株式会社NTT データ 　事業戦略部長 　岩�ｱ隆氏

事業の選択と集中を推進し柔軟に対応していく

―はじめに、現在のお仕事についてお話していただけますか。

岩�ｱ　NTTデータは、2002年4月に大きな組織整理を行い、従来のマーケット別で縦割りの組織体系を、「ビジネスユニット」というフラットな事業単位を中心とした組織体制に移行しました。これはNTTグループとしても初の試みです。今回の体制移行の背景には、自分たちの得意技、得意なソリューションを明確にして、その得意技を事業単位にすることで、より自立的、自発的に事業を推進していこうという狙いがあります。業種や業界を横断して新しいサービスを提案したり、我々がもっている得意技を複数組み合わせて新たなビジネスを提案したりしていくことを命題にしています。私が所属している事業戦略部では、弊社が取り組んでいく事業の「選択と集中」を推進しています。また、新たな事業を興していくこともミッションです。そして、現在70あまりあるビジネスユニットの得意技同士をいかに連携させていくか、その全社的な視点からのサポート業務も視野に入れています。

―現在、市場の状況は、どのような傾向にありますか？

岩�ｱ　私どもが関連するマーケットとしては、公共や金融や法人などがありますが、公共分野はe-Japan（電子政府・電子自治体）の関連もあり、政府予算枠の中でのIT投資に占める割合は横ばいか微増ぐらいでしょう。金融業界系はご存じのように厳しい状況にあります。法人系も現在デフレ傾向にある中で、まだ厳しい状況が続いているという認識です。お客様の業種によってIT投資の差はありますが、弊社では、お客様自身の事業を成長させていくには、ITの活用が極めて重要であるという視点から提案を行っています。

ユビキタス情報社会の実現に向けた事業に注目

―現在注目している技術についてお話していただけますか。

岩�ｱ　ユビキタス情報社会の実現に向けて、産業界全体でいろいろな取組みが活発化しているという点に注目しています。ユビキタスから生まれてくる新たな価値を、５つの視点から分析してみました。１点目は、従来のモノを所有するというスタイルから、モノを利用するという方向にパラダイムシフトしていくという点です。具体的には、音楽用CDの店頭販売がいずれはネットワークを介した音楽配信販売になっていくだろうということ。２点目は、従来コンピュータやPC主体で構築されていたITが、ユビキタス情報社会化の流れを受けて、情報家電やネット家電などのNon-PC機器が続々とネットワークに接続されてくるという点です。３点目はトラッキング、つまり、モノの追跡管理ができるという点です。トレーサビリティの確保や食物の安全を確保するためには、ユビキタスは不可欠です。４点目はセンシング。たとえばネットワークを活用して、対象となるモノの先端にさまざまなセンサーを設置することで、廃棄物の管理状況や託児所に預けた子どもの状況などを遠隔地から調べることができます。そして５点目は、時間・空間の制約からの解放、つまり、時空の短縮です。たとえば、病院に出向かなくても自宅からネットワークを介して医療サービスを受けられるという遠隔医療も可能になります。

―トラッキングについては、どのような活用分野があるのでしょうか。

岩�ｱ　トラッキングについては、「無線ICタグ」の活用に非常に関心があります。「無線ICタグ」とは、IC チップにIDを記録し、電波で読み出しを行う小さなタグのことで、「RFIDタグ」とも呼ばれますが、今後、さまざまなビジネスや日常生活で使われることが想定されます。現在「無線ICタグ」の利用は、CDなどの盗難防止タグや空港等のチケットなど、まだまだ限定されていますが、今後はもっと幅広く活用されていくと考えられます。特にSCMの分野で「無線ICタグ」が運用されていくことを期待しています。具体的には、アパレル、家電、食料品などの商品にICチップを組込み、製造から販売、消費者に渡ってからの廃棄、リサイクルまでの商品のライフサイクルを通した物流管理、商品管理等の効率化に役立つのではないかと考えています。

自らサービスやシステムを企画構築できる人材が必要

―次に人材についてお話していただけますか。

岩�ｱ　NTTデータは、「Insight for the New Paradigm−未来の仕組みをITでつくる−」というキャッチフレーズを掲げ、社員一人ひとりが洞察力と先見性をもち、お客様と一緒になって新たな価値やマーケット、サービスを考え、提案していくことをめざしています。そこで求められてくる人材像を想定すると、まず営業では、コンピュータの基礎知識やお客様や業界の業務知識といった基礎知識をベースとして、お客様の懐の中にまで入り込んでいくような、強固な「リレーション構築力」が求められてくると思います。つまり、システムインテグレーションの上で、お客様に仕掛けていくような人材ですね。ただ単にお客様が困っているからソリューションにして提供するのではなく、お客様と一緒になって、一つのビジネスやサービスをプロデュースしていくところまで取り組んでいってほしいと思っています。

―研究・開発についてはどのようにお考えですか。

岩�ｱ　研究・開発では、システム構築のためのスキルや、お客様の業務知識に加えて、今後はプロジェクトマネジメントのスキルが重要になっていくと思います。ですから、ベテラン・若手を問わず、早い時期からビジネススキルや業務スキルをしっかり身に付けていると同時に、プロジェクトマネジメントのノウハウを併行して若いうちから身に付けていく必要があると思います。両方の人材に共通していることは、従来はお客様の要望を聞きながら問題点を解決するようなソリューションを構築、提供していくという、いわば受け身的なビジネスのスタイルが中心でしたが、今後は、これに加えて我々自身がリスクを背負い、サービスやシステムを企画構築していくというビジネススタイルが、非常に大切なものになっていくということです。そのためには、社員一人ひとりのクリエイティヴィティ、いわゆる創造力が非常に大きなウェイトを占めていくと考えられます。

―本日はありがとうございました。

（聞き手:本誌副編集長 菊地勝由）