NTTアドバンステクノロジ株式会社

スマート防災・まちづくり、@InfoCanal

脱炭素に向けた新たなエネルギーの利用促進と 地域レジリエンス強化に向けた スマート防災・まちづくり

(2022年10月号掲載)

日本では、政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、官民一体になった脱炭素が加速しています。NTTグループも「NTT Green Innovation toward 2040」として脱炭素のロードマップを発表。環境負荷ゼロと経済成長の同時実現という高い目標を掲げました。
NTTアドバンステクノロジ(以下、NTT-AT)は、NTTグループの目標達成に寄与する形で、今までの技術やノウハウを活用し、脱炭素に向けたエネルギーの利用促進や地域のレジリエンス強化に対する貢献を目指しています。今回は、この概要と注目すべき活動を紹介します。

エネルギーやスマート防災など
NTT-ATの新たな4つのビジネス分野

NTT-ATは、脱炭素を踏まえたNTTグループの新たなエネルギービジネスの創出や、地域のレジリエンス力を高めるスマート防災の構築に向けて「スマートコミュニティ事業本部」を新設しました。これまでNTT-ATがエネルギーや原子力防災で培った技術やノウハウ、既存のサービス基盤を高度に活用することで、新たな活躍を目指します。現在、具体的なビジネス展開は、以下の4つを推進しています(図1)。

図1 スマートコミュニティ事業本部が推進する4つのビジネス分野

 

1 エネルギーマネジメント:PP(Virtual Power Plant:再生エネルギーを柔軟に活用できる仮想発電所)やEMS(Energy Management System:エネルギー需給等を制御するシステム)、エネルギー関連のO&M(Operation and Maintenance:再生エネルギーの効率的な運用と保守)といった領域に取り組みます。VPPでは蓄電池を活用したバッテリシステム、電力の見える化や発電需要予測の実績から得たノウハウを活かした脱炭素の案件などを考えています。運用と保守では、24時間保守サービスや太陽光パネルの僅かな発電量の低下を見極める故障検知技術などの活用を検討しています。
また、今後の期待が高い水素エネルギーについても、その輸送を支えるパイプラインの信頼性確保などにおいて、これまで培った監視技術や運用ノウハウを活かした新たな貢献ができるものと考えています。

2 スマート防災・まちづくり:@InfoCanal(アットインフォカナル:NTT-AT提供による社会生活情報を高速にマルチデバイスに伝達するサービスシステム)と都市OSとアセットを組み合わせたスマートシティへの提案や、気象情報データを活用したハザードマップ生成などを予定しています。昨今課題のゲリラ豪雨による水害対策に関して、その雨量や発生位置といった気象情報をモニタリングして、地域住民に豪雨予測情報として提供する実証実験も行っています。

3 CO2排出量の可視化:LCA(Life Cycle Assessment:製品・サービスのライフサイクル全体またはその特定段階の環境負荷を定量的に評価する手法)を用いたGHG可視化のコンサルティングの実績とICTの活用によって近年関心の高いScope3(企業の直接排出以外のサプライチェーンにおけるCO2排出量)算定の効率化を実現し、お客様の低炭素化の取り組みに貢献していきます。

4 エネルギーデバイス:SQPV(透明型光発電素子)ガラス(Solar Quartz Photovoltaic:可視光を透過させつつ発電する素子、従来のPVでは設置できなかった場所での発電や遮熱効果で省エネ・脱炭素に貢献)や、高効率パワーデバイス用GaN(窒化ガリウムを使った半導体。シリコンより電力損失が少なく、低炭素社会を支えるグリーンデバイスとして期待)エピ基板の開発・導入への取り組みを鋭意進めています。

スマートコミュニティ事業本部は設立後、1年が経ちましたが、いくつかビジネスとしての検討が始まっており、実証実験に移行した案件もあります。NTTグループが所有する、アセット・技術・ノウハウの強みを最大限に活かして、パートナー企業の方々と一緒に積極的に取り組み、ビジネスの成功を目指します。

 

