映像圧縮用な どの専用ハードは一切不要な点も特 長のひとつだ。

また、伝送エラーがあってもモザ イク状の画像エラーを生じない映像 圧縮技術を搭載しているため、動き の激しい画面でも、クリアな表示す ることが可能となっている。

遠隔医療システムなど、 利用分野は広い
最後にこの「VQVision 」の利用分 野であるが、「一般ユーザ向けのサ ービスというより、業務用に考えて います」(金子主幹研究員)。主な利 用分野としては、イントラネット/ OCN を利用した音楽・映像放送、店 舗・オフィスの音楽・映像配信、コ ンサート・スポーツのライブ中継、 オンライン通信教育、遠隔医療や監 視システムなどを想定している。

「年内には実験的なサービスを開 始する予定です。それで、ユーザの 評判をヒアリングして、このシステ ムを提供していきたいと考えていま す」(金子主幹研究員)。