特別企画
●NTT東日本


 最近、企業の危機管理のあり方が、社会問題化している。重要な社会インフラの一つを担う通信事業者にとっては、日頃から故障が発生しないよう設備の維持に努めることが必要であり、さらに一旦、故障・災害等が発生した時には、故障時の迅速・適切な対応、災害発生時の通信手段の確保が重要な社会的責務となっている。特に、IP・BB系サービスが急速に普及拡大するなど通信の利用環境が大きく変革してきた今、従来とは異なる新たな取組みが求められている。NTT東日本では、本年1月〜6月の半年間、「お客様第一主義」をコンセプトに、サービスフロントからサービスオペレーション、オンサイトまで、NTT東日本グループ一体となったサービス品質向上運動を展開。引き続き7月からはPart IIとして、さらなる運動の徹底、危機管理の充実、設備の点検管理の充実に向けた取組みを行っている。本稿では、高信頼サービスの実現に向けたNTT東日本の取組みを紹介する。

「お客様第一主義によるサービス品質向上運動」取組みの経緯

 NTT東日本では、お客様からのより一層の信頼が得られるように、本年1月から「お客様第一主義」の基本理念に基づき、お客様に直接応対するサービスフロントからサービスの提供状況を監視・制御するサービスオペレーション、現地保守を行うオンサイトまで、全社一体となったサービス品質向上運動を展開。7月からはPart IIとして、さらなる品質向上運動の徹底、危機管理の充実、設備の点検管理の充実に向けた取組みを行っている。この運動を展開するに至った経緯は、以下の通りである。
 NTT東日本では、これまでにも故障時の迅速・適切な対応、災害時の通信手段の確保に向け、様々な取組みを行ってきていたが、最近のIP・BB(ブロードバンド)系サービスの普及・拡大という通信環境の大きな変化に伴い、お客様サービスの向上といった観点から、従来とは異なる新たな取組みの必要性に迫られていた。
 このためNTT東日本では、昨年9月、IP・BB系サービスの品質向上に向けた推進委員会を社内に設置。緊密な情報連携による適切なお客様対応、サービス回復時間の短縮化に向け、積極的な取組みを開始した。この間、業務構造改革として、メンテナンス業務のアウトソース化を平成14年〜15年にかけて実施したことも踏まえ、この活動を、IP・BB系サービスにとどまらず、既存の固定電話系サービスにまで対象を拡大し、NTT東日本が提供するサービス全体を包含した「お客様第一主義によるサービス品質運動」を全社的に展開することとしたのが取組みの経緯である。サービス対象を拡大して全社運動として展開するに至った主な背景として、以下のような点があげられる。

(1)最近の故障事例

 従来、故障が発生した場合に、サービスフロントと、サービスオペレーション、オンサイトが連携し、お客様への対応を実施してきたが、最近は、お客様から故障発生状況や回復予測時間さらには途中経過情報なども求められるケースが増えてきた。
 さらにIP・BB系サービスは、故障発生がアラームとして通知されず、発見・回復に時間がかかり、お客様に長くご迷惑をかけることもあった。特に企業において、情報通信システムが重要なビジネス上のインフラとなっていることから、故障回復時間のより一層の短縮化に対するニーズが強くなっている。

(2)既存設備の老朽劣化

 既存の固定電話系設備の老朽劣化が今後進むことから、設備の点検・管理を含め、より一層の充実化が必要となっている。

(3)業務構造改革リファインNTT東日本では、業務構造改革

 そしてリファインをここ2年間連続的に実施してきている。これまでのメンテナンス業務をアウトソースする会社としてME東京やME神奈川などの県域ME会社をエリアごとに設置してきた。このような思い切った業務構造改革に伴うオンサイトの担当者のモチベーションを高めるために、共通の目的に向かってベクトルを合わせて邁進する運動として、「お客様第一主義」の徹底によるサービス品質の向上運動を展開することとした。