蓄電池を活用した電源システム

脱炭素化の社会的な要請の高まりとともに、今後さらに太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及が進むと考えられます。これと並行して、再生可能エネルギーの短期的・長期的な出力変動を吸収し、安定的な電源として使用するために、特にEV充電等のモビリティ市場や、低圧のオンサイトPPA等での蓄電池利用の拡大が想定されます。
NTT-ATでは、NTTグループ企業がお客様に提供しているエネルギー関連サービス(電力の見える化やCEMSなど)の開発や運用・保守を通じて培ったノウハウを活かし、蓄電池にエネルギーマネジメントシステム(EMS)などを組み合わせた電源システムを提供していきたいと考えています。
この電源システムにはNTT-ATが設計・構築・保守・運用している放射線モニタリングポストで使用しているバックアップ電源構築のノウハウも強みの一つとして活かしたいと考えています。放射線モニタリングポストは原発設備の周囲数十kmの範囲で、24時間365日、環境放射線のモニタリングを行うもので、停電時等のバックアップ用に信頼性の高い電源を構築してきています。

図2 蓄電池を活用した電源システムのイメージ

 

親子型ポータブルバッテリ

2つ目は、親子型ポータブルバッテリです。親機に内蔵する容量の大きな蓄電池に対し商用電源またはソーラーパネルからの電力を一旦充電し、親機から子機に充電を行います。子機(小型のポータブルバッテリ)を持ち運んで利用することで、電源の確保が難しい場所や停電時でも電力を確保でき、電子機器利用などによる利便性の向上が図れます。また、親機が十分に充電されている、またはソーラーパネルにより親機を充電し、蓄電容量を確保して子機に分配することで、子機を繰り返し充電しながら継続的に利用することができます。このように親子型ポータブルバッテリは商用電源の有無や設置場所に依存しない電力確保を可能にしています。
子機の出力インタフェースはUSBですので、スマートフォンやタブレット端末の充電や、USB電源で動作する冷風機やヒーターなどを使用することができます。また、子機にはLEDランプが内蔵されており、ランタンとしても利用できます。子機のバッテリ容量は112 Whであり、子機1台でUSB家電および内蔵LEDの点灯を12時間利用し、かつ残りの電力でスマートフォン3台程度をフル充電することができます。
親機1台につき子機を最大30台収納できます。親機から子機への充電はワイヤレス方式であり、充電端子がないため誤って端子部分に触れることのない安全設計です。さらに、子機を親機にセットするだけで自動的に充電が開始され、子機が満充電になれば自動で充電が停止します。このように使い勝手が良い設計となっています。
2022年5月から、長野県小布施町にて親子型ポータブルバッテリの平時利用に関する実証実験を行いました。庁舎の食堂や図書館といった、人がたくさん集まる場所であり、個人が商用電源のコンセントを利用できない環境で、子機利用の有効性を確認しました。NTT-ATではこの実証結果から、自治体における親子型ポータブルバッテリ利用の訴求点を明確にしつつ、他自治体への横展開を検討しており、実証のご要望があれば対応していきたいと考えています。

 

図3 親子型ポータブルバッテリ

 

水素パイプライン等の信頼性確保に向けた取り組み

新エネルギーとして期待の高い水素について、今後の普及促進に向けては、その輸送を支える水素パイプライン等の経済性とともに高い安全性が必須条件となります。NTT-ATでは、これまで培った光ファイバケーブル網並びに水道等の社会インフラの監視技術や検知デバイス技術、さらにそれらの高度運用ノウハウを活用することにより、新たな分野における課題解決に貢献できると考え、水素パイプライン等の信頼性確保に向けた技術検討に取り組んでいきたいと思います。

 

@InfoCanalの応用開発による
浸水シミュレーション

次は@InfoCanalの新機能開発と、それに伴う実証実験を紹介します。@InfoCanalは、2017年NTT-ATが提供を開始した、双方向・マルチデバイス対応の各種情報を配信するクラウドサービスです。情報を受信するマルチデバイスとしては、専用の戸別受信機や屋外拡声器に加え、汎用機器であるスマートフォンやタブレットにも対応しています。また、他社の情報配信サービスにも連携でき、登録メールサービス・LINE・Twitter・緊急速報メール等にも自動で情報配信することが可能です。自治体が災害情報を送信する用途で利用する場合、これらのデバイスや配信メディアに一斉に送信できるので、効率よく住民に情報を伝達できます。デバイスによっては、情報をもらった人は確認の返信ができるので、自治体の災害対策本部は防災情報を住民が確認してくれたのか、また、職員の安否確認や避難所への誘導・指示の確認等に活用できるため、防災活動が問題なく行われているかを判断できます。2022年7月時点で、32団体、約20万人のユーザーにご利用いただいており、災害情報を含めた行政情報配信インフラとして貢献しています。
近年、局地的大雨(いわゆるゲリラ豪雨)による甚大な被害が社会問題となっています。現在開発中の新機能は、この@InfoCanalにデータシェアリング機構という、様々なオープンデータや気象データを蓄積しそれを利活用できる機能を追加することで、防災情報サービスの価値をより向上させるものです。当該機能の特長は、①ゲリラ豪雨発生情報の取得、②それを基にした浸水ハザードマップの生成、③浸水ハザードマップを利用した推奨避難ルートの表示です。

