●レゾナントコミュニケーション環境の実現に向けたNTTコムウェアの取組み
常務取締役
NTT営業本部長 
杉本迪雄氏

 

 


RENAを活用した業際連鎖モデルの創造に向け、まずはNTTグループ内のWeb的連鎖のテストベッドを企画・提案

“光”新世代ビジョン。NTTがグループをあげて取り組んでいるこの“光”を使った来るべきレゾナントコミュニケーションの世界は、私たちの社会・生活を大きく変えてしまうのではないか、という期待感にあふれている。このレゾナントなコミュニケーションネットワーク環境の実現、さらには新しいビジネスモデルの創出に向けたNTTコムウェアの取り組みについて、対NTTグループのフロント営業を陣頭指揮する杉本迪雄常務取締役・NTT営業本部長に聞いた。

■NTTグループに対する
企画・提案力を強化

―まず、NTT グループに対する営業部隊を率いるお立場で、最近のビジネスの状況からお聞かせください。

杉本 NTTグループを中心とした通信サービス業界を見ると、急速なブロードバンド化とADSLの急速な伸びに加え、インターネットサービスの爆発的な普及とIP 電話サービスによる電話ビジネスへの侵食により、既存電話網の衰退傾向が顕著化し、IPによる技術の大転換、規制緩和による競争環境の激化、市場ニーズの変化による収益源のシフトといった通信業界のパラダイムシフトに伴い、熾烈な競争時代に突入しています。こうした厳しい市場環境下で、NTTグループ市場に軸足を置く当社としては、より一層の生産性向上により、NTTグループのサービス基盤を下支えするとともに、将来展望に立った付加価値ある企画提案を通じて、NTTグループのビジネスの発展に貢献していきたいと考えています。併せて、こうした企業姿勢を基本として、NTTコムウェアのコアコンピタンスを生かし、NTTグループ以外の市場の開拓を強化していこうとしています。

―7 月1 日の組織改編で、ドコモ営業本部を統合された。

杉本 一元的な営業体制にしました。これは、今後の通信業界を睨んで、NTTグループに対し、営業本部を統合することで、これまでの個々の営業活動で蓄積したノウハウを融合し、企画・提案力を強化することが狙いです。IT 営業本部でカバーしている一般市場は、新規参入組ということもあって、やはりテレコム同様、厳しいのは事実です。そうした傾向の中で当面は、厳しい状況が続くと思っていますが、14年度決算では一応累損を解消できましたので、この状況を持続していかなければなりません。当面は新規企画提案による受注・売上増と併せて、システム生産・サービス提供方式にも大幅な改善を加え、抜本的生産性向上を通じて、市場競争力を確保していくことが喫緊の課題であると認識しています。この延長線上に、本日のテーマであるレゾナントコミュニケーション環境の実現に向けた市場が創生され、徐々に活性化すると思いますので、これをしっかりと牽引、支援できるようにしていくことが重要だと考えています。

■RENAは、これまでの社会・産業構造を変革する起爆剤になる

―それでは、本題に入りまして、昨年11 月25 日にNTT 持株会社発表した「“光”新世代ビジョン−ブロードバンドでレゾナントコミュニケーションの世界へ−」について、どのような感想をお持ちですか。

杉本 この5年先を想定した事業構想「レゾナントコミュニケーション」からは、光による新世代のコミュニケーション環境(RENA;ResonantCommunication Architecture)により、人々あるいは企業の英知がお互いに共鳴し、響き合いながら増幅され、安全で豊かな社会生活の実現や企業活動の生産性向上・産業競争力の強化に結びつくといったイメージが読み取れます。レゾナントという言葉が必ずしも一般的でなく、国民あるいは企業の方々には、なかなか具体的なサービスの利用シーンが見えにくいのではないかという気がしますが、社会生活や経済活動に新たな変革がもたらされることは間違いありません。

―2007 年に年間64 兆円規模という膨大な経済効果を目指している

杉本 レゾナントコミュニケーションの真の意義は、産業の活性化に加え、業際を超えたコラボレーションや新規ビジネスモデル、サービスの創造を目指しているという点にあると思います。個性化の時代を迎えた現在、これまでのような行政も含めた縦割型の社会・産業構造を変革することが必要だと考えています。大量生産・大量消費型のビジネスモデルを支えてきた20 世紀型の縦系列の社会・産業構造から脱却し、横の連携をもっと加速していかないと、日本社会は必ず疲弊してしまいます。企業内の個々の組織、個々の業界、個々の官公庁の個別最適化ではなく、組織間、業界間の業際連鎖のバリューチェーン、ビジネスの連鎖を図っていくことが極めて重要です。そのインフラとして活用できるのがRENAであり、RENAはこれまでの社会・産業構造を変革する起爆剤になり得ると考えています。

