牛の起立困難をAIが予防　　～24時間サポートで農家を支援～

(2024年9月号掲載)

黒毛和種肥育牛は横臥状態が長く続くと胃にガスが溜まり、臓器が圧迫され呼吸困難となり、やがて起立困難となります。そして最悪の場合死に至ります。肥育農家にとって大切に飼育してきた牛を出荷前に死亡させることは、精神的・金銭的負担に繋がります。多くの農家は、昼夜問わず見回りを行い、横臥している牛には声をかけて起こしたり、起立困難になった牛はロープを使って起こしたり、といった対策を講じていますが、人手不足や高齢化が進む中、抜本的打開策が求められています。
こうした背景の下、NTTテクノクロス株式会社（以下、NTTテクノクロス）と株式会社ベルシステム24（以下、ベルシステム24）は、農家が無事に牛を送り出すことができるよう牛の起立困難発生予防サービス「BUJIDAS（ブジ、ダス：以下、本サービス）」を提供しています。

“牛の管理には人の目と声が関与している。”
実態を把握し、解決策を発想

牛の行動モニタリングシステムの提供に取り組む中、何度も農家に足を運び続けていたある晩、赤野間氏が牛舎内を歩いていた時のこと。農場主が横臥している牛に「おーい」と声をかける様子を見て、「何をしているのですか」と質問すると「起立困難になりそうな牛を見つけたら、声をかけて起こすんだよ」との答えが返ってきました。赤野間氏は、農家の課題となっている起立困難の防止には、人の目と声が関与していることを目の当たりにし、本サービスの着想を得ました。
本サービスは、牛舎に設置したネットワークカメラ※1が人の目の代わりとなり、カメラから流れる発報が人の声の代わりとなることで、起立困難の発生を予防する日本初のサービスです（図１）。

NTTテクノクロスとベルシステム24が協業。
両社の強みを活かし、農家の負担を軽減

本サービスは、NTTテクノクロスが開発した牛の起立困難予防声かけAIと、ベルシステム24が提供するアノテーション※2及びサポート体制で構成されます。
サービス導入時に予め起立困難の可能性がある牛の姿勢の映像をアノテーション／チューニングしておくことにより、AIが高い確率で“危険な横臥状態”を判断します。すると、スピーカー内臓カメラから自動的に「おーい」等の声が発報されます。草食動物である牛は元来聴力が優れ、音に反応して体を起こす習性があるため、多くの場合、発報を聞くと自ら起立します。万が一、発報に反応せず20分間起立しない牛がいた場合には以後2分おきに発報を継続し、40分経過した場合にはAIが緊急時として判断し、自動で農家（以下、利用者）にメール送信され、注意を促します（図２）。利用者は、受信した画像の状況から、次に取るべき行動を判断することができます。（発報・通知のタイミングや、「おーい」という音声も変更可能）なお、牛舎内の映像は、緊急時だけでなく常時スマートフォンのアプリ（無料）から確認することもできます。また、問い合わせについては監視センターが24時間365日いつでも対応します。
利用者からは「夜中の見回りがなくなったため負担が軽減され、睡眠の質も向上した」「農場から離れた場所にいても遠隔から現場を確認できるので安心」といった好評の声が寄せられています。

快適性と生産性を確保

大家氏は本サービス開発当初から「起立困難そのものを防ぎたい」との想いを抱いていました。牛の行動モニタリングシステムの提供から幾度となくヒアリングを重ね、その想いに対し7年もの歳月をかけて真摯に向き合った結果、牛が起き上がれず苦しむ以前に危険を回避できる本サービスが実現しました。
澤頭氏は次のように語ります。「装置非接触型のため牛にストレスがかかることのない本サービスは、家畜の快適性を確保することで、生産性を向上させ、さらに安全で人類の健康に寄与する高付加価値の畜産物を生み出すものと捉えるアニマルウェルフェア（家畜福祉）の観点から注目を集め、専門家からも評価されています。」

サービスの社会実装拡張を目指して

福永氏は「“本サービス工程の前後をも含めてどのように社会実装するべきなのか”に留意した」とこれまでをふり返ります。NTTテクノクロスとベルシステム24は、技術やノウハウの提供をはじめ、カメラの設置、メンテナンス、決済方法※3等一つひとつに最適解を見出してきました。
今後も両社は本サービスの利便性の向上と拡販による社会実装拡張を目指し、取り組みを推進していきます。

こちらから「BUJIDAS」の動画をご覧になれます