図4 @InfoCanalサービス概要

 

①ゲリラ豪雨発生情報については、東芝社の最新マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダの30秒から1分で雨雲の高速三次元観測が可能な機能と雨量を高精度で計測できる機能を利用することによって、局所的で突発的な大気現象の前兆を直接観測し、30分先までの降雨量の予測や、どのエリアに豪雨が発生するのかを予測できます。

②この豪雨予測を日本工営社のリアルタイム浸水シミュレーションシステムと連動すると、ゲリラ豪雨によって、どの地域、どの場所で浸水被害、道路冠水等が起こるかをハザードマップ的に地図上に表示させることができます。このシミュレーションデータは、現在から15時間先までの豪雨等による浸水予測を表示することが可能で、時間によって動的に変化する浸水ハザードマップを生成することができます。これは主に防災担当職員向けのサービスとして地域住民への注意喚起や避難指示等の判断支援に活用することが可能です。

③この浸水ハザードマップデータや1時間先までの雨雲レーダ情報を地域住民にも、自治体からの防災情報に加え表示させることで、早めの避難などの防災行動をとることができるような判断材料として活用いただくことが可能です。また、@InfoCanalの利用ユーザーには、今の場所から冠水道路などを避けて、避難所に安全に移動できる推奨ルートも表示可能です。

現在の新機能の開発状況ですが、東芝社、日本工営社、NTT東日本埼玉西支店と共同で、埼玉県ふじみ野市様に実証フィールドとしてご協力いただき、「ゲリラ豪雨発生時の高精度かつリアルタイムな降雨・浸水予測による水害対策の有効性に関する実証実験」を2022年8月19日から開始しています。
近年、線状降水帯やゲリラ豪雨による洪水や浸水被害が全国各地で多発し、ハザードマップの想定を超えるケースもあるなど被害が激甚化しています。特にゲリラ豪雨は突発的に発生するため正確な予測が難しく、河川や内水の氾濫、道路の冠水、建物への浸水など、想定される水害への対応準備にあたる自治体職員にとっては、極めて短時間のうちに被害を想定し、対策の判断や関係者への指示、住民の避難行動を促す情報伝達を行わなければならず、大きな負担となっています。
このような水害時における課題を解決するため、ゲリラ豪雨の早期予測と浸水シミュレーション、さらに動的ハザードマップの提供・配信で構成される一体型サービスを提供します。これを全国に先駆けてふじみ野市様で一定期間運用していただき、精度の高い予測情報に基づく的確・迅速な災害対応の判断と実行、および被害の軽減の観点で、システムの有効性を検証します。
今回の実証実験により得られた成果を基に、全国の水害対策における「防災のDX」に資するサービスとして来年度から提供できるよう検討を進めます。

図5 降雨情報予測やハザードマップ生成の@InfoCanalアプリ

 

見えてきたビジネスの種を、検証で終わらせず
確実に実らせたい!

NTT-ATはこのような取り組みを、NTTグループの2040年カーボンニュートラルの意向に寄与する形で進めていきます。すでに、これまで取り組みを行う中で、環境に配慮したエネルギービジネスの種がいくつか見えてきました。
引き続き、お客様とともにこれら取り組みを具現化することで、スマートコミュニティ事業の一助となる新たなサービスを提供していきたいと考えています。ぜひご期待ください。

 

 

NTTアドバンステクノロジス  スマートコミュニティ事業本部

(左から)企画総務部門     部門長  橋戸 忠久氏
                副本部長 古賀 隆之氏
     ビジネス戦略部門   部門長  中満 洋一氏
                本部長  西谷 紀彦氏
     スマートエネルギーBU BU長  秋山 佳春氏
     スマート防災BU    BU長  中道 真介氏

(左から)スマートエネルギーBU
       担当部長   小池 成人氏
       主任技師   平林 勉氏
       副主任技師  白岩 秀基氏
       主任技師   井坂 文哉氏

(左から)スマート防災BU
       主任技師   落合 昇氏
       担当部長   野田 和正氏
       主任技師   石井 清貴氏

お問合せ先

NTTアドバンステクノロジ株式会社 スマートコミュニティ事業本部
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