●今私が気になる技術と人材
 株式会社エヌ・ティ・ティエムイー
 取締役 VoIP&ソリューションビジネス
 本部長

 矢野 厚氏


VoIPは“空気”のような存在である
電話サービスを違和感なくIP上で
伝えていく総合技術

豊富な実績と高信頼性に基づいた
NTT-MEのVoIP事業を推進

―はじめに、現在のお仕事についてお話していただけますか。

矢野 本格的なブロードバンド・ネットワーク時代を迎えて、多くの企業では、情報システム化とブロードバンド・ネットワークの活用が重要な課題となっています。このようなIT経営時代に向けて、NTT-MEは、今年の4月からNTTグループのブロードバンドIT戦略会社として新たな体制でスタートしました。具体的には、よりIP・ブロードバンド市場に注力していく観点から、WAN (XePhion〈ゼフィオン〉を核としたネットワークソリューション)、VoIP(Voice over IP network)、データセンターをコアに、グローバルな視点から、サービス・商材・商品のシナジーを創出し、市場動向、お客様ニーズに対して迅速かつ柔軟な対応を実施しています。そのコア事業の一つであるVoIPを担当しているのが、VoIP&ソリューションビジネス本部です。

 VoIP&ソリューションビジネス本部では、お客様の販売力強化や競争力強化のツールとして、IP電話を利用したサービスとERPやCRM等を組み合わせたソリューションビジネスを展開し、またコスト削減に直結する企業向けのIP電話サービス「Xephionコール」、「XePhioneコールPro」、「XePhioneコールダイレクト」、「XePhionコールIPセントレックス」を提供しています。これらは、高品質かつ豊富な実績、そしてNTTグループが提供する信頼感により、高い評価をいただいています。

―NTT-ME がVoIPの取組みを開始されたのはいつ頃からでしょうか。

矢野 NTT-MEが誕生する前に遡ります。私自身は20 数年前からX.25パケットサービスなど、現在のVoIP的な取組みにつながる仕事に参画してきましたが、本格的に開始したのは、NTT-ME社内のネットワークをVoIP化して評価を行った1998年8月からです。ここでの取組みをベースにして、2000年から本格的なVoIPサービスを提供してきました。そして2002年11月に、IP電話用の番号体系「050」の受理にともない、現在の「XePhionコールPro」シリーズへと名称を変更し、企業ユーザーに向けたサービス提供に重点を置いた事業展開をしています。さらに、2003年3月には、NTT東西の地域IP網(フレッツ)と、NTT-ME のVoIPバックボーンを利用したISP様向けの卸売り型OEMサービスの提供も開始しました。

従来の電話サービスから最新のIPネットワークまで、総合的な知識、経験が必要

―“VoIP元年”といわれるほど注目されているVoIP事業の中で、どのような技術、知識が必要になるのでしょうか。

矢野 VoIPとは、とくに企業においては、「Voice(ボイス)のアプリケーション」と言い換えることができます。VoIPは、企業の情報ネットワークとして構築されているIP-VPNやインターネットVPN等のVPNネットワーク上の音声アプリケーションとしての側面がありますので、IPネットワークに対する十分な知識と経験が必要です。またユーザー環境に入ると、IPベースのLAN上で展開されますので、広域ネットワークの知識や経験とともに、LANに関連した技術の知識も必要です。そのベースとなるのは、ルータやスイッチ等の知識や経験です。

 また、IP電話サービスとして使用される場合は、利用されるお客様や接続される機器に対しての知識、いわゆる電話サービスに対しての十分な理解が必要です。この知識や経験をもっていないと、お客様に違和感のないサービスを提供できないことになります。つまり、レガシーな電話システムや電話サービスを理解していないと、お客様が現在利用されている形態や必要としている背景を十分に理解することができません。最新の知識とともに、これまでの経験が必要になってくることが、VoIPおよびIP電話の難しいところです。

―電話の利用形態は国によっても異なりますが…。

矢野 電話サービスは、およそ100年の期間を経て成長し、現在では人々にとって“空気”のような存在になっているサービスですが、その利用形態は国によって異なります。たとえば、米国のセールスマンにとっては、ダイレクト・ダイヤル・インでのやり取りがビジネスの成功の鍵を握っています。一方日本では、代表ダイヤルの設定が企業の信頼を左右する場合がありますし、お客様からの電話応対や内線電話の転送・保留のやり取りが日常動作になっています。このようにVoIPをはじめとしたアプリケーションには、利用される国の社会や文化、経済活動の仕組みに根ざした機能が必要なのです。

―この他に必要な知識、技術はありますか。

矢野 サーバに対しての知識、技術があげられます。昨今、VoIPの領域で注目されているのが、サーバ上のソフトスイッチの利用による、コストダウンです。リアルタイムサーバが自由に活用できるようになり、これまでの専用交換システムから汎用サーバ上のソフトスイッチによる処理へと移行しています。ここで必要となるのが、サーバに対しての知識と経験です。

 現在、さまざまなブロードバンドのテクノロジーが発展し、ようやく音声というリアルタイムアプリケーションをIPとITで実現できるようになりました。中でもVoIPの領域では、多彩なアクセスメニューのもと、さまざまな技術が使用されています。それを一人の技術者がすべて理解し、実行することは不可能なことですので、専門の技術者で構成されたグループとして、総合的に取り組んでいくことが大切だと思います。

コミュニケーション力が重要

―NTT-MEでは、技術者の育成に向けて、どのような取組みを行っていますか。

矢野 NTT-MEでは、音声系の社内資格制度「VSCP」を設けて、ルータをはじめ、H.323やSIP等のプロトコルに対しての知識の習得に取り組んでいます。

―VoIPの事業を進めていく上で、最も難しいことは何でしょうか。

矢野 それは、お客様とのコミュニケーションです。今やお客様にとって、ビジネス手段としての電話とは、“つながって当たり前”の存在です。しかしIPは、レガシーな電話サービスの対極として誕生したもので、音声等のリアルタムな通信に適さない要素を含んでいます。このギャップを埋めるのがVoIPともいえます。そのため、お客様の利用形態を十分に理解した上でサービスを提供していくコンサルティング力、コミュニケーション力が求められてくるのです。

―本日はありがとうございました。

(聞き手:本誌副編集長 菊地勝由)

 

 


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