■“光”新世代ビジョンの実現に向けた総合プロデュース機能は斬新

―“光”新世代ビジョンの実現に向けて、NTT持株会社内に「総合プロデュース機能」が整備されましたが、グループ会社としてこの点についてはどのようにお考えですか。

杉本 シーズ一辺倒ではなく、各事業会社のニーズと市場の動向を踏まえつつビジョン実現に向けて取り組むという総合プロデュース機能のコンセプトは明解で、NTTグループ内の事業会社ごとにニーズが多様化する中で、事業会社とも密接に連携し、実用化開発を推進するというスタンスは非常に重要だと思います。しかも、NTTグループ以外の企業や団体などとのアライアンスも視野に入れて、先進的ビジネスの開拓と積極的な事業化活動を展開していくとしていますので、高く評価すると同時に、大いに期待しております。

―事業会社のニーズを吸収するといっても、それぞれが自主事業を立ち上げようとしているわけですから、なかなか難しいのでは

杉本 困難な課題が多々、存在するのも事実ですが、実ニーズを把握し
ない限りは良いものはできない、市場も顕在化しないわけですから、グループ事業会社、市場を巻き込む色彩をより濃くしていくことが重要だと思います。

RENAの基盤構築のSI、NIに加え、ビジネスモデル創出も行っていきたい

―“光”新世代ビジョンの実現に向け、総力をあげて取り組むとしていますが、これとリンクするような形でのNTTコムウェアさんの取組みの方向性をお聞かせください。

杉本 これには2つの方向があります。1つはRENAというのはアーキテクチャーですから、それを支えるプラットフォームとか基盤が必要です。SI’erあるいはNI’erとして、その構築の過程でお手伝いをすることは、今まで蓄積してきた当社の特徴を生かしたビジネスそのものですから強力に推進していきます。
 2つ目はRENAのビジネスモデルを、NTTのご指導も仰ぎながら、お客様の声に耳を傾け、創出していくというミッションがあると思っています。それは、上位の高付加価値レイヤにおける利用シーンを想定した具体的なビジネスモデルの提案です。個社単独ではなく、NTTグループのパートナーあるいは一般のお客様と一緒になって、“協創”することがレゾナントの所以だと思います。例えば、NTTグループには、日本の業種・業態の縮図が凝縮しています。

―広告、教育、金融、物流をはじめ、あらゆる業界にわたっている。

杉本 RENAを展望したビジネスモデルの創出に関して、いきなり一般市場に飛んでいかなくても、グループ業界の英知を結集すれば、そのベースモデルは描けるはずです。NTTコムウェアとして、ある想定のビジネスモデルのもとに当該関連社に集まっていただき、場合によっては関連会社の先の企業も一緒に、RENAに向けた具体的なビジネスモデルの創出に向けた取組みをできるだけ早期に行いたいと考えています。

まずはNTT グループ内のWeb 的連鎖のテストベッドを企画・提案

―どのようなビジネスモデルを想定していますか

杉本 NTTグループ内で数多くのシステムが稼動しています。例えば、企業間の受発注・購買取引を含むCRM、SCMは企業活動の基幹部分を担うビジネスプロセスですが、いずれも区々であり、個別最適化の域を出ていません。ビジネスプロセスを統一して、RENA-ITの共通基盤を構築し、その上に実プレイヤーとして各社にのっていただくことでスケールメリットを生かし、個社単独でプレーするよりも、大幅なTCO削減を期待することができます。この過程でRENAサービス制御プラットフォームの認証・セキュリティ・位置管理、更にはAuto-ID・センサ技術等の適用とあいまってCRM、SCMプロセスの飛躍的高度化が図られていくことなります。グループの統合効果、シナジー効果というのも、RENA構想の重要な論点の一つだと思っていますので、この面でも貢献していきたいと考えています。

―RENAのキーワードとして、“高速大容量・双方向のブロードバンド”“ユビキタス”“リテラシーフリー”の3つがありますが、これを活かしたプラットフォームビジネスですか。

杉本 その3つのキーワードを世の中のニーズといかに上手く組み合わせるかが重要です。RENAの大きな特徴の一つとして、「可処分“知”」の協創による2つの行動モデルの出現があげられています。一つは、「個倍化」という個人の行動モデルで、もう一つは、「Web的連鎖」という企業活動の行動モデルです。前者のBtoCのCの領域に関しては私どもがダイレクトに参入するというのは非常に難しい。やはり企業活動の高付加価値化・高度化という観点で、RENAの特徴を活かせるようなビジネスモデルを描き、提案していくことが最重要課題だと捉えています。そのために、前述したように、日本の業種・業態の縮図としてのNTTグループ内において、まずはWeb的連鎖のテストベッドを立ち上げることを企画立案し、そこでプロセス、結果を検証していくことにより世の中へのリアルな説得材料を蓄積していくことも必要です。そのためには、RENAの統一基盤上で、個社最適化ではなくてグループ最適化の視点にたったビジネスフォーメーションの確立が必要であることは論を待ちません。