「お客様第一主義」をコンセプトにサービス品質の向上を図る


   図1 お客様第一主義によるサービス品質向上運動


 「お客様第一主義によるサービス品質向上運動」の概要を図1に示す。この活動のコンセプトは、お客様を第一に考え、サービスの品質をいかに向上させていくかにある。今回のサービス品質向上運動を統括するNTT東日本・サービス運営部の松岡稔部長は次のように語っている。
 「全社的に運動を展開するためにはある種の旗印的なものが必要です。このため、お客様に満足していただけるサービスをいかに提供するかという我々の原点に立ち戻って『お客様第一主義』を掲げました。これを縦の輪として、お客と直接対応するサービスフロントから、サービスの提供状況を監視・制御するサービスオペレーション、さらには現地保守を行うオンサイトの各レイヤをバインド・再構築することにより、サービス品質向上を図り、競争対抗の原動力にしたいというのが、今回の運動のコンセプトです。」単なる精神論だけでは実効は上がらないことから、具体的な取組みとして、以下の4つの柱を軸に、運動を展開している。

(1)迅速・適切なお客様対応
(2)サービスの早期回復
(3)設備管理の充実
(4)お客様第一のカルチャー定着

東日本電信電話(株)
サービス運営部長 松岡 稔氏

 NTT東日本のオペレーションは、お客様と直接対応するサービスフロントレイヤと、設備の故障や設備のサービス状態を常時監視・制御するバックヤードのサービスオペレーションレイヤ、さらには現地での保守を行うオンサイトレイヤの3つの階層から構成されている。「お客様第一主義」を各階層共通のコンセプトとして、エリアごとにサービス提供状況やお客様の緊急度などを踏まえて、運動を展開している。具体的な運動の取組みは、NTT東日本のサービス運営部と法人営業本部が連携し、社内各部門、支店、グループ会社と一体となって展開している。なお、品質向上運動の具体的取組みは、IP・BB系サービスはサービス運営部のIPマネジメント部門(鈴木康之担当部長)が、既存の固定電話系サービスはサービス運営部のネットワークマネジメント部門(佐藤辰也担当部長)が、また、法人営業本部は、ソリューション第一営業部が担当している。
 次章以降で、具体的な取組みとその成果を紹介する。
東日本電信電話?(株)
サービス運営部 IPマネジメント部門
担当部長 鈴木 康之氏
東日本電信電話?(株)
サービス運営部 ネットワークマネジメント部門
担当部長 佐藤 辰也氏

メールやWebを活用して迅速なお客様対応を実行

 お客様へのサービス提供状態は、サービスオペレーションレイヤで監視しており、一旦異常を検知した場合には、このレイヤのスタッフが、故障状況、措置状況をサービスフロントに連絡し、お客様へはAM(アカウントマネージャー)等が連絡する役割を受け持っている(図2参照)。


       図2 迅速なお客様対応への流れ

 サービスフロントレイヤでは、どういった故障が発生しているか、故障回復時間は、どれくらいであるかといった情報をメール等で受け、お客様対応にあたっている。
 「以前は、『故障が発生しています』という通知のみだったためにお客様に不安を抱かせることもありました。そこで、故障とその対応状況を明確化し、どのくらいの時間で回復できるかといった詳細を知らせることにより、お客様の不安を取り除くことができるようになりました。」とNTT東日本・サービス運営部ネットワークマネジメント部門佐藤辰也担当部長は、語っている。
 社内メール等に記載する必要事項と必要性を明確化したことにより、AM等への故障回復見込み、故障状況等の迅速な情報配信の徹底を図っている。さらに社内ホームページ等への故障情報の掲載により、誰でもリアルタイムに必要な故障情報を把握することが可能となった。この2つの伝達手段により、AMに対して、お客様への迅速な駆け付けや、情報連絡の徹底化を実現することができた。

専門技術者組織によるサービス回復措置の迅速化

 IP・BB系装置をはじめとして、NTTの現場には、様々な機器が配備されている。これらの機器の中には、修理にあたって、独自の工具や測定装置が必要となってくるものがある。そのためこれらをオンサイトのサービスセンターに「駆け付けキット」として、サービスごとに一式取り揃えている(写真1参照)。

   写真1 サービスごとに「駆け付けキット」を用意

 駆け付けキットは必要箇所にすべて用意され、修理担当者は出動時に携帯するようにしており、万が一取替えが必要となった場合など、早急に対応することが可能となった。さらに必要な予備パッケージなども駆け付けキットと合わせて配備基準を定めて準備しておき、迅速な故障対応を可能としている。このような準備を徹底することにより、早期サービス回復に役立てている(図3参照)。


      図3 サービスの早期回復

 また、故障回復にあたっては、オンサイトの技術者をサポートする専門技術者を組織化し、サービス中断時間の短縮化等に努めている。さらに、実装置さながらに構成した研修設備を使用し実践的演習を定期的に実施したり、専門技術者組織によるさまざまな故障の検討を行うなどにより、スキル、ノウハウの蓄積を図っている。サービス運営部IP マネジメント部門の鈴木康之担当部長はサービス回復について次のように語っている。「固定電話系の場合とIP・BB系の違いとして、固定電話系の故障は過去の経験上から修復する手順がほぼ決まっていますがIP・BB系の故障は、運用開始後に初めて経験する故障があり、故障要因の分析、対策、再発防止、試験ツールの改善等、ノウハウを蓄積し対策を迅速に実施することが重要です。そのため、オペレーション側やオンサイト側で対応した担当者を含めた要因分析を行っています。その中で故障の要因分析、課題の抽出、対策の検討を実施することで実践に役立てていきます。」
 加えて、サービスフロント・サービスオペレーション・オンサイトの各レイヤが連携して作動するかどうかについても検証を行っている。検証の範囲は、駆け付ける体制が徹底しているか、情報が正しく流れているかどうか、オンサイトは迅速に行動しているかどうか等、すべて含まれている。この検証を年数回行うことで、今までのNTT東日本のサービス運営体制の再認識を徹底化させている。

監視端末やプロセス管理システムを配備した、充実した設備管理

 NTT東日本の設備は、多くの場合冗長構成を取っており、故障が発生した場合には、冗長構成を利用して、まず、お客様へ提供している「サービスの回復」を実施し、次に故障箇所を修理する「設備回復」を実施する。これを確実に実施するためには、現在の設備がどのような状態になっているか、オペレーションレイヤでもオンサイトレイヤでも的確に把握しておくことが重要である。オンサイトレイヤの修理担当者がどのように対応して、どのような作業を実施し設備回復しているかについての全体像を把握するため導入しているのが、プロセス管理システムである。
 図4に示すように、故障発生時、監視をしているサービスオペレーションレイヤから速やかに故障の修理要請がオンサイトレイヤに通知される。それを受けてオンサイトレイヤから修理担当者が迅速な復旧を行い、その修理状況、修理内容をシステムに登録する。これらの情報は、トラブルチケットと呼ぶ電子伝票の形で各レイヤ間で授受されるが、この受け渡しと管理を行うのが、プロセス管理システムである。
 このシステムを活用し、故障した設備に収容されているお客様を迅速に把握し、サービスフロントへ通知することによりお客様への適切な対応が可能となった。


          図4 設備管理の充実

 前述の一連の作業を実施する上で基本となっているのは、お客様がどのような設備に収容されているかといったデータベースである。これをいかに最新の状態にアップデートしておくかも重要であり、今回の「お客様第一主義」運動の展開に合わせて、その整理も実施した。

ポスター/ホームページ等で啓蒙活動を実施

 NTT東日本は、各支店、オペレーションセンタ、県域ME会社を含めたグループ会社全体で、「お客様第一主義によるサービス品質向上運動」を浸透させるために、お客様第一のカルチャーの啓蒙活動を進めている(図5参照)。


     図5 お客様第一のカルチャー定着

 専用ホームページ(図6参照)では、サービス品質向上運動の各支店の取組み、各組織の運動体制、各部門のシステム紹介、施策の紹介等が、社内向けに自由に閲覧できるようになっている。


   図6 社内イントラネット上にホームページを開設

 さらに各グループ会社と、固定電話・専用線・IP・BB系においてサービスレベルを設定することで、サービス回復時間の短縮を図っている。こうした啓蒙活動だけでなく、サービス品質向上カルチャーをさらに醸成するために、県域ME会社等のグループ会社とのサービスレベルの設定を実施している。
 こうして、NTT東日本が各県域エリアの運動を推進するようにグループ会社を含めた推進体制を確立したことにより、各県域エリアの独自施策の実施が行われ、他県域エリアへの展開に繋がった。