図2 バリューチェーン全体への取組み


―個倍化に関するビジネスアイデアはお持ちですか。

杉本 後述するネットコミュニティコンサルティングなどが該当しますが、いずれにしても早く目利き役になる企業を獲得することが重要だと思います。これらの活動には私どもも積極的に参加して、バリューチェーンの創出を行っていきたいと考えています。

―すでに、20程度の実験プロジェクトが行われていますが、貴社が参画しているものもあるのですか。

杉本 直接ではありませんが、NTTBB(NTTブロードバンドイニシアティブ)社に協力する形で大容量のライブ配信・TV電話・リアルタイム配信という試行サービスへの参加をしているプロジェクトが数種あります。

RENAは社会資本であり、ユーティリティネットワーク

―RENA の実現に向けて、どのような点が重要だとお考えですか。

杉本 先ほどもお話ししましたが、要はバリューチェーン、あるいはビジネスの連鎖というのは、業界の縦割構造で流れているのではなく横のコラボレーションで流れているわけです。そのためのお役に立つようなRENA構想の具体化であって欲しいと思います。最近、個別最適化から全体最適化に向けての動きを象徴的に物語る“EA (Enterprise Architecture)"という言葉が盛んに使われていますが、RENA構想もこの概念を超えるGA (Group Architecture)、NA(NationalArchitecture)の視点を持つべきではないでしょうか。NTTグループに関しても、シナジーを確保するためにグループの統一基盤をRENAで作り上げることが重要で、この構築を通じて、例えばe-Japan構想の中にトランスファーするとか、産業界に横串を入れるようなコンセプトに昇華していくことが必要です。私は、RENAは公器、社会資本であり、業際間連動のビジネスインフラ、ユーティリティネットワークとして作りあげていくことが必要であると捉えています。

―業際間連携のインフラの先には、当然各企業のお客様がいるわけですから、そこも一体的に取り込むようなビジネスモデルが考えられる

杉本 そうですね。個社別のWeb的連鎖にとどまらず、業際的連鎖のビジネスインフラとしてのRENAの活用です。例えば、製造業において個社に閉じて、設計プロセスと製造プロセスをいかに効率的に行うかということも大切ですが、社会システムとしての全体最適の視点からは別のアプローチが見えてくるはずです。

―最後に、今後の展開に向けた抱負をお聞かせください。

杉本 日本の産業を活性化させるためには、繰り返しになりますが、世の中が大きく変革してきている現在、それに見合うようなビジネスモデルを真剣に考えていかないと、世界から取り残されることになります。近年、“選択と集中”という言葉がよく言われます。米国企業は、例えば、マーケティングと販売だけを自社のコアコンピタンスとして実践、製造はアウトソーシングするといったように、そのメリハリを90年代からつけてきました。大量生産型の20世紀型企業では、そのプロセスをすべて自社内に保有していましたが、個性化の時代の到来とともに、崩壊したわけです。1社の中にすべてのビジネスプロセスを閉じ込めるような世界ではありません。そうなると、他社との間のリレーションシップ、連鎖を上手くと
っていかないと、トータルとしてのビジネスモデルが流れません。プロセスの分解と再構築、“ディコンストラクション”です。

図3 エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)体系


―従来のバリューチェーンの分解・再構築ですか。

杉本 “ディコンストラクション”とは、従来の事業の定義や競争のルールを異なる視点で捉え直し、既存のバリューチェーンを分解・再構築することによって、自社の強みを活かした新しい事業構造を創り出すことを意味しています。ディコンストラクションによって、従来の1社に閉じたビジネスプロセスが崩壊し、多企業・多国籍連携のもとでのビジネスモデルへと変革するわけです。多企業・多国籍間でのビジネスプロセスの連携プレーが必要で、自ずとグローバルRENAという社会資本が必要となります。

―企業横断的なビジネスプロセスの遂行には、
共通の器が必要になる。

杉本 その役割をRENAが果たす、あたかも1社企業で行ってきたプロセスを、バーチャルで流す、それをRENA基盤で支えるというビジネスモ
デルがありますね。部品調達やアウトソーシング先も国際的に拡げ、それが国際間での水平分業レベルまで発展していかないと、グローバル化の波に取り残されてしまいます。いずれにしてもNTTコムウェアとしては、社会資本、ユーティリティネットワークの実現を目指しRENAのリソースが活用できるよう、新しいビジネスモデルの開拓も含め、積極的に取り組んでいきたいと考えています。


―本日はありがとうございました。

(聞き手:本誌編集長 河西義人)


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