Part Iの運動強化とPart IIの運動への取組み

 NTT東日本は、本年7月より、サービス品質向上運動のPart IIを実施している。
これは、Part Iで実施した施策の定着化を図るほか、サービス提供までの納期の短縮化を実現するなど、広い意味での「サービス品質の向上」をねらいとしたものである。
 また、サービス品質をお客様に実感していただけるよう、この商品化・メニュー化を図るべく具体化を進めているので、その成果に期待したい。
 NTT東日本の重要な資源の一つは、長い期間をかけて培ってきた熟年技術者である。NTT東日本においては、Part IIの運動の一環として「技術者ルネッサンス運動」を展開しているが、これはNTT東日本グループの屋台骨を支える技術者に対する会社からのメッセージと言える。

《お問合せ先》

NTT東日本(株) サービス運営部
TEL:03-5359-4903




 ネットワークオペレーションセンタのミッションは、NTT が提供するサービスの基盤である電話、専用線、インターネットなどの通信設備の異常を、兆候の段階で発見し、重大な事態に至る前に回復させることである。異常をキャッチすると、速やかに故障箇所や故障内容を確認し、回復作業に取り掛かる。現地での故障回復措置が必要な場合には、NTT グループ等が修復作業を担当し、速やかな故障回復を図っている。
 ネットワーク上を疎通するトラヒックについても24 時間の監視体制により、NTT東日本・NTT西日本・NTTコミュニケーションズ3社のトラヒックを一元的にコントロールしている。
 今回の「お客様第一主義運動」についての取組みと大規模災害に対する取組みについて報告する。

■ IT 化ツールを駆使したサービス品質向上への取り組み

1.迅速なお客様対応に向けた後方支援
 お客様への迅速な対応を行うためには、トラブルの情報提供が必要不可欠となる。そこで「故障情報リアル配信システム」を構築し、刻々と変わるプロセス情報をお客様対応窓口へリアルタイムでの配信を可能とした。

2.故障情報の共有化と故障回復プロセス管理の強化
 「故障情報リアル表示システム」を構築し、サービス別、設備別、支店別に体系化し故障から回復までのプロセス情報の共有化をリアルタイムで可能とした。「故障回復進捗管理システム」は設備の状態を集中管理し、設備の健全性維持に重要な役割を果たしている。

3.ネットワークのEnd〜End監視強化施策
 ネットワークのEnd 〜 End 監視・管理システムにより、お客様単位のネットワーク管理や迅速なお客様対応に威力を発揮できるものと期待している。

■大規模災害(地震等)等に対する取組み

1.きめ細かなトラヒックコントロール

 大規模災害時等における通話集中による輻輳を防止するため、トラヒック制御システム(TCS)を用い、通話の集中の発生を自動的に検出し、また、通話の集中が予想される場合は事前に措置することで、発着信側の交換機を制御し、通信量のコントロールを行うなど、24時間365日リアルタイムできめ細かなトラヒックコントロールによる通信の確保を図っている。

2.災害用伝言ダイヤルシステムの迅速な運用

 本年5月から9月にかけ連続的に発生した宮城県沖地震・十勝沖地震など、災害が発生した場合、安否の連絡や問い合わせなど、被災地に対する通話が集中し電話がつながりにくくなる状況が発生する。
 このような状況を解消する情報連絡手段として、安否情報等の円滑な伝達を図ることを目的とした「災害用伝言ダイヤル」の運用管理を行っている。


    24時間リアルタイムでネットワークを監視する
    NTT東日本のネットワークオペレーションセンタ


■通信インフラを支える姿勢はこれからも続く

 ネットワークオペレーションセンタは全国のトラヒックをコントロールする東日本ネットワークオペレーションセンタ、ネットワーク設備を監視・制御する北海道、東北、長野、新潟、東京、埼玉の各ME‐ネットワークオペレーションセンタから構成されたグループフォーメーションにより、お客様サービスの向上に取り組んでいる。
 平成15年8月には、全センタ一体でISO9001の認証を取得するなど、今後もお客様に安心と信頼される、サービス品質を提供していく。







Copyright:(C) 2003 BUSINESS COMMUNICATION All Rights Reserved